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BTSはなぜ「グラミー賞」を見送った? 新設された“アジア系部門”に広がる違和感

  • 2026.7.30
Amy Sussman / Getty Images

7月29日、BTSが今年のグラミー賞へのエントリーを見送ることを明らかにした。メンバーはそれぞれのSNSを通じて発表。「今年はグラミー賞へのエントリーを見送ることにしました。私たちの音楽が地域や言語で分けられるのではなく、ありのままの形で聴かれ、愛されることを願っています。いつもそばにいてくれるARMYとすべての人に感謝します」とコメントした。

この発表に驚いたファンもいるかもしれない。しかし、これは決して突然の出来事ではない。レコーディング・アカデミーは今年6月、2027年の授賞式から「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス賞」を新設すると発表した。世界的なK-POP人気を背景に、この部門でのBTSの受賞を期待する声は高まっていた。

彼らの最新アルバム『Arirang』は、数年にわたる活動休止を経て再集結したメンバーによる作品で、瞬く間に大ヒットを記録。ファンの目には、この新部門はBTSをテレビ中継される授賞式へ出演させ、巨大なファンダムを取り込むための安易な手段にも映ったかもしれない。実際に、BTSが出演しなかった2026年の授賞式の視聴者数は、前年比6%減の1440万人まで落ち込んでいた。さらに、長年受賞を逃してきたBTSへようやくトロフィーを贈るための、いわば「お飾り」の部門ではないか、という見方もあった。

しかし、この新部門の創設には、さまざまな疑問の声が上がっている。その理由は、音楽的な背景や文化が大きく異なるアジア各国・地域のアーティストを、一つのカテゴリーにまとめているためだ。たとえば、K-POP、J-POP、C-POPは、それぞれ独自の歴史や音楽性を持ち、カントリーやヒップホップ、ジャズと同様に、それぞれ異なるジャンルの楽曲として位置付けられている。さらにJ-POPだけを見ても、多彩なスタイルやテイストが存在する。

また、「音楽を評価する際に、どの地域で生まれたかを基準にすべきではない」という指摘も少なくない。アジアという広大な地域を一つのカテゴリーにまとめることは、それぞれのジャンルや文化が持つ固有の魅力や独自性を十分に反映できず、その多様性を見落としてしまうおそれがある。

Matt Winkelmeyer / Getty Images

インタビューでグラミー賞CEOのハーヴェイ・メイソンは、次のように説明している。「アジアのポップスが審査プロセスにおいて存在感を増し続けるなか、会員と理事会は、その規模や芸術性、世界的な影響力をより正確に反映する部門を設けるべき時期だと判断しました」。しかし、この新部門は本当にアジアのポップスの多様性を十分に反映しているのだろうか。むしろ、本来であれば同じカテゴリーに分類されないはずの複数のジャンルを、ひとつにまとめているようにも見える。

規定には、以下のように記されている。「対象となる録音は、K-POP、J-POP、C-POPを含む、アジア市場で生まれた、または広く認識されている現代のポピュラー音楽とする。応募資格は、パフォーマーの人種や国籍ではなく、音楽スタイルによって判断される」。

実は、グラミー賞では以前から「ジャンル」と「地域・言語」を結び付けてしまうカテゴリー分けが問題視されてきた。たとえば、かつて設けられていた「アーバン」部門では、非白人アーティストの作品が一括りにされる傾向があり、その後は対象作品が通常のR&B部門などへ分類されるよう見直された。また、ラテン部門でも「最優秀ラテン・ポップまたはアーバン・アルバム」から「アーバン」の表記が削除されるなど、見直しが進められてきた。

今回新設された「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス賞」にも、同様の懸念がある。アーティスト本来の音楽性ではなく、「アジア発」であることや使用言語によって一つのカテゴリーにまとめられることで、ジャンルの多様性が見えにくくなってしまうからだ。

たとえば、BTSの『Hooligan』はヒップホップ、『FYA』はジャージー・クラブという、それぞれ異なるジャンルの楽曲として評価されている。しかし、「K-POP」というラベルだけで捉えられることで、本来の音楽性ではなく、言語や出身地域を基準にした部門へ振り分けられる可能性がある。

さらに、こうした地域別の賞は、グラミー賞のメインセレモニーではなく、事前に行われる授賞式で発表されることがほとんど。華やかなテレビ中継とは別枠で扱われるケースが多く、主要部門と比べて注目度が低くなりやすい点も指摘されている。

Steve Granitz / Getty Images

レコーディング・アカデミーは、音楽そのものよりも、作品の起源や言語といった要素を重視しすぎているのではないかという批判もある。実際、BTSはこれまでグラミー賞で5度ノミネートされ、そのうち3度は「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」で候補入りを果たした。言語や出身地に関係なく、アメリカの音楽シーンでも高く評価されてきた実績がある。

だからこそ、もし彼らがグラミー賞を受賞するのであれば、「アジア」という枠組みの中ではなく、主要部門で音楽そのものが評価された結果であるべきだという見方もある。

今年のグラミー賞へのエントリーを見送るという決断を通して、BTSは自らのスタンスを明確に示した。アートは、どこで生まれ、どの言語で表現されたかではなく、その作品そのものの価値によって評価されるべき。今回の決断には、そんなメッセージが込められているのかもしれない。

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