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國村隼が『ブラック・レイン』の記憶と共に語る、リドリー・スコット監督作『ラスト・サバイバー』の真価「人間の本質を見つめている」

  • 2026.8.28

終末世界を生き抜く人々の奮闘を描いたリドリー・スコット監督最新作『ラスト・サバイバー』(公開中)。パンデミック後のディストピアを舞台にした本作は、『オデッセイ』(15)以来の本格サバイバル作品だ。スコット監督の初期代表作のひとつ『ブラック・レイン』(89)に出演し、映画における役者の役割を学んだという國村隼がひと足早く本作を鑑賞。その魅力や作品に息づくリドリー・スコットらしさを語った。

【写真を見る】『ラスト・サバイバー』のロンドンプレミアに出席したリドリー・スコットとジェイコブ・エロルディ

謎のパンデミックで人類の90%が死滅した世界。パイロットのヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)と元軍人のバングリー(ジョシュ・ブローリン)は、わずかな生存者たちが食料を奪い合う過酷な世界を生き抜いていた。そんなある日、ヒッグは無線機で謎の声をキャッチ。声の主を求め、ひとり小型飛行機で飛び立つが…。

「なんでもないシーンにも思わず涙が出そうになるのをこらえました」

妻を亡くし、愛犬ジャスパーと共に寄り添い生きるヒッグ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
妻を亡くし、愛犬ジャスパーと共に寄り添い生きるヒッグ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

物語の舞台は文明が崩壊したごく近い未来。街中には朽ちたビルが立ち並び、周辺地域は自然に覆われている。「極限状況を描いたSFの映画なんですけど、実際にパンデミックを経験している僕らにとっていまに繋がる物語だなと感じました」と振り返る國村は、主人公の乗る小型飛行機から無人の世界を見下ろすオープニングから映画に魅了されたという。

「小型飛行機がフライトしているシーンから魅力的でした。浮揚感あふれる映像と流れる音楽が心地よく、引き込まれていきました。リドリー・スコット監督と聞くと、『ブレードランナー』や『エイリアン』の作り込んだビジュアルが浮かんできますが、今回は廃墟になった都市以外はリアルな自然の中で描かれています。どの描写も美しく、なんでもないシーンにも思わず涙が出そうになるのをこらえました。自然を題材にしてもこれだけ独自の世界が作れるんだと、改めてリドリーさんのすごさを実感しましたね」。

パンデミック以前は整備士だったヒッグ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
パンデミック以前は整備士だったヒッグ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

そんな世界で繰り広げられるのが、それぞれのやり方で生き抜こうとする人々のドラマ。「極限の状況に置かれた時に人はどう行動するのか。人から奪うことでしかサバイブできない者たち、反対に最後まで他者を信じる主人公、そして他人を信用せず自分の力だけでサバイバルする人々。彼らを通し、人間の弱さや優しさ、強さが次々と展開していくんです」と、國村は振り返る。

次期ジェームズ・ボンドの有力候補と目されているエロルディ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
次期ジェームズ・ボンドの有力候補と目されているエロルディ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

詩情漂う本作だが、スコット監督作だけにアクションやサスペンスなどエンタテインメントとしての見せ場もしっかり盛り込まれている。「観る側の心理をわかっているから、観客を楽しませる要素がしっかりある。絶体絶命のピンチを間一髪ですり抜けるなど、映画のウソの付き方もうまいんです。ただ過激にしないバランスもすばらしく、まさに大人が楽しめる上質な作品です」。

「『ブラック・レイン』の現場は楽しくてしょうがなかったですね」

亡き妻との思い出を抱えて生きる主人公ヒッグを演じているのは、ギレルモ・デル・トロ監督作『フランケンシュタイン』(25)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたジェイコブ・エロルディ。次期ジェームズ・ボンド候補としても注目を浴びる俊英だ。

國村もエロルディの演技を絶賛 [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
國村もエロルディの演技を絶賛 [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「まず主演のエロルディさんの演技が非常に的確でした。人に対する優しさをにじませながら、希望を失わず強く生きる姿を表現されています。余計なことは一切せず、寡黙な芝居でそれを表現するのは難しいんですが、見事に深みのある役として完成させていました」と称賛する。

その相棒バングリーを演じているのは『トゥルー・グリット』(10)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)でおなじみジョシュ・ブローリン。他人を信じず自分のスキルだけで生き抜く不屈のタフガイだ。「リアリスティックなストーリーの中、ブローリンさんのキャラクターは、アクションや笑いを誘うユーモアなどエンタテインメントの部分を担っています」。

暗視ゴーグルを駆使した銃撃戦がユニーク [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
暗視ゴーグルを駆使した銃撃戦がユニーク [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

前述の2人のほか、マーガレット・クアリーとガイ・ピアースを加えた主要キャストわずか4人の本作は、技巧派たちの演技がじっくり味わえるのも魅力だという。「メインで活躍する人々を揃えたキャスティングの妙と、表現するスキルの高い役者さん同士の組み合わせもすばらしかったです」。

