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クラシックの聖地ウィーンで聴く教会音楽と、ベートーヴェンゆかりの劇場巡り

  • 2026.7.29
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ウィーンでの音楽体験は、コンサートホールで聴く演奏に留まりません。もとより、西洋クラシック音楽はキリスト教会の音楽文化を基盤として発展してきました。その原点ともいえる崇高な教会音楽を、ハプスブルク家の守護聖堂「アウグスティーナ教会」で堪能できるのです。さらにベートーヴェンが住んで作曲に励んだ「アン・デア・ウィーン劇場」とともに、地元で愛されるレストランなど、芸術の秋に訪れたい魅惑のスポットをご紹介します。

聖アウグスティーナ教会で体験する、イマーシブな荘厳ミサ

アウグスティーナ教会。かつては王宮(ホーフブルク宮殿)と繋がっており、皇族たちは外出せずとも教会に足を運ぶことができた。外観が教会と分からないようになっていて、宮廷内の人々を守る目的もあったという。 Kirchenmusik von St. Augustin/FJR

オーストリア・ウィーンの王宮(ホーフブルク宮殿)に隣接する「アウグスティーナ教会」は、1634年から1918年までハプスブルク家(※1)の宮廷教会として使われてきた由緒ある聖堂。歴代の皇帝や皇族はここで礼拝を行い、多くの重要な国家儀式や王家の結婚式が執り行われました。いわば“王家の歴史と信仰が凝縮された教会”と言えます。こちらでは、毎週日曜と祝日の朝11時から、オーケストラによる荘厳ミサ曲が演奏され、一般のツーリストも無料で拝聴することができます。

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荘厳ミサ(英語でハイマス)とは、カトリック教会における厳格な儀式で、司祭を含む3名の聖職者が集い、薫香や音楽などを用いる盛大なミサのことをいいます。大量の乳香が焚かれる中、司祭の祈りや聖書の朗読、参列者の応唱、参加者がご聖体をいただく儀式や聖歌隊の歌などが進行し、まさに名のとおり荘厳な空気に包まれます。

年に一度の“教会の長き夜”、ロング・ナイト・オブ・チャーチズ

Kirchenmusik von St. Augustin/FJR

ウィーンでは、毎年初夏の1日だけ、オーストリア中の教会が連携した合同イベント「ロング・ナイト・オブ・チャーチズ(Long Night of Churches・教会の長き夜)」が開かれていて、夕方6時から夜11時頃まで、さまざまなプログラムが組まれます。オーストリア全域では2005年から続く、夜の文化イベントです。

毎年5月下旬~6月初旬の金曜日に開催され、多くの教会が一般に無料開放されます。パイプオルガンやグレゴリオ聖歌、クラシック音楽、ジャズやゴスペルまで、特別な教会音楽を楽しめ、さらに、普段は立ち入れない地下聖堂や王族の墓所、オルガン席などを見学できる絶好のチャンスです。

Kirchenmusik von St. Augustin/FJR

今年は、5月末の金曜に開催されました。カトリック教徒でなくても、荘厳ミサの世界観に没入できます。粛々と執り行われる福音朗読や合唱、なにより、背後から全身に染み入るように響くオーケストラと聖歌隊の歌声、パイプオルガンの音色に心が震えます。信じられないほどのクオリティ。通常のクラシックコンサートよりもディープで神聖。全身がまさにソウルフルな気配に包まれ、跪いてご聖体を拝受する時は、不意に涙がこぼれるという体験も…。得も言われぬ没入感に包まれます。

今回の演奏プログラムは、以下の作曲家の曲で構成されていました。

・モーツァルト(1756-1791):戴冠ミサ ハ長調K.317(※2)
・ブルックナー(1824-1896):この場所は神によって造られた WAB 23
・バッハ(1685-1750)/グノー(1818-1893):アヴェ・マリア(ペーター・ティーフェングレバー編)
・ヴィドール(1844-1937):フィナーレ、交響曲第6番(作品42-2)より

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地下のロレット礼拝堂には、歴代皇帝53人の「心臓」だけを納める墓所(ヘルツグルフト)があります。彼らの魂をも呼び覚ますのではないか、と思わせるほどの圧巻のオーケストラコンサートです。

音楽監督が選ぶ、祝祭日にふさわしいミサ曲

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2020年からアウグスティーナ教会で音楽監督を務めるペーター・ティーフェングレバーさんは、オーケストラ、ソリスト、聖歌隊すべてを司り、指揮、選曲も担当。オルガニスト・音楽理論家としても国内外で高い評価を得ています。何を基準に選曲しているかを尋ねると、「オーストリア出身作曲家のウィーン古典派(ヴィエナ・クラシック)にフォーカスしています。作曲家ではモーツァルト、シューベルト、ハイドンなどですが、ベートーヴェンは、曲が長いため入れておりません」

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「四旬節(しじゅんせつ)は、復活祭の前にイエス・キリストの苦しみと死を思い起こして心を備える期間ですが、その時期に合った、長すぎず大きすぎず、お祝い色が強すぎないミサ曲、たとえば、ミヒャエル・ハイドンを選びます。ミヒャエルはヨーゼフ・ハイドンの弟です。彼は教会のために数多くの作品を創作しました。また復活祭には、とても華やかで喜びに満ちた音楽を選びます。イエスキリストの復活を祝うためです」とのこと。訪れる度に違ったミサ曲を楽しめるのも、カトリックの伝統が息づく国、オーストリアならではでしょう。

