1. トップ
  2. エピソード
  3. 妻の家計ノートの最後のページには、俺が言えずにいたことが先に書かれていた

妻の家計ノートの最後のページには、俺が言えずにいたことが先に書かれていた

  • 2026.10.1
ハウコレ

減らした振込のことを、妻は一度も口にしませんでした。ノートを開いて最初に探したのは、数字ではなく自分を責める言葉。それが、どこにもなかった話です。

換気扇の音の中で、俺はさっき口にした言葉を何度も聞き返していました。

言えないまま減らした3万円

結婚して3年、俺は会社員で、妻はパート勤め。生活費は毎月俺が共有の口座に振り込んでいます。

春に手当が外れて、手取りが減りました。妻に話す前に、振込の額を3万円減らしました。言えば心配させるし、言わなければ気づかれないかもしれない。その2つを都合よく足して、黙っていることを選んだのです。

妻は減った振込について、一度も口にしませんでした。気づいていないのだと思い込むほど、家で財布の話が出るたびに口調がきつくなっていきました。食事の後、妻が言いました。

「来月から、シフトを少し増やそうと思ってて」

足りない、と言われた気がしました。

「誰のおかげで暮らせてると思ってるんだ」

妻は席を立ち、2人分の皿を重ねて流し台へ運びました。水の音を背にして、俺は風呂場に逃げました。

定期入れの横にあった1冊

次の日、出かける支度をしていると、定期入れの横に見覚えのないノートが置いてありました。

「読んでからでいいから」

妻はそれだけ言って、流し台に向かいました。

開くと、家賃、光熱費、食費。右端に「夫」と「私」の欄があり、春からの俺の欄は、減らした後の数字がそのまま並んでいます。その隣で、足りない分を妻の欄が埋めていました。半年分、毎月です。

最後のページだけ、数字ではなく文章でした。

「足りない分は私が出しています。聞かないでいたのは、言いにくいことがあるのだと思ったからです」

最初に探したのは、自分を責める言葉でした。どこにもありませんでした。妻は気づいていて、聞かないでいてくれた。あの食卓で俺が投げた言葉の重さが、ここでようやくわかりました。

聞かなかった、と妻は言った

「見てたんだ」

妻が振り返りました。

「春から、手当がなくなってたんだ。言えなかった」

言い訳を続けようとして、やめました。減らした理由より、減らしたことを言えなかった弱さのほうが、このノートには正確に書いてあったからです。

「一緒に書いてほしかっただけ」

「帰ったら、2人で書き直そう」

定期入れを取り、ノートを鞄に入れました。

そして...

給料日には、俺が先にノートを開いて、右端の欄を自分の字で埋めています。給与明細は裏表紙の内側に挟んで、妻がいつでも見られるようにしました。

書く前に言う。それが、あの食卓のあとに俺が決めた、たった1つのことでした。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