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「帰ってくれ」処方薬を“全拒否”する80代男性→薬剤師が尋ねて分かった“飲まない理由”

  • 2026.9.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

私が在宅訪問で担当することになった70代の男性は、初回から「薬なんて飲まない」と頑なな態度。

ご家族も困り果て、処方医からも「なんとか説得を」と依頼されていました。

しかし説得ではなく、ただ話を聞き続けた3回目の訪問で、彼が薬を拒否していた本当の理由が、ぽつりぽつりと語られ始めたのです。

初回訪問で受けた、想像以上に強い拒絶

新たに担当となった在宅患者さんとの初対面。事前に伺っていた人物像とは、あまりにもかけ離れた反応でした。

玄関先で言われた「帰ってくれ」

在宅医療の一環で新たに担当することになった70代のFさん。

持病があり、複数の内服薬が処方されていましたが、ほとんど服用されていない状態が続いていました。

同居されている息子さんから「父が薬を飲もうとしない。処方医の先生からも『薬剤師さんに一度説得してもらってくれ』と言われた」との依頼を受けての訪問でした。

初回訪問の日、玄関のインターホンを鳴らすと、ご本人が出てこられました。

名乗って挨拶した瞬間、返ってきたのは「帰ってくれ」の一言。ドアを閉められる寸前、息子さんが慌てて中から声をかけ、なんとかリビングに通していただきました。

Fさんはこちらを見ようともせず、テレビをつけたままです。

処方薬の説明を試みても「そんなもの飲まないから、いくら説明されても無駄だよ」と、取りつく島がありません。

30分ほど滞在しましたが、その日はほとんど会話らしい会話ができないまま帰路につきました。

事前に息子さんから伺っていた「頑固だけど根は優しい人」という人物像とは、あまりにもかけ離れた強い拒絶。何かが引っかかりました。

3回目の訪問で語られた、40年前のある出来事

2回目の訪問では、あえて薬の話は一切しないつもりで臨みました。

リビングに飾られていた古い写真——若い頃のFさんが山で撮ったものに触れて、「山、お好きだったんですか?」と尋ねてみたのです。

Fさんは少しだけこちらに視線を向け、「何回も登ったよ」と、初めてまとまった返事をくださいました。

30分の訪問時間のうち、薬の話ができたのは最後の5分ほど。

それでも、初回に比べれば大きな進展でした。

3回目の訪問は、それから2週間後。玄関を開けたFさんの表情が、少しだけ柔らかくなっていました。「まあ、上がりなよ」。リビングに通されると、湯呑みが差し出されました。

そのお茶をいただきながら、雑談を続けていたときのことです。Fさんがふと、「あんたに一つ、話しておこうかな」と切り出されました。

40年ほど前、Fさんの奥様——息子さんのお母様——が病気で亡くなられた話でした。

当時、複数の薬を服用されていた奥様が、副作用と思われる症状で急変し、そのまま帰らぬ人となったこと。

Fさんは、その光景を目の当たりにして以来、「薬というものが怖くて仕方がない」のだと。

「先生にも息子にも、こんな話、恥ずかしくてできなくてね。ただ意固地になってるだけの爺さんだと思われてたと思うよ」。

服薬拒否の背景には、必ず“その人なりの理由”がある

拒否の理由が分かれば、対応も変わります。処方医との連携で、Fさんの服薬状況は少しずつ、しかし確かに変化していきました。

在宅訪問の薬剤師にできる“聞く”という仕事

まずは種類を最小限に絞り、副作用のリスクが比較的低いものから、少量ずつ開始する方針に変更。服薬前後にFさんの体調変化を丁寧に確認する体制も整えました。

その後、Fさんは処方薬の一部を服用されるようになっています。すべてではありませんが、以前の「全拒否」の状態からは大きな一歩です。

訪問のたびに「今日は変わりないですか」と体調を確認すると、「大丈夫だよ」と穏やかに答えてくださるようになりました。

この経験から学んだのは、服薬拒否の背景には、必ずと言っていいほど「その人なりの理由」があるということです。

頑固さや理不尽さに見える態度の裏側に、40年間抱え続けた喪失体験がある——そんなことは、説得しようとするだけでは決して見えてきません。

在宅訪問の薬剤師にできる大切な仕事のひとつは、「聞く」ことだと思っています。薬の説明よりも先に、その人の人生に少しだけ耳を傾ける時間を持つことです。

それが結果的に、きちんと服薬してくれることにもつながっていくのです。

Fさんが差し出してくださった一杯のお茶が、そのことを何より雄弁に教えてくれました。


※本記事は筆者の実体験に基づくものですが、患者のプライバシー保護のため主旨を損なわない範囲での設定に一部変更を加えています。

ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々の中で、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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