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「自分は不遇」と感じる人ほど、他者を“利用価値”で判断する

  • 2026.8.6
「自分は不遇」と感じると、他者をモノとして扱いやすくなる / Credit:Canva

「周囲の人は順調なのに、どうして自分だけが報われないのか」

そんな不公平感が強まると、人は人間関係まで「何を与え、何を得られるか」という損得勘定で見るようになるかもしれません。

中国人民大学(Renmin University of China)の研究チームが3つの研究を行ったところ、自分を不遇だと感じる人ほど、人間関係を取引のように捉え、相手が自分にとってどれほど役立つかを重視する傾向が示されました。

研究成果は2025年10月30日付で学術誌『Journal of Applied Social Psychology』に掲載されています。

目次

  • 「自分だけが報われない」という感覚は人間関係を変えるのか
  • 不遇感は「優しさ」を軽視させず、「役立つ能力」を上乗せする

「自分だけが報われない」という感覚は人間関係を変えるのか

私たちは、収入や仕事、暮らしぶりなどを周囲と比べながら、自分の立ち位置を確かめています。

こうした比較は目標を決める助けになりますが、自分より恵まれた人ばかりが目に入ると、「自分だけが不当に少ないものしか得ていない」という不満につながることがあります。

心理学では、この主観的な感覚を「個人的相対的剥奪感(personal relative deprivation)」と呼びます。

実際に貧しいかどうかではなく、自分と周囲との差をどう受け止めるかがポイントです。

これまでの研究では、この剥奪感が攻撃性や貪欲さの高まり、他者を助ける行動の減少などと関連することが報告されてきました。

しかし、それがなぜ人間関係を損なうのか、その心理的な道筋は十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、剥奪感が強まると、人間関係を貸し借りや費用対効果で捉える「交換志向」が強くなり、相手の意思や感情よりも、自分にとっての有用性を重視する「他者の客体化」につながるのではないかと考えました。

研究1では、中国の大学新入生3482人に、周囲より不利だと感じる程度と、「必要なときだけ相手に連絡する」といった道具的な対人姿勢を尋ねました。

研究2では成人250人を対象に、剥奪感と客体化に加え、人間関係の損得や見返りをどれほど意識するかを測定。

ナルシシズムなどの性格特性や権力欲求が結果に影響していないかも調べています。

さらに、研究3では成人194人に、資源を得るには飛行能力が重要となる架空の惑星で暮らしている場面を想像させました。

参加者は、自分より社会的地位の高い住民と比べる条件か、地位の低い住民と比べる条件に無作為に分けられ、その後、新しい友人にどのような特徴を求めるかを回答しました。

3つの研究を通じて、剥奪感は交換志向の強まりと結びつき、相手の実用的な価値を重視する傾向へつながることが示されました。

より詳しい結果と、その背景にある心理的な仕組みを次項で見ていきます。

不遇感は「優しさ」を軽視させず、「役立つ能力」を上乗せする

研究1では、相対的剥奪感が強い学生ほど、他者を自分の目的に役立つ存在として見る傾向が高く、年齢や性別を考慮しても関連は残りました。

ただし、これは質問紙による相関研究なので、どちらが原因かまでは判断できません。

研究2で両者の間を詳しく分析すると、交換志向が心理的な橋渡し役になっていました。

つまり、自分が周囲より恵まれていないと感じる人ほど、人間関係で与えたものと受け取るものの釣り合いを意識し、その傾向が他者をモノのように扱う「客体化」と結びついていたのです。

この経路は、調査した性格特性や権力欲求、年齢、性別、教育、収入を考慮した後も確認されました。

さらにSFシナリオにおける研究3では、地位の高い住民と比較した参加者の方が、低い住民と比較した参加者より強い剥奪感を報告し、交換志向も高くなりました。

また、友人候補の「飛行能力」をより重要だと評価しましたが、優しさ、面白い性格、価値観の共有については、条件間に明確な差がありませんでした。

つまり、剥奪感によって相手の人柄を軽視したというより、人柄への評価は保ったまま、「この人は自分の役に立つか」という実用性への関心が強まったと考えられます。

研究者たちは、周囲より不利だという感覚が、自分の利益や公平な見返りへの注意を高め、人間関係を交換として捉えやすくした可能性があると説明しています。

ただし、いくつかの限界があります。

研究には自己申告式の質問と架空の場面が使われており、現実の対人行動を直接観察したわけではありません。

また、参加者はすべて中国で集められ、主に若い成人だったため、異なる文化や世代にも同じ結果が当てはまるかは今後の検証が必要です。

それでも今回の結果は、他者を利用価値で見る傾向が、調査した性格特性だけでなく、「自分だけが割を食っている」という主観的な不公平感とも結びつく可能性を示しています。

人とのつながりを損得だけの関係にしないためには、助け合いを求めるだけでなく、まず「公平に扱われている」と感じられる環境が重要なのかもしれません。

参考文献

Study reveals a psychological link between feeling disadvantaged and using people
https://www.psypost.org/feeling-deprived-causes-people-to-view-relationships-as-transactions/

元論文

Personal Relative Deprivation Leads to the Objectification of Social Targets: Exchange Orientation as a Mechanism
https://doi.org/10.1111/jasp.70031

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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