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考えるより、歩いてみよう。「体」を動かすと、心が動く旅のすすめ

  • 2026.8.14

歩く旅が好きだ。 人が行き交う街や何もない大自然の中を、汗だくになりながら、あるいは息を白くしながら歩く。

快適に効率よく目的地をめぐるなら、歩くことは無駄かもしれない。でも、体を動かし五感をフルに使った旅の感覚は、日常に戻ってからもずっと残る気がする。

しっかり計画を立てて行く旅も楽しいけれど、ときに無駄や余白を楽しむ歩く旅で感じたことを、言葉にしてみた。

目の前のできごとに心奪われる

インドのケンペゴウダ空港に着陸する前の飛行機の窓からの景色

まもなく着陸する飛行機の窓から見える赤い大地。 夕暮れ時に橙色から徐々に色を無くし、沈んでいくレンガ造りの街並み。 明かりに照らされた市場にごった返す人の波と熱気。

旅をしていると、そんな何気ない一瞬一瞬に心奪われる。

ドイツの都市エスリンゲンの夕暮れ

観光地を巡る旅もいいけれど、旅が終わったあとに覚えているのは、こういう何気ないできごとや風景だ。

時間が経つと細かな記憶は薄れていくけれど、ふと写真を見返せば、あの時の空気の匂いや聞こえた音、自分の足で歩いた感覚を思い出す。そして、その感覚のまま普段暮らしている街へ飛び出てみると、目の前にも美しい景色が広がっている。

「どうにもならない」を楽しむ

インドのベンガルールにあるバス停

ホテルのチェックインで言葉が通じずヤキモキしたり、空港の荷物チェックで突然止められてドキドキしたり。歩き回って疲れ切った一日の終わり、待てど暮らせど来ないバスに途方に暮れながら、予約サイトに必死で連絡しまくってみたり。せっかくの旅先で風邪をひいて、一日中ホテルのベッドで寝込んだ日もある。

旅はいつでも楽しいことばかりではなく、予期せぬトラブルに容赦なく振り回される。

ジョージアのクタイシ空港

明日の予定も数か月後の計画も、日常では大体コントロールできる。でも旅先では、雨が降れば行けない場所があるし、バスや電車も時刻表通りには来ない。

実際にトラブルに直面している時は「もう勘弁してくれ……」と思うけれど、旅を終えて振り返ってみれば、そんな「どうにもならなさ」も含めて、忘れられない思い出の一部になっている。

歴史から見える知らない世界

舞鶴引揚記念館の展示

今でこそ日本人の誰もが海外に旅行できるけれど、その自由が手に入ったのは、たった62年前の話。さらにさかのぼれば、国内ですら自由に行き来できない時代もあった。

旅先で歴史に触れるたび、自分がいかに世界を「知らないか」を思い知り、過去に生きた人たちが繋いできてくれた「今」のありがたさを実感する。

舞鶴港に復元された引揚桟橋

今年の冬に訪れた舞鶴引揚記念館。

館内に入ってすぐの床には、東アジアやシベリアを中心とした広域地図があり、第二次世界大戦終了後に日本人が世界のどこにいたのかが記されている。その数660万人以上。当時の日本人の約10人に1人が、日本から遠く離れた海の向こう側にいた計算になる。

終戦後、世界各地から引き揚げる日本人の数が動画で紹介されていた

展示室を進むと、シベリアの抑留生活を再現したスペースがあり、窓の外には映像でも寒々しい冬の景色。冬にはマイナス30度以下になる極寒の世界で、十分な食事も装備もなく、屋外での伐採作業や鉄道建設をしていた記録を前に、しばらく足が動かなかった。

そして、後半には舞鶴の港で家族の帰りをただひたすらに待ち続けた人々の写真や映像が残されていた。

舞鶴引揚記念館内に再現されたシベリア抑留所

戦争は終わっても、戦争の影響は何年も何十年も続く。舞鶴港は戦後13年にわたって、日本で最後まで引き揚げてくる人々を迎え続けた唯一の港。そんな港を記念館の裏手にある丘を登り、眺める。独特な入り組んだ地形の港は、今は近くの工場の音だけが響いていた。

展望広場から見る舞鶴港

帰りたくても帰れない。会いたくても会いに行けない。そんな時代が、たしかに日本にもあった。

そう考えて、今目の前にある自由の豊かさをかみしめる。「いつでも行ける場所」が、未来もずっとあり続けるとは限らない。歩けるうちに自分の目で世界を見に行きたい。

歩いて出会う、忘れていた好奇心

ベトナム・タムコックからの帰り道に見つけたフォトスポット

未知と出会い、知らないことを知る。動画や文字で見ていた誰かの視点、借り物の世界が、自分の足で歩いた瞬間、生きた世界に変わる。

画面の向こうの遠い場所が、実際に暮らしている人のいる場所になり、日常を彩る視点が少しずつ増えていく。

それはきっと、忘れかけていた子どものような好奇心を、少しだけ思い出す時間でもある。

何でも便利で簡単にできてしまう時代だからこそ、ときに目の前の一瞬に心をうごかされたり、トラブルに振り回され冷や汗をかいたり、知らなかった歴史に足がすくんだりする、遠回りな歩く旅を、これからも続けていきたい。

靴紐を結び直し、私は今日も日常を歩いていく。

All photos by Kuon Kanayama

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