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「極主夫道」おおのこうすけが主要キャラを描き下ろし!『BOSS/ボス』は強面×愛嬌のクセ強キャラ&実力派キャストが弾ける、斬新な韓国ノワールだ

  • 2026.10.6

韓国で2025年秋に公開され、観客動員数244万人のヒットを記録した『BOSS/ボス』(10月23日公開)。4人組歌謡コーラス・グループ、モナキが日本語吹替版の声優を務めることでも話題を集めている本作は、韓国映画お得意のノワール劇を新しい視点で描いたコメディだ。

【写真を見る】料理上手のスンテ、ダンスに情熱を燃やすガンピョ、人望ゼロのパノ…次のボスになるのは誰だ!?

ヤクザ組織のカリスマボスが不慮の死を遂げ、彼を支えていた3人の男が次期ボスの有力候補に。しかし、本命のスンテ(チョ・ウジン)は自身の中華料理店をチェーン展開することに夢中でやる気ゼロ。対抗馬のガンピョ(チョン・ギョンホ)は収監中に社交ダンスに目覚め、タンゴダンサーになる夢を持ったことでボスの座には興味ゼロ。やる気は人一倍のパノ(パク・ジファン)だが、気性が荒く単細胞で人望ゼロ。そこにスンテの店に潜り込んだ潜入警官のテギュ(イ・ギュヒョン)も加わり、前代未聞の後継者争いが始まる!

「極主夫道」おおのこうすけが『BOSS/ボス』の主要キャラ4人を描き下ろし! イラスト/おおのこうすけ
「極主夫道」おおのこうすけが『BOSS/ボス』の主要キャラ4人を描き下ろし! イラスト/おおのこうすけ

かつて“不死身の龍(たつ)”と呼ばれた元ヤクザの料理・洗濯・掃除といった主夫業の日常を描いた漫画「極主夫道」。累計発行部数900万部を超え、アニメ化、そして玉木宏主演で実写ドラマ&映画化もされた同作の作者である、おおのこうすけが『BOSS/ボス』をひと足早く鑑賞し、主要キャラクター4人を描き下ろし!強面男のギャップが魅力的という点で「極主夫道」とも共通点の多い本作を「責任を逃れるために必死になってるおじさんたちっておもしろい。殺気と愛嬌は両立するんだなって思いました」とコメントしている。ちなみに推しキャラは「勢いがある真面目ポンコツキャラが好き」という理由でテギュの名前を挙げてくれた。韓国映画やドラマで見覚えのある俳優たちがクセの強いヤクザを演じ、大いに魅力を発揮している本作は、これまでの韓国ノワールとどういった点で異なるか?各キャラクター&キャストの特徴と合わせて紹介していこう。

元ヤクザの主夫の日常を描いたアットホーム任侠コメディ「極主夫道」 [c]おおのこうすけ/新潮社
元ヤクザの主夫の日常を描いたアットホーム任侠コメディ「極主夫道」 [c]おおのこうすけ/新潮社

顔は地味だがスーパースター!カメレオン俳優チョ・ウジン

「ヤクザもの」で親分が急死すれば、当然ながら勃発するのは後継者争い、過去の義理も兄弟の契りもへったくれもない、血で血を洗う仁義なき闘いが始まるものと相場がきまっている。韓国映画『BOSS/ボス』はそのすべてを軽やかに裏切ったコメディだ。親分の急死を受けた後継者選びで、始まるのは「ボスの譲り合い(押し付け合い?)」なのだ。

物語は1999年から始まる。舞台は架空の地方都市ヨンドゥ市。昔気質のヤクザであるテス(イ・ソンミン)を擁する地方暴力団「シック組」は、周辺の小さな組織を次々と制圧し組織を拡大中だ。その功労者はイキのいい若頭たち――料理上手で冷静沈着なスンテ、クールでスタイリッシュなガンピョ、ガスボンベで敵にカチ込む狂犬パノの3人だ。「ゆくゆくは3人のうちの誰かに親分を譲る」というのがテスの口癖で、その筆頭がスンテである。

【写真を見る】料理上手のスンテ、ダンスに情熱を燃やすガンピョ、人望ゼロのパノ…次のボスになるのは誰だ!? [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
【写真を見る】料理上手のスンテ、ダンスに情熱を燃やすガンピョ、人望ゼロのパノ…次のボスになるのは誰だ!? [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

そして、現在。企業舎弟へと形を変えた組織は、それでも暴力団丸出しのスタイルでホテル経営に乗り出し、当然ながらパッとせず、いまやすっかり時代遅れの存在になっている。ヤクザよりも料理人として中華料理店を繁盛させているスンテは、しっかり者の妻に尻を叩かれて店のチェーン店化を計画中。銀行融資を受けるには「反社でないこと」が条件で、どうにかヤクザ稼業から足を洗おうと決意。やっとのことでその許可をもらった夜に親分テスが急死、スンテは新たなボス選びに問答無用で巻き込まれるハメになる。なにが困るかといえば、スンテはその冷静さと度量の大きさで、組織内において全方位的に信頼が厚いことだ。

映画は、本命候補スンテがあの手この手で繰り広げる「ボス落選運動」を中心に進んでいく。スンテを演じるチョ・ウジンは、「見たことのある地味顔おじさん」という韓国映画・ドラマファンも多いだろう。ドラマ「江南Bサイド」の一匹狼の刑事、「ナルコの神」のクセ者ヤクザ、「ハピネス -守りたいもの-」の冷徹な軍人などのハード系はもちろん、映画『ハルビン』(24)ではマジメな顔で裏切りを匂わせる独立運動家、『超時空英雄伝エイリアノイド』二部作ではおとぼけ魔術師として笑いを振りまき…と、シリアスからコメディ、泥臭さ系からスマートまで、善人悪人、強者弱者、なにをやっても上手い俳優だ。この数年はすっかり主役級で定着しつつあったが、本作はその決定打といっていい。

