1. トップ
  2. エピソード
  3. 私が床に座り続けた3カ月。「そろそろ買い替えない?」は値段の話ではありません

私が床に座り続けた3カ月。「そろそろ買い替えない?」は値段の話ではありません

  • 2026.9.11
ハウコレ

何度ソファのことを口にしても、彼はそのたびに自分なりの理由を返してくれました。彼の友人に聞かれて口から出た言葉で、私は本当のことを言う機会を自分でなくします。

彼が5年暮らした部屋には、私の使わない甘い匂いが残っていました。

私は最初の数日だけ、ソファに座っていました

同棲を決めて、荷物ごとその部屋へ移りました。リビングにあるのは3人掛けのソファです。私が「これ、いつ買ったの?」と聞くと、彼は「5年前。前に付き合ってた子と選んだやつ」と答えました。私は「へえ」と返しています。その子とは1年前に別れたそうです。越してきたばかりで、使える家具を捨てさせるわけにはいきません。数日は真ん中に腰かけてみました。けれど左端に近づくほど香りは濃く、そこは彼がほとんど座らない側でした。柔軟剤だろうと考えていたものの、気になるのはいつも同じ場所です。3日目からはラグへ座り、背もたれに寄りかかる形になります。そのうち慣れるはずだったのです。

嫉妬深い女だと思われたくありませんでした

1カ月ほどして、私は「そろそろ買い替えない?」と切り出しました。返ってきたのは「まだ十分使えるだろ」です。そのあとも何度か同じ話を持ち出しました。「これ、なんの匂いか分かる?」と聞いたとき、彼は嗅ぎもせず「洗剤じゃないの」と答えます。別の日に「私、ここに座るとなんだか落ち着かないの」と伝えると、彼は回収料金を調べ、2000円の表示をこちらへ向けて「捨てるのも金がかかるだろ」と言いました。私は「そっか」と答えるしかありません。知らない香りがするというだけで、前の彼女に張り合っていると思われる気がしていました。彼には黙って無香料の布用消臭スプレーを買い、留守の間に左側へ吹きかけていました。

「床のほうが好きなので」と、私は答えました

その日は彼の友人が来て、ソファの中央に座りました。私は麦茶を注ぎ、いつものようにラグへ腰を下ろします。やがて友人がソファの左寄りへ体をずらし、「この辺、なんか甘い匂いするな」とこぼします。気にしすぎていたのは私だけではないのだと、そこで初めて思います。続けて「彼女さん、そこ座らないの?」と向けられ、私は「床のほうが好きなので」と答えました。声に出した瞬間、自分で理由をすり替えたと分かります。彼の友人の前で、前の彼女の香りが気になるとは言えませんでした。しかしその日、彼はゴミをまとめる途中で空の消臭スプレーの容器に気づいたようでした。空のスプレーを片手に友人が指摘したあたりに鼻を寄せています。

そして...

そこで聞かされたのは、前の彼女と暮らしていたころ、その場所に香水をこぼしたという話です。縫い目まで染みたので当時2人で拭き取ったものの、カバーは一度も洗っていないそうです。普段は右側に座るうえ、暮らすうちに匂いのこと自体を忘れていたと言います。消えない香りの正体を、私はそこでやっと知りました。次の日には回収の手配を済ませたと聞かされます。あの香りが気になって座れなかったのだと、私も初めて伝えました。察してくれなかったと彼を責める資格は、私にはありません。何度も話を持ち出しながら、肝心の理由だけは最後まで隠していたからです。新しいソファでは、右端が私の場所になりました。今は、言いにくいことほど理由から先に伝えるようにしています。

(20代女性・医療事務)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