1. トップ
  2. エピソード
  3. 手放した本に自分の字で紙を挟んだ僕が、120ページから先を読めずにいた理由

手放した本に自分の字で紙を挟んだ僕が、120ページから先を読めずにいた理由

  • 2026.9.30
ハウコレ

「読んだら感想を聞かせて」。渡された本を先まで読めなかった僕は、その言葉を紙に書いて次の人へ回しました。3年後に返ってきたのは、僕が言うはずだった言葉です。

知らないアドレスからのメールが、画面に表示されました。開くと文は指で送っても終わらず、僕はいったん本棚に目をやりました。そこにはもう、その本はありません。

「読んだら感想を聞かせて」の本

本は6年前、付き合っていた人からもらったものでした。渡されたときの言葉は「読んだら感想を聞かせて」。僕は読むのが遅く、120ページまで来たところで、その人とは別れました。そこから先は、開いても同じページで本を閉じてしまいます。読み進めれば感想ができて、言う相手はもういない。それが分かっていて、先へ行けませんでした。本は3年、120ページで開かれては閉じられました。

自分の字で書いた1行

引っ越しの荷物を減らす日に、その1冊だけ、買い取りの箱に入れる前に開きました。連絡先はもう分かりません。感想を言う約束だけが、渡されたときのまま残っています。僕は白い紙に、あの人の言葉を鉛筆で書き写しました。「感想を聞かせてください」。下にメールアドレスを添え、一度消して書き直してから、120ページの間に挟みました。誰かが最後まで読んで、その先を教えてくれたら、約束は僕の手を離れて果たされる。そう思って、駅前の古本屋の台に置きました。

3年目に届いた、3つの画面

文の書き出しは「3年前に古本で買った本に挟まっていた紙を見て、連絡しています」でした。3度読んだこと、読むたびに感想が変わったこと、最後の章のこと。何度スクロールしても下までたどり着けない長さで、僕は最後の章の段落の手前で読むのをやめ、その先を見ないまま返事を打ちました。「読んでくださって、ありがとうございます。1つ聞かせてください。最後まで読まれましたか」。「3度読みました」と返ってきます。僕は本の事情を、渡された言葉のことから順に書いて送りました。「僕は120ページで止まったままです。この本は、付き合っていた人から、読んだら感想を聞かせてと渡されたものでした。別れてから先を読めなくなって、手放すときに、その言葉を自分の字で挟みました」。

そして...

「最後の章のことを、お話ししましょうか」と届きました。僕は「いえ。あなたの文を読み終えてから、続きを読みます」と返し、本棚の空いたところを見ました。同じ本を、これから買いに行きます。3年前に手放したときは、誰かに読んでもらうことしか考えていませんでした。約束は僕の手を離れて果たされるはずが、届いた文のほうが、僕に続きを読ませることになったのです。

(30代男性・印刷会社勤務)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