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「え、私が営業ですか?」技術・研究職20年、47歳で突然の海外事業部異動。半年たっても慣れません

  • 2026.9.11

「ぽにさん、異動してしんどくない?」

先日、廊下で突然、他部署の方に声をかけられました。よっぽどしんどそうな顔をして歩いていたのでしょうか。自分では普通にしているつもりだったのですが、どうやら私の顔面には、本人が思っている以上に「異動してから、まあまあ大変です」という文字が浮かんでいたようです。しかも、その方も確か、この4月に部署異動を言い渡されていたはずなんです。「私はさ、古巣の部署に戻ったからまだマシだけど、ぽにさんは全然違う部署じゃん。大変でしょ?」と聞かれて、私は一瞬考えたあと、素直に答えました。「ええ。大変です。本当に。」…と。もちろん、そんなに神妙な顔をして答えたわけではありませんが、心の中ではかなり大きくうなずいていました。むしろ「分かってくれる人、いたんや…」という気持ちのほうが強かったかもしれません。だって私、これまで20年以上、技術・研究職をしてきたんです。分子生物学をやって、論文を読み、研究テーマを考え、実験をして、画像解析をして、AIにも手を出して、気がつけば「研究」という世界で20年以上生きてきました。「来月から海外事業部ね」です。…………え?営業?私が?しかも、海外?いやいやいや、待ってください。私はこれまで、海外のお客様に商品を売って歩いたことなんてありません。もちろん会社員ですから、「異動です」と言われれば行きますし、「嫌です」と言ったところで、ドラマのように上司が「そうか……君の気持ちは分かった。では研究に戻ってくれ」なんて言ってくれるわけでもありません。そんな心のうちや葛藤は胸に秘め、粛々と異動しました。40代後半で、海外事業部へ。20年以上いた研究畑から、ほぼ突然です。しかも、自分から希望を出したわけでもありません。転職したわけでも、「新しい仕事にチャレンジしたいです!」と手を挙げたわけでもない。本当に、青天の霹靂。 そして、これが若い頃だったら、まだいいんですよ。私も入社5年目くらいのときに、転居を伴う異動を経験しています。あの頃なら「新しい部署? はい、頑張ります!」くらいの勢いで行けましたし、知らないことがあっても「これから覚えればいいやん!」で済んだんですよね。若いって、素晴らしい。ところが40代後半になると、そう簡単にはいきません。なぜなら、今まで覚えてきたことが、あんまり使えないから。これが地味に、いや、かなりキツいのです。

20年やってきた仕事を、いったん全部横に置きまして

まず、そもそもの話です。私はこれまで20年以上、技術・研究職をしてきました。もちろん、ずっと同じ仕事をしてきたわけではありませんが、それでも「自分は技術系の人間です」と言っていいくらいには、その世界にどっぷり浸かってきたと思います。研究の仕事には、研究の仕事なりの経験値があります。どんなデータを見ればいいのか、どこに問題がありそうなのか、この分野なら誰に聞けばいいのか、このテーマなら過去にどんな論文が出ているのか。そういうものが、20年かけて少しずつ自分の中に蓄積されていくわけです。そして長く同じ分野にいると、それがものすごく便利になるんですよね。「この件なら、あの人に聞けばいい」「このデータなら、彼女が詳しい」「このジャンルなら、あの部署の○○さん」という、自分だけの人間関係マップが自然と出来上がっていきます。会社の組織図を見なくても、「ああ、これならあの人に聞いたら早いな」と分かる。これは20年以上その仕事をしてきたからこそ手に入れた、いわば私の特殊能力だったわけです。ところが、異動した瞬間、全部消えました。イリュージョン!「この件、誰に聞けばいいんですか?」から始まります。「この商品について詳しい人は?」「この国の担当者は?」「この資料って誰が確認するんですか?」と、一つ仕事をするたびに小さな謎解きが発生する。しかも、今までの仕事とはジャンルが違います。これまで私が培ってきた分子生物学や論文情報が、海外営業の仕事にそのまま使えるかというと、今のところ・・「すみません!まだ使い道を見つけられておりません!」と直立不動でお答えする感じです。画像解析やAIについては、何かできることがあるかもしれませんし、せっかく長年やってきたことなので、いつか営業の仕事と組み合わせられたら面白いとも思っています。ただ、「最先端の研究をやっていたんだから、営業もできるでしょ」は、ちょっと違う。全然違う!これをスポーツに例えるなら、ある日突然、そこそこ能力のあるサッカー選手に「来月から野球チームに行ってください」と言うようなものです。「え? 野球ですか?」「そうそう。君、体幹あるし、身体能力も高いから大丈夫だよ」「いや、野球やったことないんですけど…」「まあ、何とかなるって。ちなみに、どこのポジションは行ってから考えよう」そこへ最後に、「あっ、そうそう。チーム内の共通言語、英語だから。話せるでしょ~?よろしく!」です。嘘だろ。スポーツも違えば、言語も違う。そして、わたしゃ英語が話せない。まさにこんな感じです。

