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「奢りは受け取れん、半分出すわ」初めてのボーナスで両親を連れて行った。だが、父が財布を出した瞬間の本音とは

  • 2026.8.20

初めてのボーナスで、両親を食事に誘った

社会人になって初めてのボーナスが入った日、私は通帳をしばらく眺めていた。

学生のころには縁のなかった金額が増えている。

使い道より先に浮かんだのは、就職で家を出るときに何も言わずに見送ってくれた両親の顔だった。

その週末、実家に電話をかけた。

「ボーナス出たし、たまにはええとこで飯食おう」

母は電話口で少し慌てたあと、嬉しそうに笑った。

電話を代わった父は、そうか、とだけ言って、すぐに受話器を母へ返した。

予約したのは、駅裏の小さな和食の店だ。

学生のころ、前を通るたびに暖簾の奥をのぞいていた店だった。

当日、父はいつもの作業着ではなく、襟のあるシャツを着てきた。

母も髪を整えてきていた。二人ともそのことには触れなかったが、支度をしてきたのは見ればわかった。

座敷に通されると、父はしきりに天井や壁を見回していた。

普段は電気をこまめに消し、洗剤も薄めて使うような人だ。

外食は、年に数えるほどしかない。

「こんな店、滅多に来られへんぞ」

照れくさそうに笑う父の横で、母が私のほうを見た。

「自分のお金で親にご馳走できるようになったんやねえ」

返す言葉が見つからず、私はメニューを差し出して、好きなだけ頼んで、とだけ言った。

会計に立った私の後ろで、父が財布を出した

料理が運ばれてくるたび、父はうまいな、と短く言った。

母は写真を撮ろうとして、うまく写らずに笑っていた。

父は品書きの値段の欄を見ないようにしていたようだが、それでも視線がときどき泳いでいた。

話したのは仕事のことと近所の犬のことくらいで、特別な話は何もしなかった。

食事が終わり、私が先に立ってレジへ向かった。財布を出そうとしたとき、後ろに父が立っているのに気づいた。

父は上着の内ポケットに手を入れていた。

「奢りは受け取れん、半分出すわ」

父の手には、角の擦り切れた黒い財布があった。私は慌てて首を振った。

「今日は全部出すから。そのために誘ったんやから」

父は少し黙って、それから財布を開いたまま言った。

「お前が頑張って稼いだ金やからこそ、大事に使わなあかん」

声は大きくなかった。説教という調子でもなかった。結局、私は父にほんの少しだけ払わせて、店を出た。

商店街を三人で並んで歩きながら、私はずっとそのことを考えていた。全部出せなかったのは、正直に言えば悔しい。それでも父は、私に格好をつけさせるより先に、稼いだ金の扱い方を伝えようとしたのだと思う。

次のボーナスでも、たぶん同じ店に誘う。そのときもきっと、半分出すと言われる。それでいい気がしている。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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