1. トップ
  2. エピソード
  3. 「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」焼きたてのパンを全部持ってた客。だが、スタッフの一言で状況が一変

「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」焼きたてのパンを全部持ってた客。だが、スタッフの一言で状況が一変

  • 2026.8.7
「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」焼きたてのパンを全部持ってた客。だが、スタッフの一言で状況が一変

焼き上がりを待つ長い列

温泉旅館に宿泊した翌朝、私は朝食バイキングの会場を訪れました。

広い会場には和食や洋食がずらりと並び、なかでも人気を集めていたのが、目の前の鉄板で焼いてくれるフレンチトーストでした。

大皿に並べられると、すぐになくなってしまいます。

私が料理台へ向かったときには、すでに十人ほどの列ができていました。

「次の焼き上がりまで、十分ほどお待ちください」

鉄板を担当していた女性スタッフが、並んでいる人たちへ丁寧に声をかけます。

せっかくなので焼きたてを食べたいと思い、私も列の最後尾に並びました。

前には年配の夫婦や、小さな子どもを連れた家族がいます。

子どもが何度も鉄板をのぞき込み、そのたびに母親が「もう少しだからね」と声をかけていました。

甘い香りが会場に広がり始めます。

スタッフがパンを裏返すたび、表面にはきれいな焼き色がついていきました。

しばらくすると、スタッフが焼き上がったフレンチトーストを大皿へ移し始めました。

「お待たせいたしました。お一人様一つずつ、前の方からお取りください」

ようやく列が動き始めた、そのときです。

列の横から、五十代くらいの女性が料理台の前へ入ってきました。

並んでいる人たちには目も向けず、空いていた皿を手にして、大皿へまっすぐ近づいてきます。

「ちょっと、家族の分も必要なのよ」

女性はそう言うと、トングを取ろうと手を伸ばしました。

皿には、焼きたてのフレンチトーストが六個並んでいます。

「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」

並んでいた人たちは、驚いた様子で顔を見合わせました。

スタッフが静かに手を止めた

女性がトングをつかもうとした瞬間、鉄板の前にいたスタッフが、そっと大皿を自分のほうへ引きました。

「申し訳ございません。こちらはお並びいただいた順に、お一人様一つずつお渡ししております」

落ち着いた声でしたが、はっきりとした口調でした。

女性は不満そうに眉をひそめます。

「家族が席で待っているのよ。何度も取りに来るのは面倒じゃない」

するとスタッフは、表情を変えずに答えました。

「ご家族の皆様にも列へお並びいただくか、次の焼き上がりをお待ちください。皆様、同じようにお待ちいただいておりますので」

女性は納得できない様子で、列の前方を見回しました。

しかし、そこには十分近く待っていた年配の夫婦や、焼き上がりを楽しみにしていた子どもがいます。

後ろに並んでいた男性も、静かに口を開きました。

「皆さん、ずっと並んでいますよ」

女性は何か言い返そうとしましたが、周囲の視線に気づいたのでしょう。

しばらく黙ったあと、手にしていた空の皿を料理台へ戻しました。

「もういいわ」

そうつぶやくと、列には並ばず、そのまま自分の席へ戻っていきました。

スタッフは気持ちを切り替えるように、先頭の人へ声をかけました。

「大変お待たせいたしました。こちらから順番にどうぞ」

フレンチトーストは、一つずつ並んでいた人へ渡されていきます。

最初に受け取った子どもは、うれしそうに皿を両手で持っていました。

私の順番が来たころには、最初の六個はなくなっていましたが、次の分がちょうど焼き上がったところでした。

スタッフは私の皿へ、湯気の立つ一個を載せてくれました。

「お待たせして申し訳ございません」

「いえ、ありがとうございます」

席に戻って口にすると、外側は香ばしく、中はふんわりとしていました。

順番を守って待った人が、きちんと料理を受け取れる。

当たり前のことですが、それをスタッフが毅然と守ってくれたおかげで、朝食会場にはすぐに穏やかな空気が戻りました。

料理のおいしさだけでなく、スタッフの落ち着いた対応も印象に残った朝でした。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