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「あの人、給料をもらった日がいちばんひどかったのよ」誰も口を開かなかった祖父の法事。伯母の一言で空気が一変

  • 2026.9.6

親族が十人ほど、はじめは誰も口を開かなかった

祖父の法事だった。亡くなってから何年か経っていて、集まる顔ぶれも少しずつ変わっていた。お寺での用が済むと、私たちは近くの店の座敷に移った。

集まった親族は十人ほど。伯父や伯母、従兄、それに名前と顔がすぐには一致しない子どもたちもいた。

その中には、祖父に会ったことのない甥もいた。

普段はほとんど会わない人ばかりで、最初は誰も積極的に話そうとしなかった。

箸を置く音や、座布団の上で座り直す音だけが聞こえる。誰かが急須を回すと「どうも」と小さく声がして、それきりまた静かになった。

私も、早く終わればいいと思っていた。何を話せばいいのか分からなかったし、話すことがあるとも思っていなかった。

伯母が湯呑みを置いて、ぽつりと話しはじめた

空気が変わったきっかけは、伯母の一言だった。

湯呑みを卓に置くと、少し笑いながら言った。

「あの人、給料をもらった日がいちばんひどかったのよ」

祖父は二十代のころ、給料が出ると近所の人まで誘い、その日のうちに使ってしまうことがあったらしい。月末になると、家では米ばかり食べていたという。

「そうそう、あったなあ」

伯父が笑うと、別の伯父も身を乗り出した。

「昔、家出したこともあっただろ」

祖父は一度だけ家を出たことがあり、三日で戻ってくると、何も言わずそのまま畑へ出ていったらしい。

すると今度は母が、「それなら私もあるよ」と笑った。

若いころ、自転車で川に落ちたことがあり、祖父はその失敗を四十年も言い続けていたという。

一つ思い出話が出るたびに、「それ知ってる」「いや、少し違う」と声が重なった。

気づけば三人ほどが同時に話し始め、さっきまで静かだった座敷に笑い声が広がっていた。

どれも、祖父を立派に見せるような話ではなかった。

いちばん年上の伯父は、卓の向こうにいる若い子たちを見ながら笑った。

「おじいちゃん、20代のころはずいぶん無茶してたんだよ」

祖父に会ったことのない甥が、「そうだったんだ」と身を乗り出した。

知らなかった祖父の話を、もっと聞きたくなった

そこからは、誰かの話が終わる前に別の誰かが思い出して、話があちこちへ広がっていった。

「その話、初めて聞いた」

私自身も、知らない祖父の話がいくつもあった。

母は肩を揺らして笑いながら、「そんなこと、よく覚えてるわね」と伯父たちに言っていた。

いつの間にか、私はもう「早く終わればいい」とは思っていなかった。

帰りぎわ、甥が私の袖を引いた。

「今度その川、見に行きたい」

結局、祖父が四十年も話していたという川の名前は、誰も覚えていなかった。

それでも、法事に来るまではほとんど知らなかった祖父の若いころを、少しだけ身近に感じられた。静かで気まずかったはずの席で、最後にみんなが覚えていたのは、立派な話よりも、そんな失敗談ばかりだった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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