1. トップ
  2. 吉村順三建築で見つける、ものを迎える楽しみ

吉村順三建築で見つける、ものを迎える楽しみ

  • 2026.8.21
REIKO TOYAMA

住まいにものを迎えるとき、何を基準に選ぶのだろう。素材や形だけでなく、そのものが空間とどう響き合い、暮らしの中でどんな存在になるのか。その関係を見つめ直すために訪れたのは、吉村順三が手掛けた建築。今回は、その住まいを受け継ぐチダコウイチ・野口アヤ夫妻宅で、陶芸家・吉野瞬の作品を実際に空間へ迎えながら、建築と手仕事、そして暮らしが心地よく響き合う理由を探った。

Hearst Owned

暮らしてわかった、吉村順三建築の心地よさ

クリエイティブディレクターで、「シソンギャラリー」オーナーであるチダコウイチがこの場所と出合ったのは、2000年代初頭。現在住んでいる隣の部屋を仕事と暮らしの拠点としていたことから、吉村順三の建築を知るようになった。その後、一度はこの地を離れたものの、約10年前に偶然この部屋が売りに出されたことを知り、再び戻ってきたという。

実際に暮らすことで見えてきたのは、図面や写真だけではわからない心地よさだった。チダが特に印象的だと話すのが、光の入り方と、どこか包み込まれるような安心感。以前暮らしていた吉村建築を「穴ぐらのよう」と表現しながら、限られた場所から差し込む光の心地よさを振り返る。四方から光が入る開放的な住まいも経験したからこそ、閉じられた場所がもたらす落ち着きに改めて気づいたという。

Hearst Owned

ものを減らして見えてきた、本当に好きなもの

この家での暮らしは、夫妻とものとの関係にも変化をもたらした。元々、ブランドやデザイナーの名前よりも、自分たちの感覚を頼りにものを選んできた二人。アメリカのスリフトショップを訪れ、誰がデザインしたのかわからなくても、心惹かれる家具を探すことも楽しみのひとつだったという。

しかし、この家へ移る頃から、身の回りにあふれていたものを少しずつ手放すように。ものが減ったことで、改めて「長く持ちたいものとは何か」「自分たちが本当に好きなものとは何か」を考えるようになった。現在の住まいに並ぶ家具やアート、陶芸作品は、そうして一点ずつ選び、時間をかけて迎えてきたものだ。

大切なのは、完成されたインテリアをつくることではなく、自分たちが心から好きだと思えるものと暮らすこと。そうしてこの家に迎えられたもののひとつが、陶芸家・吉野瞬の作品だった。

Hearst Owned

暮らしの中で深まる、吉野瞬の作品の魅力

吉野瞬は、広島を拠点に制作を続ける陶芸家。日々の暮らしに寄り添う器づくりを軸に、釉薬が生み出す豊かな表情と自由な造形を追求。近年は海外のギャラリーやコレクターからも注目を集めている。

夫妻が運営する東京・猿楽町の「シソンギャラリー」では、国内外の作家によるアートや工芸を紹介しており、吉野の作品も取り扱ってきた。ギャラリーで作品を紹介する一方、自分たちでも実際に購入し、日々の暮らしの中で使っているという。

「やっぱり使わないと結局わからないんです」。器として手に取り、食卓で使い、空間に置いてみる。そうすることで、展示して眺めるだけでは気づかなかった使い方や魅力が見えてくることがある。さらに、作品と時間をともにするうちに、その背景にある作家の考えや人となりへの理解も少しずつ深まっていく。作品を紹介する立場でありながら、自らも一人の使い手として作品と向き合う。そうした日々の積み重ねから、作品の新たな魅力が見えてくることがあるという。

<写真>8月の「シソンギャラリー」での個展も大盛況だった吉野瞬。

Hearst Owned

吉野の作品についてチダが惹かれるのは、作家自身の内面が素直に表れているところだ。「媚びていない」と評するその作品には、吉野ならではの世界観があり、空間に置いたときに生まれる、わずかな違和感も魅力だという。

「違和感がちょっとあるぐらい」が、インテリアとしてはむしろいいのだとチダは話す。最初から空間にすんなり馴染むものばかりを選ぶのではなく、個性を持ったものを暮らす側が自分なりに取り込んでいく。日々眺め、触れ、使ううちに、最初に感じた違和感はやがてその家ならではの景色へと変わっていくという。

Hearst Owned

吉村順三建築に、吉野瞬の新作を迎えて

今回『エル・デコ』のために吉野が手掛けたのは、ランプ、祭杯、カフェオレボウル、ドリッパーの4種。

吉村順三がつくった空間に置かれると、作品は単体で見るときとはまた違った表情を見せる。窓から差し込む柔らかな光、木の家具や床、長い時間をかけて集められたアートやオブジェ。その中に吉野の陶器が加わることで、それぞれが互いを引き立てながら、新たな関係が生まれていく。

Hearst Owned

「作品は空間に置かれ、人の気配や光が加わって初めて完成する」と吉野は語る。

どんな場所に置き、どう使い、どんな時間をともにするのか。作品は使い手の暮らしと出合うことで、新たな表情を見せていく。チダが語った「少しの違和感」と、吉野が語った「空間に置かれて初めて完成する」という言葉。二人の視点は違いながらも、どこかで重なっているようだ。

心惹かれたものを住まいに迎え、眺め、触れ、使いながら、ともに時間を重ねていく。そうして少しずつ関係を育てることが、ものと暮らす楽しみなのかもしれない。いつもの空間に、これまでになかった景色が生まれる。その変化もまた、ものを迎えることの豊かさなのだ。

Hearst Owned

「ELLE DECOR限定・吉野瞬のランプと器」

ランプの抽選販売の申し込みは9月7日(月)10 時から9月30日(水)17 時まで。
ランプ以外のテーブルウエアは9月7日(月)10時から先着販売。
9月1日(火)発表の続報をお楽しみに。

吉野瞬(よしの・しゅん)

広島生まれ。バーナード・リーチや濱田庄司に影響を受け、高校卒業後に益子の「佐久間藤太郎窯」にて約8年間修行し、独立。民藝の思想を背景に、使いやすさを重視した器づくりを軸としながら、釉薬を幾層にも重ねた独自の表現で注目を集める。現在は広島を拠点に国内外で活動し、各地で個展やプロジェクトを展開。今後はメキシコシティでの滞在制作やカリフォルニアと上海での個展を予定。日本国内でもギャラリーやショップでの発表が控えている。



Photo : REIKO TOYAMA
Special Thanks :KOICHI CHIDA AYA NOGUCHI

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