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「オスになっちゃう」- ナタウナギ温かい水で性転換する

  • 2026.9.11
タウナギは暖かい水で「卵巣から精巣への変化」が進む
タウナギは暖かい水で「卵巣から精巣への変化」が進む / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

夏の田んぼの水は、足首までつかるとお風呂の残り湯みたい。

中国で盛んに養殖されている淡水魚のタウナギは、まずメスとして育ち、やがてオスに変わります。

どんな仕組みで変わるのかは、よく分かっていませんでした。

研究チームは、このタウナギを暖かい水で半年間育てると、卵巣が精巣へ変わり始めた魚がはっきり増えたと報告しました。

使ったのは、武漢の近くで採れた1歳半のメス。

無作為に2つに分け、片方は25〜26℃、もう片方は33〜34℃の水で6か月飼いました。

判定に使ったのは、生殖腺の組織の染色と、性別に偏って働く遺伝子の量。

半年後、卵巣の中に精巣の組織が現れた「卵精巣」の魚は、暖かい群でおよそ75%、涼しい群ではおよそ20%でした。

卵精巣は、メスからオスへ移る途中の段階です。

体の長さや重さは、2つの群で同じ程度でした。

研究チームは、仕組みが分かれば養殖で性別を制御する役に立つとみています。

では、なぜ水の温度を疑ったのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年9月7日に『eLife』にて発表されました

目次

  • 性転換の始まりは「南の地域ほど早い」と報告されていた
  • 卵巣にある「温度センサー」が精巣の遺伝子を動かす

性転換の始まりは「南の地域ほど早い」と報告されていた

性転換の始まりは「南の地域ほど早い」と報告されていた
性転換の始まりは「南の地域ほど早い」と報告されていた / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

手がかりは、地域ごとの違いにありました。

野生のタウナギがオスへ変わり始める年齢や大きさは住む場所で違うと、以前から報告されていました。

インドネシアのバンドンでは1歳半、中国中部の武漢では2歳、北の天津では3歳と、報告のある地域では北ほど遅くなっていました。

年平均気温は武漢で17℃、天津で13℃、さらに南の海南では25℃です。

集めたのは、暖かい海南と武漢の2歳の野生の魚、およそ200匹。

2024年の夏に生殖腺を調べると、性転換の途中にある魚は海南のほうにずっと多かったのです。

武漢では、暖かい5〜7月の産卵期に、産卵を終えた直後の2歳のメスがオスへの道に入ることがあるとされてきました。

そこで研究チームは、水温だけを変えて確かめることにした。

調べたのは、30日、90日、180日の時点。

90日の時点で、卵精巣の魚はすでに暖かい群のほうが多くなっていました。

では、魚の体はどうやって水の温かさを感じ取っているのでしょうか。

卵巣にある「温度センサー」が精巣の遺伝子を動かす

卵巣にある「温度センサー」が精巣の遺伝子を動かす
卵巣にある「温度センサー」が精巣の遺伝子を動かす / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

湯加減にうるさいのは、人間だけではなさそうだ。

研究チームが目を付けたのは、Trpv4(ティーアールピーブイフォー=暖かさで働きが強まる、細胞の膜にある小さな通り道)というタンパク質です。

温度と性の決まり方をつなぐ候補として、以前から名前が挙がっていた分子です。

タウナギでは、この遺伝子は生殖腺でよく働き、卵巣より精巣で多く見つかりました。

取り出した卵巣の組織を暖める。すると4時間後には、もうこの遺伝子が増え始めていました。

細胞の中のカルシウムの信号も、暖かいほうで大きく増えました。

生きた魚でも、涼しい水から暖かい水に移すと、卵巣のこの遺伝子は翌日には増え、日を追って上がり続けました。

では、それが本当に精巣づくりの引き金なのでしょうか。

研究チームがメスの卵巣に注射したのは、この通り道を開く薬と、閉じる薬。

涼しい水にいる魚でも、開く薬を入れると、精巣づくりに関わる遺伝子が暖かい水と同じくらい増えました。

暖かい水の魚に閉じる薬を入れると、暖かさによる増加は止まりました。

通り道が開くと細胞の中で合図が伝わり、精巣づくりの遺伝子のスイッチが入る、という筋道を研究チームは提案しています。

ただし半年の実験で見えたのは、卵巣が精巣へ変わり始めた段階までです。

【これまでの研究】

温度で性別が決まる生き物は、爬虫類で広く知られています。

ただ、温度を感じ取る分子と性の決まり方をつなぐ道筋は、はっきりしていませんでした。

自然科学研究機構と総合研究大学院大学の研究チームは以前に、アメリカアリゲーターのTRPV4が、性別の決まる温度の近くで働き始めることを確かめています。

アリゲーターの卵は、性別が決まる時期に33℃で温めるとオスに、30℃を下回るとメスになります。

薬でこの分子の働きを変えると、オスへの分化に関わる遺伝子の働き方も変わったと報告しています。

脊椎動物で温度センサーと性決定を実験でつないだ最初の例だとする一方、その役割は「可能性」と位置づけています(関連研究)。

性別が変わるきっかけの一つは、水の温かさにあるかもしれない。この魚については、そんな見方が加わりました。

オスへの近道は、ぬるま湯にあったようです。

参考文献

Trpv4 links environmental temperature to testicular differentiation in hermaphroditic ricefield eel (eLife)
https://doi.org/10.7554/elife.108272.4

TRPV4 associates environmental temperature and sex determination in the American alligator (Scientific Reports)
https://doi.org/10.1038/srep18581

元論文

Trpv4 links environmental temperature to testicular differentiation in hermaphroditic ricefield eel
https://doi.org/10.7554/elife.108272.4

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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