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ゼンデイヤのドレスで話題沸騰。今最も注目すべき前衛ブランド「マティエ フェカル」とは?

  • 2026.7.30
Getty Images

『オデュッセイア』から『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』まで、話題作のプレスツアーで世界を魅了するゼンデイヤ。なかでもひときわ鮮烈な印象を残したのが、『オデュッセイア』のNYプレミアでまとった「マティエ フェカル(MATIÈRES FÉCALES)」のドレスだ。異形の美を追求する前衛ブランドは、いまやレッドカーペットだけでなく、幻想的なブライダルルックでもセレブをはじめ人々から支持を集めている。その独創的な世界観と、人気急上昇の理由に迫る。AU版『ELLE』より。

ゼンデイヤとガブリエットを魅了した、異色の前衛ブランド

2026年7月14日、ニューヨークのAMCリンカーン・スクエアで開催された映画『オデュッセイア』のニューヨークプレミアに出席したゼンデイヤ。 TheStewartofNY / Getty Images

ファッションに求められるドラマティックな物語性の需要は最高潮に達している。『オデュッセイア』のレッドカーペットで女神アテナを思わせる姿を披露したゼンデイヤ、そしてThe 1975のマット・ヒーリーとの結婚式で“ゴシック版シンデレラ”を演じたモデルのガブリエット・ベクテル。今月、この2つの印象的なルックを手がけたのが、フランス語で「排せつ物」を意味する名を持つ「マティエ フェカル(MATIÈRES FÉCALES)」だ。

「マティエ フェカル」は、ハンナ・ローズ・ドルトンとスティーヴン・ラジ・バスカランが10年以上前にカナダのモントリオールで立ち上げ、その後パリへ拠点を移したアンダーグラウンドブランド。ポストヒューマンなエイリアン的美学や角の生えたヘッドピース、過激で時にグロテスクな身体改造を思わせるルックが並ぶランウェイ、さらにはエプスタイン文書を題材にした皮肉たっぷりのコンセプチュアルなショーなど、挑発的な表現によって名をはせてきた。当然ながら、保守的な傾向の強い従来のブライダルやレッドカーペットファッションとは、かけ離れた存在だった。

ところが今、その異端児が一気にメインストリームへ進出。「キャロリーナ ヘレラ」や「ヴェラ・ウォン」といった王道ブランドのドレスが並ぶ『Vogue』誌のブライダルページにも登場している。オーストラリアではブランド名の検索数が前年比5000%増を記録した。異形の美を追求する前衛的なブランドがなぜ突然これほど支持されるようになったのだろうか?

収益至上主義とアルゴリズムが奪ったファッションの創造性

「マティエ フェカル」2025-2026年秋冬ウィメンズウェアコレクション。 Getty Images

そのヒントは、元ファッションエディターで、アナ・ウィンターやグウィネス・パルトロウの評伝を手がけ、ニュースレター「Back Row」を主宰するエイミー・オデルが、最近ニューヨーク・タイムズ紙に寄せた論考にあるかもしれない。1980年代から2000年代まではクリエイティブ・ディレクターがブランドを率いていたが、2020年代に入ると、服作りはアルゴリズムと取締役会に左右されるようになった。オデルはファッションがアルゴリズムによって量産される“slop(泥、ぬかるみ、排せつ物などの意味から、価値の低いものを指す)”へと、悲しい変貌を遂げつつあると書いている。

「アルゴリズムに従うデザイナーの台頭と、独立系ブランドの衰退は、ファッションの金融商品化がたどり着いた最終段階を示している」とオデル。「デザイナーより企業が上に立つ流れは、過去40年間にわたって業界を支配してきた。その結果、あらゆる価格帯で創造的なデザインが徐々に死んでいった」

スター・デザイナーへのノスタルジーが呼び起こす、アーカイブ人気

「マティエ フェカル」2026-2027年秋冬ウィメンズウェアコレクション。 Getty Images

ファッション界では長年、時に賛否を巻き起こす天才たちが強い存在感を放ってきた。カール・ラガーフェルドにジョン・ガリアーノ、アレキサンダー・マックイーン、ヴィヴィアン・ウエストウッド、イヴ・サンローラン……。現在も、「ディオール」のジョナサン・アンダーソンや「シャネル」のマチュー・ブレイジーなどが再び脚光を浴びている。しかし、厳格なビジョンを持ち、ニュースの見出しをにぎわすような往年のスター・デザイナーの時代にはまだ遠く及ばない。私たちは彼らの作り出したファンタジーの世界を懐かしく思っているようだ。

「数十年前のファッション界は今よりも小さく、もっと活気にあふれていた。そこでは、風変わりで先見性に富んだデザイナーたちが、自分自身を表現しようと競い合っていたのだ」とオデルは振り返る。「もちろん彼らも利益を求めていたが、多くは人々の装いを変えることで、世界そのものを変えようとしていた。目指していたのは、まったく新しく、心躍る今を感じさせるものを生み出すことだった」

