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メガネっ娘×チア×80年代ポップ 1人の女性アーティストが仕掛けた「かわいい」の設計図

  • 2026.9.9
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2002年1月、東京・新宿で初のストリートライブを行ったTommy february6(C)SANKEI

90年代のUKを横目に見たバンドで、陰りのある声を聴かせていた人が、いきなりメガネをかけて出てきた。周りにはチアリーダー。鳴っているのは、きらきらと人工的に明るい80年代仕立てのポップ。しかも英語まじりで、甘ったるく歌う。同じ人だと言われても、すぐには結びつかない登場だった。

この落差は事故でも気まぐれでもない。メガネも、チアも、80年代の音も、英語の歌い口も、全部ひとりの設計図から出てきたもの。そのかわいさは、本人が最初から仕込んだものだった。種明かしをしていきたい。

Tommy february6『EVERYDAY AT THE BUS STOP』(作詞:Tommy february6/作曲:MALIBU CONVERTIBLE)ーー2001年7月25日発売

チアの向かい側にメガネっ子を立たせる

Tommy february6は、the brilliant greenで歌う川瀬智子がもうひとつの名前で始めたプロジェクトで、この曲がその第1弾シングルにあたる。出発点は、意外なことに涙だった。

深夜のテレビでたまたま観たチアリーダーの選手権。全力で誰かを応援する姿に、本人は泣いてしまった。そこで「自分もああなろう」とならないのが面白いところで、あのピュアさと、自分の中の荒んだ価値観との落差を、皮肉っぽくて好きだと受け止めた。

そして作ったキャラクターは、チアとは真逆の、冴えないメガネっ子。真面目そうに見えて、隠れてお酒を持ち歩き、飲んでいないとバランスを保てない危うさを抱えている。きらきらしたチアリーダーの輪にTommyを立たせたのは、そんな相反する存在を一枚の画面に同居させるためだった。

まず人物の構図があり、その対比を際立たせるように、80年代風の明るいポップが選ばれた。かわいさは後から生まれた効果ではない。キャラクターから音までを貫く、最初からの設計思想だった。

陰影のある声のために選んだキラキラな器

そもそもソロは、本人がいちばんやりたくなかったことだった。バンドがマンネリ気味だから、という理由で周りに勧められ、しかも予定していたローマ旅行とかぶる。それでも、セルフプロデュースで好きにやっていい、つまり曲の方向から見せ方まで自分で決めていいと言われて、不安より好奇心が勝った。

好きにやっていいなら、バンドと同じ場所には立たない。the brilliant greenが90年代のUKを意識した音なら、ソロは80年代に振り切る。参照したのは、Strawberry Switchbladeに連なるニューウェーブやシンセポップと、Stock Aitken Watermanが手がけたRick Astleyの打ち込みポップだった。

陰影のあるバンドの声から距離を最大にとるなら、器はキラキラと、できるだけ明るいほうがいい。80年代のポップは、その条件を満たす最短の答えだった。

実際に鳴っている音は、その設計に忠実だ。硬く弾む打ち込みのドラムが一定の歩幅で進み、その上でシンセサイザーの音色が甘く光る。生の楽器の揺らぎに頼らず、きらきらしたパーツを整然と積み上げていく組み立て方で、ここが80年代の「再現」の肝に映る。古い音を真似たというより、古い音の作り方ごと持ってきている。

ただ、その明るさの中にTommyが持つアンニュイさ、ニューウェーブの持つ独特の陰影をまとった質感があるから、ただのキラキラではなく、心にグッと染み渡っていくような不思議な音像が形成された。

このシングルの3曲目には、Strawberry Switchbladeの『SINCE YESTERDAY』のカバーが収められている。参照元を隠すどころか、同じ盤の中に置いてしまう。こんな音が好きで、この音でやる、と最初の一枚で言い切る潔さが、なりきりではなく設計としての80年代を成立させている。

映像ごと仕込んだ企みと時代を越えた再発見

このシングルはCDにDVDが付いた仕様で、今となっては珍しくはないが、レーベルいわく「メジャーレーベルとしては初のDVD付きシングル」だったんだそうだ。CDには表題曲を含む3曲とリミックスが1曲、DVDにはビデオクリップと特典映像。

メガネとチアという設計は、音だけでは完結しない。あの絵ごと届けることが前提だったから、映像は最初から同梱されていた。人物、音、声、見せ方。デビュー曲の時点で、一式が組み上がっていた。

2025年にニューヨークとロサンゼルスで開かれた上映イベント「Tommy: The Screening」はチケットがすぐに売り切れ、それを受けて日本での再演「Tommy The Screening Japan Tour」が発表された。さらに2027年2月には、Tommy february6の完全生産限定ベストアルバム・アナログBOXも発売される。

20年以上も前に登場したアーティストだが、近年の日本のシティポップブームとはまた別のところで再発見され、注目を集めている。そもそもTommy february6自体が、80年代サウンドを2000年代に持ち込んだ形だったが、それが一巡し、次の世代へ渡っている格好だ。ニューウェーブ系のサウンド自体が世界的にリバイバルしているなかで、日本のアーティストであるTommy february6の感度の高さが、時を超えて見つかったということだろう。

Tommy february6のサウンドは、どうしてこんなにも胸が躍るのか。センスと仕掛けが同居したサウンドは、どれだけ時代を越えても色褪せない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・高輪田マチ)

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