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【酒井順子さんエッセイ】「『選考会』の俎上でドキドキを味わう」

  • 2026.8.26

「選考会」の俎上でドキドキを味わう

ある日、私が書いた某作が、とある文学賞の候補作となった、という知らせを担当編集の方から受けた私。
小説と比べると、エッセイを対象とした賞は非常に少ないので、
「それは嬉しい!」
と、喜び合いました。
 
考えてみると、「あなたの作品が候補になりました」と知らされた上で選考会の結果を待つというのは、初めての経験です。
その辺は賞によって様々なケースがあって、今までは候補になっていることを知らされず、突然「受賞しました」と知らされるパターンもあれば、候補になっていることを知らされずに突然「落選しました」と知らされるというパターンもあったものでした。
 
対して今回は、候補になっていることを知った上で、当日は主催者からかかってくる結果報告の電話を待つ、というパターン。
芥川賞や直木賞と同じやり方です。
 
芥川賞や直木賞の場合は、各社の担当編集の方々と一緒に電話を待つ「待ち会」が開かれたりするようです。が、そのような派手な賞でもないので、選考会の当日、私は家で仕事をしながら電話を待ちました。
 
選考会が始まる時刻になると、さすがに緊張が高まってきます。
早いと一時間ほどで決まると聞いていたけれど、一時間、二時間、三時間経っても、電話はかかってきません。選考会がよほど紛糾しているのか。それとも、もしかして今日ではなくて明日だったとか? などと不安が募ってきた頃に、やっと電話が鳴りました。
 
そして結果は……、受賞ならず。
すぐに担当編集者の方に電話をかけ、「残念ですが、もっと頑張れ、ということだと理解します」としんみり報告しました。
 
とはいえ電話を切ると、意外にスッキリした気持ちになっていたのです。賞の候補になっただけでも、褒められているということで、とてもありがたい。
 
選考会までの日々、「もし受賞したら?」「贈呈式で、何着よう?」などと妄想を膨らませるのは、楽しくもありました。しかし私のような者でもかなりドキドキしたのですから、芥川賞、直木賞を待つ緊張感は、どれほどのものでしょうか。
 
受賞となった時の喜びの大きさはもちろんですが、そうでなかった時の落胆もまた、ひとしおに違いない。日常生活では感じられないドキドキの時間が終わり、気がつけばすっかり空腹になっていた私。
 
いつもよりガツガツと夕食を食べながら、「それにしても、いい夢を見せてもらったものだ」と、思っていたのでした。

酒井順子さん
1966年、東京生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。近著に『ひのえうまに生まれて-300年の呪いを解く』(新潮社)。

文/酒井順子 イラスト/升ノ内朝子
 
大人のおしゃれ手帖2026年8月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

酒井順子さん 酒井順子

酒井順子

1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。 大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。 2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。近著に『老いを読む、老いを書く』(講談社)、『松本清張の女たち』(新潮社)。

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