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90日を超える宇宙飛行のあとは、股関節の骨折が多いと判明

  • 2026.10.6
90日を超える宇宙飛行のあとは、股関節の骨折が多いと判明
90日を超える宇宙飛行のあとは、股関節の骨折が多いと判明 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

ギプスを外した日、思っていたより細くなった自分の腕を見て、なんだか心細くなった覚えがある人もいるはずです。

宇宙飛行士は、重さをほとんど感じない「微小重力」の環境で、何か月も暮らすことがあります。

そこでは骨や筋肉をあまり使わないので、骨や筋肉が少しずつ減っていきます。これは飛行士によく起こる体の変化として知られています。

では、地球に戻って体が元どおりになったと感じたあとも、骨にはその影響が残っているのでしょうか。

NASA(アメリカ航空宇宙局)ジョンソン宇宙センターの研究者らは、宇宙飛行士の骨折の記録を調べ、この疑問に迫りました。

この話題の詳細は2026年10月1日に『EurekAlert!』にて公開されました。

目次

  • 飛行士の骨折を「飛行士どうし」で比べた理由
  • 長く宇宙にいた飛行士で増えていた「ある骨折」

飛行士の骨折を「飛行士どうし」で比べた理由

飛行士の骨折を「飛行士どうし」で比べた理由
飛行士の骨折を「飛行士どうし」で比べた理由 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

NASAはこれから、6か月を超える長い宇宙ミッションをいくつも計画しています。

その中には、2028年に予定されている月の南極への有人ミッションや、火星を見すえて月面で長く活動するための準備も含まれます。

人が宇宙で過ごす時間が長くなれば、体力と健康を見込まれて選ばれた飛行士でも、骨の健康に長く悪い影響が出るおそれがあります。

やっかいなのは、骨が減っていくことを本人は感じられない点です。

研究を率いたジーン・シボンガ博士によると、帰還後に回復したと感じた飛行士は、骨に変化が残ったまま、体に負担のかかる活動を再開することがあるといいます。

ただ、論文に添えられた解説記事の著者の1人が指摘するように、飛行士の人数は少なく宇宙飛行もまれなため、こうした研究は正確さに限界があります。

そこで研究チームは、アメリカの宇宙飛行士が毎年の健康診断で報告したすべての骨折を、2018年から2022年にかけて調べました。

比べる相手を一般の人ではなく、飛行士の仲間うちにしたのも工夫の一つです。

飛行士はよく体を動かすので骨折しやすいのではないか、という見方による偏りを避けるためでした。

さらに、同じ人の重複や、人ごとの観察期間の長さ、グループの平均年齢のちがいも計算に入れています。

分析には、確率で考える「ベイズ統計」の方法を使い、データの少なさという壁を乗り越えようとしました。

比べたのは、90日を超える長い宇宙飛行のあとの期間と、そうした長い飛行をしていない期間、そして宇宙飛行そのものをしていない期間です。

長く宇宙にいた飛行士で増えていた「ある骨折」

長く宇宙にいた飛行士で増えていた「ある骨折」
長く宇宙にいた飛行士で増えていた「ある骨折」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

分析の結果、90日を超える長い宇宙飛行のあとの期間では、股関節(脚の付け根の関節)の骨折が起こる割合が高くなっていました。

これは、長い飛行をしていない期間とくらべても、宇宙飛行をしていない期間とくらべても同じでした。

どちらの比較でも、長い飛行のあとの方が骨折の割合が高い確率は99%を超えていました。

差の確かさを示す「ベイズ因子」という数値は、3を超えれば意味のある差とされますが、今回は140と832に達しています。

一方で、股関節以外の骨では、長い飛行のあとでも骨折の割合は同じくらいでした。

目立って増えていたのは、股関節の骨折だったのです。

さらに注目したいのは、骨折が起きた年齢です。

長い飛行のあとの期間にあたる飛行士たちは平均62.5歳でしたが、股関節の骨折の割合は、宇宙飛行士ではない70〜79歳の人たちと同じくらいでした。

骨折の割合で見ると、宇宙に長くいた飛行士は、8〜16.5歳ほど年上の人たちと肩を並べていたことになります。

宇宙飛行士では、一般の人より早い年齢で股関節の骨折の割合が高くなる。研究チームは、このことを報告したのは今回が初めてだとしています。

ただし今回示されたのは長い飛行と股関節の骨折の結びつきで、宇宙飛行が骨折を引き起こしたと確かめたわけではありません。

それでも、解説記事のもう1人の著者はこう述べています。予想より早い年齢で股関節の骨折が起きたことは、宇宙で減った骨が、長い目で見ると本当の骨折につながりうることを示す臨床的な証拠(実際の人の体で確かめられた証拠)だというのです。

シボンガ博士は、いまの骨の検査をもっと広げる必要があると訴えています。

これまでは主に、X線を使って骨密度(骨にミネラルがどれだけ詰まっているか)を測る検査が行われてきました。

NASAは最近、宇宙飛行の前と後に、骨をよりくわしく調べられるCT検査も始めました。

この検査では、骨の部分ごとの様子や、飛行士の骨が完全に元に戻ったかどうかについて、より詳しい情報が得られる可能性があります。

それが分からないままでは、まだ飛行前の状態に戻っていない骨に、飛行士が負担をかけすぎてしまうおそれがあるのです。

研究チームは、飛行前の骨の健康を保つための予防策も必要だとしています。

元気そうに地球へ戻ってきた飛行士の骨にも、目に見えない宇宙の名残が長く残っているのかもしれません。

以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「爪が剥がれる!?」意外と知られていない宇宙飛行士に最も多い怪我の理由)

人が宇宙で長く過ごす時代には、「無事に帰ってくること」と同じくらい、「帰ってから何年も元気でいること」が大切になりそうです。

参考文献

Study links 90+-day spaceflights to higher rates of hip fractures in astronauts (EurekAlert!)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1145758

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。 好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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