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戦争に家族も学ぶ機会も奪われた祖母。50代で読み書きを学び、書き切った作文に綴られていたのは、壮絶な戦時下の暮らしと叫びだった【書評】

  • 2026.8.15

【漫画】本編を読む

『戦争さえなければ』(てんてこまい/KADOKAWA)は、戦争によって家族も教育を受ける機会も奪われた祖母の人生を、孫である著者がコミックエッセイとしてまとめたものである。戦争の悲惨さを伝えながら、戦時下で文字を学ぶことさえできなかったひとりの女性が、50代になりその機会を得たことで、ようやく自分の人生を歩み始めることができたという実話を描いた作品だ。

戦時中の鹿児島県・徳之島。そこで幼くして戦争に巻き込まれた祖母は、飢えに苦しみ、そして家族全員を失うという過酷な現実を突きつけられる。戦争が終わっても教育を受ける機会が得られないまま大人になり、自分の名前を書くことすらままならない日々を送っていた。そうして50代となり、思い切って夜間中学校へ通い始めたことで祖母の人生は少しずつ動き出す。先生や仲間との出会いを通して学ぶ喜びを知り、ようやく自分自身の言葉を手に入れるのだ。

最も胸を打つのは、やはり本作の土台となっている祖母が綴った作文「自分史」の内容だ。そこには歴史の教科書には載ることのない、一般人であるひとりの少女が戦争によって強いられた飢えや差別、喪失が、飾ることのない真っ直ぐな言葉で記される。戦争は大切な命と、生き残った人々の未来を容赦なく奪うという事実が読む者の胸に深く突き刺さり、これ以上ない説得力をもって伝えてくるのだ。

祖母は食べていくこともままならない状況ながら学ぶことを諦めず、そして生きてきた証しを作文という形で残すことができた。その姿は、教育とは何か、学ぶことの意義とは何かということをあらためて考えさせてくれるだろう。そしてそんな祖母の足跡をたどりながら漫画として描き残した孫の著者の思いもまた、次の世代へ記憶を受け継いでいく大切な営みだ。

終戦から80年以上が過ぎ、戦争の実体験を聞くことができる時間はもうほとんど残されていない。だから戦争に翻弄されたひとりの女性の人生を伝え、そして戦争とは何かということを問いかけてくる本作の存在意義は計り知れないほど大きい。すべての世代の人に手に取ってほしい作品である。

文=甲斐ハヤト

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