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“円が世界で一番強かった時代”に公開された『スワロウテイル』――30年後の今、なぜこれほど刺さるのか【レビュー】

  • 2026.9.4

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1996年に初公開され熱狂的な支持を得た映画『スワロウテイル』が、岩井俊二監督の監修のもとで4Kリマスター・Dolby Atoms化され、2026年9月4日よりリバイバル上映されている。“日本映画の特異点”と改めて銘打たれたことも納得の魅力はもとより、30年後の今に観てほしい理由を解説していこう。

なお、今回のリバイバル上映にあたって「未成年者による違法薬物の使用、及び銃による刺激の強い殺傷流血の描写がみられる」という理由でR15+指定がされているので、ご留意のもとでご覧になってほしい。

※以下、『スワロウテイル』本編の決定的なネタバレを避けつつ、一部内容に触れています。

『国宝』のスタッフも参加したエネルギッシュかつ猥雑な世界観

『スワロウテイル』の魅力は枚挙にいとまがないが、何しろ筆頭にあがるのは“世界観”だ。

架空の街“円都〈イェンタウン〉”は、売春宿の古びた路地裏や、なんでも屋の“青空マーケット”など、東京の下町や中国の上海の街並み、あるいは現実にはないファンタジーがごったがえしたような、エネルギッシュかつ猥雑な魅力がある。日本という国が異なる(でも大きくは変わらない)歴史をたどったような、“IF”の世界に迷い込んだような、感覚を得られるだろう。

また、2025年に公開され歴史的超大ヒットをした『国宝』で美術監督を務めた種田陽平が美術を、中村裕樹が照明を担当していることも見逃せない。片や雑多な架空の街、片や洗練された舞台上の歌舞伎という方向性は正反対ではあるが、「アジア風の空間を映画的に魅せる」という共通点も見出せるかもしれない。

“円が強い時代”から隔世の感がある

本作は「むかしむかし、円が世界で一番強かった頃」というナレーションで幕を開ける。実際に『スワロウテイル』が公開された1996年当時は1ドル=約108.78円(その前年には当時の史上最高値である1ドル=79.75円を記録)という円高の時代だった。一方で2026年の今は1ドルあたり約160円という円安ぶりなので、その時点で隔世の感があるし、より「むかしむかし」っぽくも思えるだろう。

さらに、続くナレーションでは「移民たちであふれ、まるでいつかのゴールドラッシュのようだった」ともあり、その言葉通り劇中では人気歌手として台頭することを目指したり、はたまた“通貨偽造”という犯罪に手を染めたりする様が描かれる。

つまりは、舞台である“円都〈イェンタウン〉”は文字通りに一攫千金を狙う場所でありながらも、暴力や犯罪が日常茶飯事の歪んだ理想郷でもあり、その危険だが惹かれてしまう印象は、前述した世界観の魅力にも密接に関わっているのだ。

日本語や中国語や英語が飛び交う。そこには移民への敬意と憧れがある。

一方で、30年後の今とそう変わらない、または地続きと思えることがある。それは続くナレーションで「自分たちの街をそう(“円都〈イェンタウン〉”と)呼ぶ移民たちを“円盗〈イェンタウン〉”と呼んで蔑んだ」とあるように、外国人や移民への偏見や蔑視、排外主義的な風潮があることだ。

ただ、そのナレーションと相対するように、劇中のキャラクターは日本人も中国人も、他の外国人も同じ場所や似たコミュニティーで生きており、“境界”がほとんどなく、誰もが”人間味”のある人物として描かれている印象がある。

加えて、本作は日本語や中国語や英語が飛び交う“ちゃんぽん”ぶりも大きな特徴であり、それはキャラのそれぞれのアイデンティティに重なっているようにも思える。現実にもいる移民への“敬意”のようでもあり、同時に安易に美化や肯定もしないバランスになっていた。

実際に『スワロウテイル』の4Kデジタルリマスター版が上映された2025年の第38回東京国際映画祭において、岩井監督は“移民たちの物語をつくろうと思った動機”について「移民やアウトサイダーとしてこの国に入ってきて、したたかに生きていかないといけない人たちのエネルギー」「何も与えられていない中で、何とか生きていくサバイバル精神」に憧れを抱いたことを挙げている。移民への同情などではなく、純粋な憧れや敬意を前提とした作品であり、それが各々のキャラクターへと反映されていると言っていいだろう。

劇中の移民の中でも強い印象を残すキャラとして、中国系マフィアのリーダーであるリョウ・リャンキ(演:江口洋介)がいる。彼は死も恐れない態度で場を掌握する胆力の持ち主であり、中国語や英語で威圧をかけていると思いきや、「足のくせえチンピラとは取り引きしねえんだ」と字幕が表示されているところで、思い切り日本語で「アセクサチンピラ」と言っているので笑ってしまう。

他にも、終盤のカージャック事件後のとある“セルフツッコミ”や、とんでもない事態に巻き込まれた直後の雑誌記者役の桃井かおりの共感しまくりなセリフなど、随所にユーモアもまぶされていることも本作の魅力だ。

9月18日まで期間限定で公開されている『円都』『スワロウテイル』メイキング・ドキュメントによると、江口洋介はリョウ・リャンキが「ぐしゃぐしゃな、よく聞き取りにくい日本語」を喋っていることについて、「自分ではそれが日本語だと思って、中国から日本に渡ってきて1人で生きていく時に一生懸命言葉を覚えて、実際はそれが伝わっていないのに、自分は伝わっていると思って話しているっていう悲しさみたいなものも面白いんじゃないか」と考えて、岩井監督と顔を突き合わせて1文字1文字考えたことも語っている(動画の31分ごろから)。

そのリョウ・リャンキだけでなく、他のキャラクターも、どの言語を話して、どのようなコミュニケーションをしているかを考えてみると、(劇中では明確に語られていない)それぞれのバックボーンにいろいろと想像できる楽しみができるだろう。

三者三様の俳優が織りなす「切なくも愛おしい」物語

この『スワロウテイル』の主人公は実質的に3人いると言っていい。小狡いけど憎めない移民の男フェイホン(演:三上博史)、母の死後にたらい回しにされた少女アゲハ(演:伊藤歩)、そして胸元にアゲハ蝶のタトゥーを彫った娼婦グリコ(演:Chara)だ。三者三様の俳優が本当にこの世界に生きているように思えるキャラクターを体現しており、30年前のフレッシュな姿を観ることも2026年の今に再見する大きな意義だろう。

フェイホンはグリコの歌手になる夢を叶えようと奔走し、アゲハはそんなグリコに強い憧れを抱く……というのがメインプロットで、それとほぼ同時進行で死んだヤクザの腹の中から出てきた“謎のカセットテープ”を発端とした事態も起きたりする。本作はそんな3人が運命に翻弄されつつも自分らしく生きようとする、もっといえば“居場所”を見つけようとする物語と言っていい。前述したエネルギッシュで猥雑な世界観や無国籍な印象は、その「切なくも愛おしい」印象のある物語との良い意味でのギャップにもなっている。

そして、本作をスクリーンで観てほしい最大の理由は、そのCharaが劇中のバンド(現実の音楽活動にも派生した)“YEN TOWN BAND”として活躍し、唯一無二の歌声を披露していることだ。フランク・シナトラの名曲「My Way」のカバーや、主題歌「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」、さらには全編で流れる小林武史による流麗な音楽は、4KリマスターだけでなくDolby Atmos化もされているからこそ、映像はもとより”音”を劇場で浴びる貴重な体験になるはずだ。ぜひ、この機会を逃さないでほしい。

文=ヒナタカ

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