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目が見えない・見えづらい人にも、自分で選ぶ買い物の楽しさを。ロッテの新技術「ココヨム」がパッケージに刻んだ小さな工夫

  • 2026.9.28

机に置かれたプレミアムガーナの小箱。手に取ってそっと側面に触れてみると、角のすぐそばにかすかな凹みを感じた。わずかな四角い溝だが、視覚に頼らずとも「ここに大切な情報がある」と教えてくれる確かな目印。これが、株式会社ロッテがスタートさせた新技術「ココヨム」だ。

触って商品情報の位置が簡単に見つけられる「ココヨム」
触って商品情報の位置が簡単に見つけられる「ココヨム」

目が見えない人や見えづらい人にとって、スーパーやコンビニでの買い物は手探りの連続だ。パッケージのどこに商品名やアレルギー表示があるかわからず、スマートフォンの読み上げアプリをかざすことすら難しい。そんな日々の切実な困りごとを解決し、誰もが自分の手で選ぶ買い物の楽しさを感じられるようにと生まれた本サービス。指先で溝をなぞるだけで知りたい情報の場所にたどり着けるこの取り組みは、どのようにして生まれ、社会へ広がろうとしているのか。記者会見の模様を交えて、その背景とこれからの広がりをお伝えする。

スマホで読めるのに、どこを写せばいいかわからない

「これまでの技術が解決してきたのは『読むこと』でした。けれど、『探すこと』は置き去りにされたままだったのです」

【写真】「日本企業がこうしたパッケージの工夫から新しい当たり前をつくり、世界へ発信していく先駆けになることを強く期待している」と、将来的にグローバルな取り組みに成長してくれることを切望した垣内社長
【写真】「日本企業がこうしたパッケージの工夫から新しい当たり前をつくり、世界へ発信していく先駆けになることを強く期待している」と、将来的にグローバルな取り組みに成長してくれることを切望した垣内社長

開発協力に携わった株式会社ミライロの垣内俊哉社長が指摘するように、当事者を取り巻く環境には周囲が気づきにくい大きな壁が存在していた。

加齢に伴って文字が見えづらくなってきた高齢者や、普段から点字を読み書きしない視覚障がい者にとって、スマートフォンの画面読み上げ機能やカメラの文字認識アプリは日々の暮らしを支える必需品となっている。しかし、画面の向こうで文字を読み上げてもらうには、そもそも「カメラをどこにかざせばいいか」がわからなければならない。

本村あかねさんは、「当初は何をどう工夫すればいいのか手探りの状態だった。視覚障害のある当事者の方々に何度もプロトタイプを触ってもらい、『これならわかる』『ここがわかりにくい』という率直な声をいただきながら形にしていった」と、開発プロセスも明かしてくれた
本村あかねさんは、「当初は何をどう工夫すればいいのか手探りの状態だった。視覚障害のある当事者の方々に何度もプロトタイプを触ってもらい、『これならわかる』『ここがわかりにくい』という率直な声をいただきながら形にしていった」と、開発プロセスも明かしてくれた

ロッテ中央研究所の本村あかねさんが示した検証動画では、スマートフォンの読み上げアプリを従来のパッケージにかざした際、スピーカーから機械音声が途切れることなく文字情報を読み上げ続ける様子が映し出された。「ロッテ、300円、原材料名、ショートニング、植物油脂、アーモンド、エネルギー、33キロカロリー、タンパク質…」

箱の6面すべてに文字が散らばっているため、知りたい情報がどこにあるのか見当がつかず、全面を手探りで探し回らなければならない。全部聞くには途方もない時間がかかるため、普段から2倍速や3倍速にして耳を澄ませている当事者も多いという。読むための道具は手のひらにあるのに、知りたい情報の「場所」を探す手がかりがすっぽりと抜け落ちていたのだ。

本村さんが仕組みを説明する横で、製品を手に取り「ココヨム」の表示場所を指で示す垣内社長
本村さんが仕組みを説明する横で、製品を手に取り「ココヨム」の表示場所を指で示す垣内社長

アレルギーの有無やお酒が入っているかどうかなど、うっかり口にすれば体調の悪化につながりかねない情報さえ、自力で確かめるには大変な時間と手間がかかる。命にかかわる可能性のある問題を解決するため、2024年に発足したロッテのインクルーシブデザインチームが当事者とともに作り上げたのが、触って、見つけて、読める仕組み「ココヨム」だった。

わずか1.4ミリの溝に込められた、試行錯誤と細やかな工夫

示されたのは、小箱の側面に施されたシンプルな四角い溝だ。

白枠の縁が加工され、表示情報の場所が触って確認できるようになった
白枠の縁が加工され、表示情報の場所が触って確認できるようになった

使い方は実に自然で、指先で箱の側面をなぞって四角い溝を探し当て、その手触りを頼りに大切な情報が集まる場所を捉えたら、そこへスマートフォンや拡大鏡をかざすだけでいい。溝で囲まれたエリアには商品名や賞味期限、アレルギー情報、アルコールの有無など、当事者が「今すぐ知りたい」と願う情報だけがきゅっと集められている。

