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ワームに過度の餌を与えると、クローン個体が鎖状につながった「怪物」が誕生した

  • 2026.8.14
※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

驚きの発見です。

小さなワームに餌をたっぷり与えたところ、体が異常なほど長く伸び、途中から次々と新しい「頭」が現れました。

数日後には、1匹だったはずのワームが、4〜5匹のクローン個体を頭から尾へと連結した、まるで多頭の怪物のような姿へ変わったのです。

ただし、遺伝子変異によって突然別の生物になったわけではありません。

原因はむしろ、普段から行っている無性生殖が、豊富すぎる餌によって「渋滞」を起こしたことにありました。

ポーランド・ワルシャワ大学(University of Warsaw)は、淡水に暮らす微小な扁形動物「クサリヒメウズムシ(Stenostomum)属」を調査。

その結果、餌の量が増えると通常の繁殖サイクルが重なり、複数のクローン区画が鎖状につながった状態になることを発見しました。

ただし、この研究内容はまだ査読前であり、2026年8月6日付でプレプリントサーバ『bioRxiv』に公開されています。

目次

  • 餌を食べすぎると「次の子」を作るタイミングが早まる
  • 「多頭の鎖」は役に立つのか?

餌を食べすぎると「次の子」を作るタイミングが早まる

クサリヒメウズムシ科/ Credit: ja.wikipedia

クサリヒメウズムシ属の扁形動物は、交尾をしなくても自分とほぼ同じ遺伝情報を持つ子孫を作ることができます。

その方法が「パラトミー(paratomy)」と呼ばれる無性生殖です。

通常、このワームは自分の体の中に新しい頭部と、それに続く体の区画を作り、それが十分に完成してから分離させます。

つまり、まず新しい個体を体の中で「組み立て」、完成してから切り離すわけです。

ところがチームが餌を豊富に与えると、この順番が崩れました。

研究者らはまず、クサリヒメウズムシ属6種に7種類の微小な餌を与え、どの餌で成長と繁殖が安定するかを調査。

その結果、4種では緑藻を共生させる繊毛虫を与えたときに安定した繁殖が確認されました。

そこでチームは、この餌の濃度を変えてワームの反応を比較することに。

すると餌が多いほど、ワームの体は長さ方向へ急速に成長し、鎖を構成する個虫の数も増えていったのです。

高濃度の餌では、およそ4日ほどで4〜5個の個虫が連なった長い鎖が現れました。

体をよく見ると、鎖の途中には発達段階の異なる複数の頭部が並んでいます。

最も古い頭部では脳や咽頭がかなり出来上がっている一方、後から作られ始めた頭部は、まだ細胞が集まり始めた段階でした。

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

なぜこんな奇妙な姿になるのでしょうか。

鍵は、「体が大きくなる速度」と「新しい頭が完成する速度」が同じようには加速しないことでした。

餌を増やすと、ワームでは細胞増殖が活発になり、胴体の長さ方向への成長が大きく加速します。

しかし、新しい頭部を完成させるには依然として約4日ほどかかります。

その結果、最初の子個体の頭がまだ完成していないのに、親の体はすでに次の繁殖を始められるほど大きくなってしまいます。

すると「1個体目を作り終える前に2個体目を作り始め、2個体目が完成する前に3個体目も始まる」という状態になり、複数のクローン個体が切り離されないまま一直線につながっていくのです。

つまり、餌によって新しい能力が生まれたのではなく、もともと存在する繁殖プログラムの進行速度にズレが生じた結果だったのです。

「多頭の鎖」は役に立つのか?

では、複数の頭を持った鎖状の姿には何か利点があるのでしょうか。

もし複数の個虫がつながることで、それぞれが別々の役割を担当するなら、本物の群体動物に少し近づいたことになります。

しかし、チームが消化器官を調べたところ、各個虫には基本的に同じタイプの消化細胞が繰り返し配置されており、消化を分担している証拠は得られませんでした。

複数の頭があるからといって、すぐに高度な「分業社会」が成立しているわけではなかったのです。

捕食者に対する効果も一貫していませんでした。

ある種では、3個虫がつながった鎖の方が単独個体より捕食者に選ばれにくい傾向が見られましたが、別の種では同じ効果は確認されませんでした。

仮に鎖状になることで捕食されにくくなるとしても、それは「頭が増えて賢くなった」ためではなく、単純に体が大きくなり、繊毛も増えて泳ぎやすくなるなどの効果かもしれません。

過度な餌により、鎖状につながったワームの画像

しかも、この鎖は永久には続きません。

餌を与え続けても、古い頭部が完成すると鎖はより短い鎖や単独個体へ分かれ、その後また餌が豊富なら成長して新しい鎖を作ります。

チームは、この一時的な鎖状構造を完全なコロニーと区別して「パラコロニー」と呼んでいます。

「群体性の進化」に繋がるのか?

そして、この現象から研究者らが注目しているのが「群体性の進化」です。

近縁の扁形動物(Catenula属)には、15個以上もの個虫が永久的につながった鎖を作る種が知られています。

そのため著者らは、クサリヒメウズムシで見られたような、栄養によって偶然生じる一時的な鎖が、進化の過程で何らかの利点を持つようになり、やがて永久的な群体生活へと利用された可能性を提案しています。

ただし、これは今回の実験で直接証明された結論ではありません。

今回明らかになったのは、豊富な餌が胴体の成長を加速させ、頭部形成との時間差を生み、その結果として次の無性生殖が前倒しされ、複数の個虫が一時的につながるという発生メカニズムです。

一見すると「餌を食べすぎて多頭の怪物になった」ように見えますが、その正体は、通常の繁殖工程が少しだけ噛み合わなくなった結果です。

それでも、この小さな発生上のズレが、将来的には「なぜ単独で暮らす動物から、複数個体が一体化した群体が生まれたのか」という大きな進化の謎を考える手がかりになるかもしれません。

生物の奇妙な姿は、ときにまったく新しい仕組みから生まれるのではなく、すでにある仕組みの「タイミングのズレ」だけでも生まれるようです。

参考文献

Scientists Overfed a Tiny Worm… And It Started Growing a Chain of Clones
https://www.sciencealert.com/scientists-overfed-a-tiny-worm-and-it-started-growing-a-chain-of-clones

元論文

Excessive feeding induces development of a colony-like body plan in paratomous flatworms
https://doi.org/10.64898/2026.08.05.742992

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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