当時のランウェイが提示したのは、単なる服の着こなしだけではなく、人がこの世界でどうあるべきかという思想と、服がそれに影響を及ぼしうるという信念だった。これは、今も、ある意味消費者が求めているものだ。「The RealReal」,「Vestiaire」,「Depop」,「Etsy」といったオンラインマーケットプレイスの人気は高まり続け、ファッション好きは人とかぶらない一点を探し求めている。セレブにとっても、アーカイブを発掘して着こなすことが自身のセンスの良さを示す手段となった。ロー・ローチはゼンデイヤのレッドカーペットスタイルに繰り返しアーカイブルックを採用している。調査会社MMR Statisticsによると、オーストラリアのリセール市場は2025年に346億1,000万豪ドル規模に達したという。

ゼンデイヤが体現した、物語を伝えるドレスの力

背中に白い羽をあしらった、“アンジュ”ドレスで、女神アテナのような神々しい姿を披露したゼンデイヤ。 Dominik Bindl / Getty Images

「クワイエットラグジュアリーが大流行する一方で人々は装いに、より豊かな幻想を求め始めている」と、AU版『ELLE』のファッションエディター兼スタイリスト、ソフィア・スタメロスは説明する。「『マティエ フェカル』はただ服を着るだけでなく、そこに込めたメッセージまで伝えたいセレブやスタイリストから注目されている」

物語性を求める今のムードを象徴したのが、『オデュッセイア』のニューヨークプレミアでゼンデイヤが披露した“アンジュ”ドレスだ。翼を広げたような一着は、「マティエ フェカル」の2025-26年秋冬コレクションから、スタイリストのロー・ローチが発表直後に取り置きを依頼したもの。これにより「マティエ フェカル」は「スキャパレリ」と並び、ゼンデイヤが新作をいち早く着用する“ファーストルック”ブランドの仲間入りを果たした。セレブのプレスツアー自体が、観客を映画館へと誘うための没入型の世界観づくりを担う今日において、着用できる完成度とコンセプトの奥深さを兼ね備えた服は非常に貴重だ。「ゼンデイヤのルックは、『オデュッセイア』の世界をレッドカーペットへと運び、映画とブランドの双方が描く物語に観客を引き込んだ」とスタメロスは語る。

2026年のメットガラに「マティエ フェカル」 の淡いピンクのドレスで出席したマリア・ザルドヤ。 Getty Images

「マティエ フェカル」はこれまでにも、「アメリカン・ホラー・ストーリー」のサラ・ポールソンやトランスセクシュアルのアイコンであるアマンダ・ルポール、レディー・ガガといった前衛ファッションの支持者たちに衣装を提供してきた。しかし、女神を思わせるゼンデイヤのルックと、ガブリエット・ベクテルのブライダルルックが最近相次いで注目されたことで、ブランドは新たな時代に入ったといえそうだ。伝統的な結婚という制度と距離を置いてきた彼らが、オーダーメイドのウエディングドレスを手がけるのは意外な展開だった。

前衛からブライダルへ、物語で切り開く新境地

サラ・ポールソン。 『ヴァニティフェア』誌主催の第98回アカデミー賞アフターパーティ。 Getty Images

マット・ヒーリーとの結婚式のために「マティエ フェカル」を選んだガブリエット・ベクテルは、物語を重視する彼らの姿勢に強く共鳴したという。「布を通して物語を紡ぐ『マティエ フェカル』のようなデザイナーが、昔から大好きだった」とベクテルは『Vogue』誌で語っている。「前回のショーは物語そのもので、私にぴったりだと感じた」。ドルトンは完成したドレスを「ゆがめられたシンデレラ・ファンタジー」と表現し、「私たちは同じ美のビジョンを共有し、とても人間的で詩的な方法でファッションを表現している」と続けた。

同ブランドが前衛からレッドカーペットやブライダルへと進出したことは、最近のショーのテーマを考えれば、思い切った方向転換にも見える。3月のパリ・ファッションウィークで発表した「The One Percent」と題されたショーでは、慈善組織オックスファムによる富の不平等に関する統計とエプスタイン文書を出発点に、紙幣で作ったアイマスク、血に染まったオペラグローブ、失敗した美容整形を思わせる特殊メイクをモデルに施した。ランウェイには、過激な外見至上主義TikTokerのクラビキュラーや、若返りを追求する起業家ブライアン・ジョンソンといった、賛否の分かれる人物まで登場した。

挑発だけでは終わらない、確かな技術が支える「マティエ フェカル」の真価

「マティエ フェカル」2026-2027年秋冬ウィメンズウェアコレクション。 Getty Images

しかし、スタメロスは「マティエ フェカル」のランウェイがショッキングな演出で知られる一方、彼らの真骨頂は卓越したテーラリングにあると指摘する。「ブランドのスタイリングは過激だけど、彼らが創り上げた世界の外でも服として成立するのは、女性の体に沿ったカッティングが見事だから。着る人を心地よくさせながら、ドラマと意外性も与えてくれる。幻想的でありながら、服そのものを見れば、実は驚くほど着やすい」

「このブランドを選ぶ女性たちは、リスクを恐れず大胆な装いに挑む。彼女たちによって『マティエ フェカル』は、美術館に収蔵されるような作品を生み出す偉大なデザイナーとして、その評価を確立していくはず」

異端として歩み続けて12年。わずか7日間で女神と花嫁を彩った「マティエ フェカル」 は、そのブランド名の持つ意味からは想像もつかないほど、いま華やかな飛躍を遂げている。

Translation & Text : NAOKO OGATA


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