中華料理店・美味桜(ミミル)を経営するスンテ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
中華料理店・美味桜(ミミル)を経営するスンテ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

前半で最も印象に残るのは、イ・ソンミン演じる落ち目の親分テスとの場面だ。情けなくも優しく、そして笑わずにはいられないやりとりは、2人の俳優の演技を存分に味わえる名場面だと思う。自分が作ったジャジャン麺をガツガツと食う腹ペコ若衆たちに向ける満足げな笑顔、彼らから自然と沸き起こる「スンテコール」に頭を抱える姿、かと思えばなににも翻弄されない大人の冷静さと肝の座りっぷり、そして低音のイケボ…失礼ながら「チョ・ウジンってこんなカッコよかった?」と、きっと誰もが思うに違いない。

イ・ソンミン演じる昔気質のテス [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
イ・ソンミン演じる昔気質のテス [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

現代韓国エンタメに欠かせないパク・ジファン&チョン・ギョンホ

誰からも期待されていない残念なパノ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
誰からも期待されていない残念なパノ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

これに対抗する2人の「ボス候補」も、存在感として負けていない。

スンテをライバル視するパノは、「男ならテッペンとってなんぼ」とイキる(が、中身は完全なチキンの)旧来型の狂犬ヤクザ。演じるパク・ジファンは、映画「犯罪都市」シリーズで、毎回マ・ドンソクに締め上げられ使い走りにされている元ヤクザ役(1作目ではヤクザ組長)で知られる。いまの韓国のエンタメ界でこの手の役をパク・ジファン以上におもしろく演じられる俳優はいないだろう。「俺がやるからよ」とドヤ顔でしゃしゃり出るたびに、その場にいる全員に否定されるというお約束の場面は、その表情その佇まいの情けなさに、何度見ても吹いてしまう。

見事なダンスステップを見せるガンピョ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
見事なダンスステップを見せるガンピョ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

スンテの対抗馬ガンピョは、「次期ボスになる」という約束で刑務所に入った先々代親分の息子だ。後継者を決める組織内投票のタイミングで出所してきた彼は、息子を親分にしたい一心の母親の強いバックアップで表舞台に躍り出るも、刑務所で運命的に出会った社交ダンスにドハマりし、これまた親分になることを拒絶する。演じるチョン・ギョンホは、大ヒットドラマ「賢い医師生活」の主演の一人で、主演作が絶えないコミカルな演技が上手いスター俳優。この役が彼への宛て書きでは?と思うのは、ドラマを含めた様々な場面でダンスをしている印象があるからだ。本作では乱闘シーンのアクションもすべて社交ダンス風で、最終盤のパノとの一騎打ちは、チョン・ギョンホは長い手脚を、パク・ジファンは濃ゆい変顔を、それぞれに駆使した爆笑の場面となっている。

潜入10年目!身元バレバレなテギュ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
潜入10年目!身元バレバレなテギュ [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

3人に加えて、スンテの右腕だが実は潜入警官で終盤で波乱を巻き起こすテギュを演じたイ・ギュヒョンについても特筆しておきたい。テギュは組織の一員ではあるが、むしろスンテの中華料理店の従業員といっていい存在だ。忠実な部下という体で現れながら、中盤以降の崩れっぷり(褒めてます)が凄まじく、これがスンテの冷静さ、シゴデキぶりを際立たせてくれる。

演じるイ・ギュヒョンは、韓国ドラマファンにはドラマ「刑務所のルールブック」の薬物依存症の囚人ヘロリン役で知られるが、最近作「なりすましの鼠」で演じた刑事役のようなハードな役柄もハマる。その2作品でもそうだったが、常に「なにかしらの秘密を抱えている」という含みを匂わせるのが上手い。終盤には「あのドラマ」を彷彿とさせる爆笑演技で、パク・ジファンに負けず劣らずの笑いを振りまいてくれる。

これまでの定石を鮮やかに裏切る新しい韓国ノワール劇

さて、最後にこの映画が1999年から始まる理由にも言及しておきたい。当時の韓国は、2002年のワールドカップ日韓共催を目指して、国家的なクリーン作戦が実行されていた。ヤクザは町から排除され、ヤクザ組織は、一見合法的な「企業舎弟」へと変貌してゆく。そうした社会的背景の中で2001年、失われゆく旧来型のヤクザをロマンティックに描いて大ヒットしたのが、伝説的ヤクザ映画『友へ チング』だ。また、ハ・ジョンウを大スターに押し上げた2013年の大ヒット作『悪いやつら』も、この時代が舞台として描かれている。2つの映画もそうであったように、組織が変質する時には必ず対立と陰謀があるもので、もちろん本作の「ボス選び」にも裏があるのだ。

組織の中での成功や出世よりも自分の幸せを叶えたいスンテたち [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.
組織の中での成功や出世よりも自分の幸せを叶えたいスンテたち [c]2025 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK, Inc ALL RIGHTS RESERVED.

だが本作は、そうした時代のロマン――言うなれば「破滅する男の美学」のようなものに、けっして憧れない。組織のテッペンをとってこそ男。大勢の子分や弟分を従えて肩で風切って歩くのが男。メンツのためなら命もなげうつのが男。組織あってこその自分――劇中でスンテの小学校の娘が言うように、そういうヤクザの前時代的「男らしさ」は、もはや「怖い」でなく「ダサい」という時代なのだ。そう考えると、現代風にアップデートされたスンテが慕われ、カッコよく見える理由も納得がいく。映画は「いまの時代の理想の上司」を描いているとも、言えるのかもしれない。

文/渥美志保

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