初めての営業なのに「英語」まで付いてきました

営業だけでも未知の世界なのに、ここへ「海外」という文字が付いてきます。ええ。英語です。イングリッシュ!私は海外旅行が好きなので、旅行先で「How much?」とか「Where is the station?」くらいなら何とかなります。でも、それと仕事で英語を使うのは、当然ながら全然違います。メールを読む、メールを書く、会議に参加する、相手の話を聞く、商品について説明する、場合によってはその場で質問される。旅行なら笑顔とジェスチャーで乗り切れることもありますが、仕事ではそういうわけにもいきません。「すみません、今のところもう一回お願いします」を心の中で何度唱えたことか。しかも、英語だけではありません。海外の方の名前も覚えなければなりません。これがまた、なかなかの難関です。私は昔から人の名前を覚えるのがそれほど得意ではありません。顔は分かる、話した内容も何となく覚えている、「あの人ね!」も分かる。でも、名前が出てこない。そこへ海外の方の名前が加わります。特に困るのが、ニックネーム問題です。「マイク」と呼ばれている人が、メールを見ると本名がめちゃくちゃ長い。しかも、その名前の中に「マイク」の「マ」の字すら入っていない。いや、あなた誰ですか。初めてお見受けするお名前ですが。メールを遡って、「えーっと……マイクって……この人?」と確認する。よしよし合っている。そして数日後。すっかりフルネームを忘れ、また「この人、マイクだっけ?」と確認する。40代後半の脳みそに、新しい人名を次々とインストールしていく作業は、なかなかの重労働です。しかも仕事では間違えられません。「マイクさん」と呼んで、「違います。私、ジョンです」なんてことになったら、その日の私は終了です。その場では笑ってごまかしながら、心の中では、「ジョン、ジョンね、覚えました。たぶん。」となっています。仕事を覚える前に、人を覚える。そして、人を覚える前に名前の正式名称を確認する。もう何の研修を受けているのか、分からなくなってきます。

「あの人に聞けば分かる」が、全部なくなった

そして、個人的に一番しんどかったのは、やっぱりこれかもしれません。人間関係が、全部リセットされたことです。長く同じ分野にいると、「この件なら、あの人」という感覚が自然と身につきます。それが異動した瞬間、ゼロからになります。今までなら一時間で終わっていたことが、二時間かかる。仕事そのものに時間がかかっているというより、その前段階で「誰に聞けばいいんだ?」を探している時間が増えるからです。これは、経験値を一度全部没収されたような感覚に近い。20年以上働いてきたのに、急に「新人感」が出てしまいます。いや、新入社員ならまだいいんですよ。若いし、これからいくらでも経験を積めるし、分からないことがあっても「新人だからね」で許される。私は、40代後半の新入社員。みたいな状態です。そこそこベテランなのに、部署では新人。この絶妙な立ち位置が、なかなか面白い。…いや、全然面白くない。結構しんどい。前の部署では、仕事の内容だけでなく、人間関係や社内事情も含めて「なんとなく分かっている」という状態でした。それが全部なくなって、今は一つ一つ確認しながら進んでいく。「この人に聞いて大丈夫かな?」「このメール、誰をCCに入れるんだ?」「この案件、そもそも誰の担当?」そんなことを考えているうちに、一日が終わっていきます。20年かけて身につけた「分かる」という感覚を、一度手放すことになったわけです。

しかも、私は「ヒラ社員」です

ここで、さらに話がややこしくなります。私、ヒラ社員なんです。これがですね、個人的には結構大きい。前の部署では、「もうすぐ管理職になってもらうつもりだから、その準備もしておいて」なんて言われていた時期がありました。「そうか、私もいよいよそういう年齢なのね」なんて、ちょっとだけ思っていたわけです。ところが異動先では、当然そんなことは関係ありません。だって私は新参者。まずは仕事を覚えましょう、人を覚えましょう、商品を覚えましょう、海外の担当者を覚えましょう、英語にも慣れましょう……と、やることが山盛りです。しかも、役職があるわけでもありません。マネージメントという立場なら、「人を動かす」「チームを見る」という別の経験値がありますし、ドラッカーなどのマネージメント本を読んでいると、業界が違っても「人をまとめる」という共通項はあるんだなと思います。もちろん、実際のマネージメントは本に書いてあるほど簡単ではないでしょうし、「数冊読んだくらいで何が分かる」と怒られるかもしれません。でも、少なくとも「役割」というものはある。私は、ただただ、新しい仕事を覚える40代後半のヒラ社員。これが、なかなか堪えます。