さらに音声読み上げアプリを使ったときに迷わないよう、エリアの始まりと終わりに「ココヨム」「ここまで」という文字を配置した。機械音声が「ココヨム、プレミアムガーナ、濃厚ショコラ、賞味期限…ここまで」と読み上げることで、どこからどこまでを聞けばいいのかが耳で直感的にわかる工夫だ。

一見すると素朴な「へこませた四角い溝」に行き着くまでには、試行錯誤の連続があった。2本線の溝を試したり、箱の表面をぷっくりと盛り上げたりと、当事者の触りやすさと箱を作る印刷所での加工しやすさの両方を満たすため、あらゆる形が試された。

驚くべきは、この仕組みを取り入れるために新しい機械を買い足す必要が全くない点だ。特別な設備を入れずとも、紙箱の型を新しく作り直すタイミングに合わせて四角い溝を追加すれば、余計なコストをかけずに形にできる。自社だけでなく他のメーカーもまねしやすく、無理なく続けられる現実的な優しさが隅々まで行き届いている。

「プレミアムガーナ 濃厚ショコラ」は9月15日発売
「プレミアムガーナ 濃厚ショコラ」は9月15日発売

まずは紙箱の「プレミアムガーナ」から取り組みがスタート。箱の形や大きさがそっくりで見分けがつかなかったり、同じ形の箱でいくつもの味が並んでいて買い間違いが起きやすかったりした商品だからこそ、真っ先にこの工夫が施された。

「遠くへ行きたければ、みんなで行け」。企業を越えて手をつなぐ理由

発表の場で関心を集めたのは、「なぜ特許や商標を持ちながら、他社へ無償で開放するのか」という点だった。自社だけの強みとして囲い込めば、他社に対する強力な武器になるはずだからだ。

その問いに対し、ロッテ執行役員の宮野敬二さんが返した言葉には、お菓子を届ける企業としての誇りと、まっすぐな想いがにじんでいた。

「当社の商品だけが便利になっても、売り場全体としての真の課題解決にはならない。食品メーカーに限らず、さまざまな企業や団体にこの取り組みを知っていただき、参画してほしい」と、自社だけでは意味がないと呼びかけた宮野さん
「当社の商品だけが便利になっても、売り場全体としての真の課題解決にはならない。食品メーカーに限らず、さまざまな企業や団体にこの取り組みを知っていただき、参画してほしい」と、自社だけでは意味がないと呼びかけた宮野さん

「最終的に世界に広げていくにあたっても、我々一社だけの力ではどうにもならないという前提があります。皆様が使いやすい状態にして、皆様で広げていただく。直接的な経済価値につながらなかったとしても、皆様の困りごとが解決できればそれでいい。これをスタートしたのはロッテだと知っていただければ、なおいいかなと思っています」

お菓子売り場に立ったとき、ロッテの箱だけが読めても本当の解決にはならない。隣に並ぶ他社のお菓子にも同じ溝が刻まれて初めて、売り場全体を自由に楽しめるようになるからだ。宮野さんが引用したアフリカのことわざ「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」は、まさにこの決断の根底にある想いを象徴していた。

ミライロの垣内社長も、海外で広がるボランティア頼みの支援アプリから、パッケージ自体の工夫によって自分の力で完結できる「ココヨム」への進化を高く評価し、日本生まれの「当たり前」として広がっていくことに強い期待を寄せる。

今後は賛同してくれる仲間を増やし、将来的にはメーカー同士で共通のルールや基準を整え、世界中のあらゆるパッケージへ届く未来を描いている。

人に聞かなくても、自分の手で選べる買い物の楽しさ

パッケージの側面に刻まれた四角い溝。見過ごしてしまいそうなほどささやかな凹みだが、そこには店員や周囲の人に「これ何味ですか?」とわざわざ聞くことなく、自分の指先で確かめて選べるための工夫が詰まっている。

記者発表会に登壇した、株式会社ロッテ執行役員の宮野敬二さん、株式会社ロッテ 中央研究所の本村あかねさん(中央)、株式会社ミライロの垣内俊哉社長(右)
記者発表会に登壇した、株式会社ロッテ執行役員の宮野敬二さん、株式会社ロッテ 中央研究所の本村あかねさん(中央)、株式会社ミライロの垣内俊哉社長(右)

企業の垣根を越えてココヨムが広がっていけば、誰もが自分の手で好きなお菓子を選び、当たり前に買い物ができるようになっていくはずだ。

取材・文・撮影=北村康行

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