國村の出世作が、映画ファンの間でいまだ高い人気を誇るスコット監督作『ブラック・レイン』だ。「大阪に来たリドリーにオーディションで選んでもらえたんですが、舞台役者の僕にとって映画はまだ2本目。画角の中でどう存在しパフォーマンスすればいいのかもわかっていませんでした」という國村は、現場で実践しながら学んでいったという。

國村が松田優作と共演したリドリー・スコット監督作『ブラック・レイン』 [c]Everett Collection/AFLO
國村が松田優作と共演したリドリー・スコット監督作『ブラック・レイン』 [c]Everett Collection/AFLO

「あの現場ではつねにカメラが4台回り、1カット平均7テイクは撮ったんです。一発OKもNGもなく、4台×7テイクで28パターンを撮るわけです。ある時、4テイク目まで撮ったあと、監督に呼ばれて『クニ、君はずっと同じパフォーマンスしてないか?』と言われたんです。それが当たり前だと思っていたんですが、次のテイクを自分なりに変えてみたらサムズアップしてくれて(笑)。その時に僕たちがやるべきことは作品のためのピース、素材作りだと気づいたんです」と撮影時を思い出しながら語った。

そんな現場を共演の松田優作と楽しんだという。「優作さんも『このシーケンスに対するお前のイメージはそれだけか?』と問われてる気がすると言って、ワンテイクごとにまったく違うパフォーマンスしてました。そんな現場が楽しくてしょうがなかったですね」と振り返る國村は、『ラスト・サバイバー』でも俳優なりのパフォーマンスを感じたという。「あるシーンで、ブローリンさんがコーヒーカップを手にパンツ一丁でふらりと現れるおもしろいパフォーマンスをしてるんです。このカットなんかはおそらく監督の指示ではなく、役者さんのイメージで演じたんだと思います」。

【写真を見る】『ラスト・サバイバー』のロンドンプレミアに出席したリドリー・スコットとジェイコブ・エロルディ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【写真を見る】『ラスト・サバイバー』のロンドンプレミアに出席したリドリー・スコットとジェイコブ・エロルディ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

スコット監督と『ブラック・レイン』を撮影した翌年に東京で再会したという國村。「1989年の東京国際映画祭で『ブラック・レイン』が招待作品になり監督も東京にいらしたんです。拙い英語力ながら泊っていた帝国ホテルに連絡をしたら、『上がっておいで』と言ってくれました。彼の部屋で朝食を摂りながら、俳優という仕事についてお話を伺いました。その時に『僕はパフォーマーである君たちが、なにを見せてくれるのか待ってるんだ。どんなふうにイメージしそれをどう変えながら表現するかは君たちの仕事だよ』などいろんな話を聞かせていただきました。自分にとってリドリー・スコット監督は、映像の中で俳優はなにをすべきかを教えてくださった師匠でもあるんです」。

「リドリー・スコットの作品に共通しているのは、人間をきちんと描いていること」

小型飛行機が空を舞うシーンの優雅さも見どころ! [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
小型飛行機が空を舞うシーンの優雅さも見どころ! [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『進撃の巨人』(15)や『シン・ゴジラ』(16)など、日本崩壊に直面するスペクタクルでも存在感ある芝居を見せた國村。非日常世界を描いた作品で心掛けているのはリアルな芝居だという。「状況が破天荒であるほど、その世界をリアルに感じてもらうにはどうすべきかを考えます。このキャラクターならいまの状況をどう受け止め、なにをするのか。それがリアルにつながるんです。僕らの仕事はたとえ歴史的事実を扱っていても、作り手が意図をもって創作したフィクションです。どうしたらリアルに感じてもらえるかは、ジャンルを問わず僕らの仕事の根幹で、常に意識していることですね」。

現在88歳のスコット監督は、いまだ年1本と精力的なペースで新作を発表し続けている。「すごいですね、としか言いようがないですね(笑)。『エイリアン:コヴェナント』や『ナポレオン』、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』など歳を重ねるごとにパワーアップされている気がします。今回の『ラスト・サバイバー』はまた違うトーンの作品ですが、どれも共通しているのは人間をきちんと描いていること。今回も主人公を通して極限状態を追体験し、人間の弱さや醜さを突きつけられました」。

予定調和で終わらない結末にも、らしさを実感したという。「希望を見出していくお話ですが、この過酷な世界はずっと続いていくんです。観終えた時、彼らはこれからどうサバイブするのだろうと一抹の不安も抱きました。単にハッピーエンドで終わらせず、リアリスティックに人間の本質を見つめている。そんなところにも、リドリー・スコットという監督のすごさを思い知らされる作品でした」。

『ラスト・サバイバー』に感銘を受けたと語る國村隼
『ラスト・サバイバー』に感銘を受けたと語る國村隼

名優・國村隼が“師”と仰ぐリドリー・スコット監督による最高峰のサバイバルSFを、ぜひ劇場の圧倒的な映像と音響で体感してほしい。

取材・文/神武団四郎

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