この半年、「もう無理」と思った日は一度や二度ではありません

だから、この半年は本当に、「ツラーーー。」と思うことがたくさんありました。朝、会社に行ってパソコンを開く。メールを見ると知らない名前が並び、知らない商品について書いてあり、知らない国の話をしていて、そこへ英語のメールまで届く。「…今日も始まりましたか。」となります。前の部署なら、メールを見ればだいたい内容が分かりました。今はメールを開いた瞬間に、「まず、あなたは誰?」から始まることがあります。仕事が終わって家に帰り、ご飯を作りながら「今日、私、何してたんやろ…」と思う日もありました。これまで20年以上積み上げてきたものが、一気に役に立たなくなったような気持ちになる日もあります。もちろん、本当はそんなことはありません。長く働いてきたからこそ身についた考え方や、物事の進め方、人との接し方は、きっとどこかで役に立つ。今までの経験が全部なくなったわけではありません。特に分からなくても、慌てずに堂々と自席に鎮座するというベテランの風格だけは超一流です。ただ、それは何の解決にもならず、厳密には必要なものではありません。うん。要らないに等しい。そして40代後半になると、「ここから、もう一回やり直すんかい。」という気持ちも正直あります。20代なら「これから何でも経験できる」。30代なら「まだまだ伸びる」。40代なりたてならギリ「最後のステップアップか!」になる。ただ40代後半になると、「いや、ここまで来てからのそれ?」なんですよ。これが、しんどい。

それでも、サラリーマンだもの

ここまで散々、「しんどい」「分からない」「名前を覚えられない」と書いてきましたが、別に会社が嫌いになったわけではありません。今の部署の人たちが嫌いなわけでもなく、むしろ皆さん親切にしてくださっています。分からないことを聞けば教えてくれるし、英語で困っていれば助けてもらえるので、結局のところ、私が勝手に一人で「40代後半の異動、しんどい!」と大騒ぎしている部分もあります。でも、これも異動あるあるなのかもしれません。自分の意思とは関係なく環境が変わり、今までできていたことができなくなって、「自分って、こんなに何もできなかったっけ?」と思う。そして、少しずつ覚えていく。たぶん仕事って、そういうことの繰り返しなんですよね。自分がやりたい仕事だけを、定年までずっとやらせてもらえるわけではありません。会社の事情があって、組織が変わって、人が動いて、仕事も変わる。自分が「これをやりたい」と思っていても、別の仕事を任されることもある。それがサラリーマンです。もちろん、「いやいや、私の20年はどこへ行った?」と思うことはあります。ありますけど、だからといって毎朝会社の門の前で、「私は研究職です! ここを通してください!」と叫ぶわけにもいきません。たぶん警備員さんに止められます。うん。ただ、もう少しだけやってみようと思います。今はまだ、野球チームに放り込まれて、「えーっと……バットって、どう持つんでしたっけ?」と言っている状態ですが、そのうち何か一つくらいは、「なるほど。こういうことか」と思える日が来るかもしれません。20年以上研究をしてきた私ですから、分からないことを一つずつ覚えていくこと自体は、きっと嫌いじゃない。はず。ただ、40代後半でやるとは思ってなかった。それだけです。そして先日、廊下で、「ぽにさん、異動してしんどくない?」と声をかけてくださった方。あの一言が、なんだかちょっと嬉しかったんです。「分かってくれる人、いたんや……」と思いました。たぶん今の私に必要なのは、華々しいキャリア論でも、前向きな自己啓発でもなく、「いやー、しんどいよね」と笑ってくれる人なのかもしれません。40代後半。技術・研究畑に20年以上。突然の海外事業部。英語。知らない商品。知らない人。覚えられない名前。そして、ヒラ社員。なかなかのフルコースです。お腹いっぱいです。でもまあ、サラリーマンだもの。今日も明日も、前を向いて会社に行ってきます。とりあえず明日は、マイクの本名をもう一回確認するところから始めます。ではまた!

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