1. トップ
  2. エピソード
  3. 「割り込む前に、一言あるでしょう」先に場所を確保した親を追いやった夫婦に、周りから届いた一声

「割り込む前に、一言あるでしょう」先に場所を確保した親を追いやった夫婦に、周りから届いた一声

  • 2026.8.3
「割り込む前に、一言あるでしょう」先に場所を確保した親を追いやった夫婦に、周りから届いた一声

ロープ際にできた列

娘の幼稚園は園庭が狭いので、運動会の撮影場所が決まっています。

ロープの内側は園児の走路で、保護者は外側に一列で並びます。

午前の徒競走は、いちばんの人気種目でした。

私も三脚を抱えて、開門の三十分前から並びました。前にいたのは、下の子を抱っこひもで寝かせた父親です。

「うちの子、二番目に走るんです」

「じゃあ、最初から構えっぱなしですね」

そんな話をしながら、みんなでロープの端に肩を並べていました。

開始の音楽が鳴り、園児が入場してきます。

無言で入ってきた二人

一組目がスタートしたときです。

後ろから、大きなカメラバッグが私の肩に当たりました。

すみませんの一言もなく、夫婦がロープ際へ体を入れてきます。奥さんが先に隙間へ滑り込み、旦那さんが三脚の脚を広げました。

抱っこひもの父親は、脚を避けて半歩、また半歩と下がっていきます。

「あ、あの」

父親の声は、応援の太鼓にかき消されました。

夫婦はロープに手をかけたまま、園庭のほうしか見ていません。

斜め後ろから届いた声

声がしたのは、私の斜め後ろからでした。

「割り込む前に、一言あるでしょう」

怒鳴り声ではありません。

近くの人にだけ届く、低い声でした。夫婦の背中が止まります。旦那さんがゆっくり振り返り、園舎の角まで続く列を見て、それから抱っこひもの父親を見ました。

奥さんがカメラを下ろします。

「並んでらしたんですね。すみません」

「うちの子、次の組で。それで焦ってしまって」

旦那さんは三脚をたたむと、脚を抱えて列の外へ出ました。奥さんが父親に頭を下げて、二人で最後尾へ歩いていきます。

周りの何人かが、無言で半歩ずつ詰めました。ロープ際に、ちょうど一人ぶんの隙間ができます。抱っこひもの父親が、頭を下げながらそこへ戻りました。

「間に合いましたね」

「ぎりぎりです」

ピストルが鳴って、二番目のコースを小さな体が走っていきます。父親のスマホは、ちゃんとゴールまで追いかけていました。

次の種目の前、奥さんが父親のところまで来て、もう一度頭を下げていきます。

「さっきは、本当に」

「いえ。うちも、ここが精一杯なので」

父親の腕の中で、下の子が寝返りを打ちました。夫婦は列のいちばん後ろから、背伸びをして自分の子を撮っています。あの一言さえあれば、二人ももっと前で構えられたはずでした。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