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台風の前になると勝手に動くベランダの鉢→仕切り板の下に残っていた痕跡

  • 2026.9.28
ハウコレ

白い石は土の上に載ったまま、床の土の粒だけが仕切り板の下の隙間へ続いていました。隣の人とは、郵便受けで一度すれ違ったきりです。

ベランダに出ると、バジルの鉢が壁際に寄せてありました。私は鉢を手すりの足元にしか置きません。1人暮らしの部屋でそれが勝手に動くはずはないのですが、天気予報は台風の接近を告げていました。

動くのは、端の2鉢だけ

賃貸アパートの2階角部屋で、ベランダには4つの鉢を並べています。手すり沿いに、仕切り板に近い方からバジル、ミント、レモンの木、オリーブの順です。バジルとミントは片手で持てる小さなプラスチック鉢で、レモンとオリーブは重い陶器の鉢です。動いていたのはバジルとミントの2鉢だけで、奥のレモンとオリーブは元の位置のままでした。

去年にも一度、同じことがあった気がします。あのときは自分で寄せて忘れたのだと思い込んでいました。仕切り板には「非常時にはこの板を破って避難できます」と書いてあり、その下には手のひらが入るほどの隙間が空いています。私は板の前にしゃがみ、隙間の向こうを、しばらく見ていました。

仕切り板の下に残っていた土

台風が過ぎ、2鉢を元の場所に戻してから、私は小さな目印を置くことにしました。バジルの土の上に白い石を1つ、ミントの鉢の縁には輪ゴムを1本。次の台風の予報が出た日、出勤前に鉢の位置を写真に撮りました。

帰宅してベランダに出ると、2鉢はやはり壁際に寄せてありました。白い石は土の上に載ったままで、輪ゴムも外れていません。底を滑らせて丁寧に運んだ動き方でした。床には土の粒が点々と落ちていて、その跡は仕切り板の下の隙間に向かって続いていました。

隙間からのぞくと、隣のベランダの隅に、うちのミントの葉が1枚落ちているのが見えました。隣の人とは、挨拶をしたことがありません。郵便受けの前で一度すれ違っただけで、そのとき私はイヤホンをしていて、顔も見ないまま通り過ぎました。

名前も知らない相手が、私の鉢に触っている。

隙間から見えた軍手

今年3度目の台風は、予報が出た翌日に近づいてきました。私は仕事を早めに切り上げ、窓の近くで待ちました。風が強まったころ、鉢の底がコンクリートを擦る音がしました。窓を開けると、仕切り板の下の隙間から、軍手をはめた手が伸びて、バジルの鉢を壁際へ押しているところでした。

「その鉢、動かしていたのはあなたですか」

隙間の手は鉢に載ったまま、板の向こうから男性の声がしました。

「すみません。去年の台風で、そちらの鉢が倒れて、土がこっちの排水口に流れたんです」

「言ってくれたらよかったのに」

「呼び鈴を押す勇気がなくて。すみません」

板があるので顔は見えません。ただ、隙間の手は鉢を押し切らないまま、ゆっくりと引っ込んでいきました。私は去年の台風の翌日、自分のベランダしか片付けなかったことを思い出しました。倒れた鉢を起こし、こぼれた土を掃いて、それで終わりにしていました。

「今度からは、台風の前に自分で寄せます」

「助かります」

それだけ言って、隣の窓が閉まる音がしました。

そして...

今、私のベランダの手すりには、鉢が1つも置いてありません。4つとも壁際に並べ、普段からそこに置いています。郵便受けの前で隣の人と顔を合わせると、目を合わせて会釈をするようになりました。板の下の隙間から、うちの土が流れることはもうありません。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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