問い合わせ先
アウグスティーナ教会
所在地/Augustinerstraße 3, 1010 Wien
TEL/+43 1 5337099
URL/www.augustinerkirche.at

最優秀オペラハウス賞を獲得した「アン・デア・ウィーン劇場」

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ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンがオペラ『フィデリオ』の原曲を作曲し、不滅の名曲『運命』『田園』『英雄』などの初演が自身の指揮で行われた、記念すべきアン・デア・ウィーン劇場(Theater an der Wien)。劇場の中にはアトリエがあり、ベートーヴェンは劇場支配人エマヌエル・シカネーダーから招かれて、1804年から4年間住んでオペラ制作に取り組みました。

2025年11月、アン・デア・ウィーン劇場は、オペラ界のアカデミー賞ともいわれる第12回国際オペラアワード(※3)で、最優秀オペラハウス賞を受賞しました。

『カルメン』を100回上演するより、新しい作品を

1900年頃にエントランス部分の上階がアパートとして建て替えられ、その家賃収入が劇場の運営費となった。1960年代の改装、2024年10月に改修を経て再オープン。 (C)ウィーン市観光局

この劇場が高く評価される理由について広報の方は、こう語ります。「ひとつは、プログラムの独自性です。『カルメン』を100回上演するよりも、まだあまり知られていない作品を紹介したい。観客の皆さんに、未知のオペラと出会う喜びを味わってほしいと考えています。そして、もうひとつが音楽のクオリティ。私たちは専属のオーケストラや歌手を抱えていません。上演作品は、バロックから19世紀、現代オペラまで実に多彩ですので、それぞれの時代や作品によって求められる演奏技法や歌唱法が異なるため、その都度、作品に最もふさわしいオーケストラや指揮者、歌手を迎えます。だからこそ、舞台の高いクオリティにつながっています」

有名作品の人気に頼るのではなく、埋もれた名作や新作に光を当て、その作品にふさわしい音楽家たちと最高の舞台をつくる…。その姿勢こそが、この劇場をウィーン屈指のオペラハウスへと押し上げ、世界から注目を集める理由なのです。

古代オペラを現代に置き換える演出も

(C)ウィーン市観光局

この劇場の大きな特徴は、「まだ知られていないオペラ」や「珍しい作品」を上演することです。そして、作品ごとに舞台をつくり込み、数週間上演した後にすべてを解体して次の作品へと移る「スタジオーネ方式」。複数の演目を交互に上演する一般的なレパートリー方式とは異なり、一つの作品にじっくり向き合えるのが特徴です。

演出にも、この劇場ならではの大胆さがあります。古典作品を現代的な視点で読み替え、時代設定を変えることも。たとえば《ノルマ》では、本来の古代ローマ時代から革命期へと舞台を移し、新たな物語として描き出しました。

客席は約1000席と比較的コンパクトですが、その分、舞台との距離が近く、音響にも優れています。どの席でも豊かな響きを楽しめる、そんな親密さもこの劇場の魅力です。

アン・デア・ウィーン劇場で演奏したがった音楽家たち

(C)ウィーン市観光局

アン・デア・ウィーン劇場の創建は、ウィーン国立歌劇場が開業するより以前の1801年です。当時、現在のリングシュトラーセ(環状大通り)には城壁が巡らされており、その城壁内のみがウィーン市街でした。アン・デア・ウィーン劇場は城壁のすぐ外にある郊外の劇場という存在だったのです。映画もテレビもないその頃の市民の娯楽といえば、コンサートや演劇・オペラの鑑賞。郊外の劇場が多く存在しました。

ハプスブルク帝国の時代には、ウィーン市内の劇場で上演する作品は内容や表現がかなり厳しく統制され、監視されており、一方、郊外の劇場は自由で、市民にも開かれた存在、かつチケットも安価でした。

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音楽家にとっても、この劇場はある意味、夢のような場所だったといいます。市内の劇場の方が来る観客も裕福で稼ぐことはできましたが、ここには「自由」があり、好きな演目にトライできたのでしょう。郊外の方が家賃も安かったこともあり、多くの音楽家たちはこの劇場の周辺に移り住んできました。

ベートーヴェンもこの劇場に住んでいたことは前述のとおり。ベートーヴェンがウィーンにやってきた初期の頃は、この劇場を含め、小さな郊外の劇場で、貧しい市民のために演奏を行っていたそうです。なぜなら、耳の肥えた王侯貴族の前で弾いて、もし失敗をすれば仕事はなくなります。庶民の前なら、多少失敗しても気にせずに自由に新しい演奏にも取り組めます。庶民の間でベートーヴェンの評判が広まると、裕福な貴族たちにも噂は広まり、彼の演奏を聴きにお忍びで足を運んだといいます。

問い合わせ先
アン・デア・ウィーン劇場
所在地/Linke Wienzeile 6, 1060 Wien
TEL/+43 1 58885111
URL/www.theater-wien.at/

ザッハートルテとショコムーストルテの誘惑

(C)オーストリア観光局

ここで少し箸休め。世界的に有名なオーストリアを代表するスイーツ「ザッハートルテ」のお話です。ザッハートルテはチョコレートスポンジの間に杏子ジャムを挟んで、チョコレートコーティングしたケーキで、チョコの濃厚な甘さと杏子の酸味が特徴。

さて、このケーキ、「ホテル・ザッハー・ウィーン」のカフェでいただけますが、予約が取りにくい上に長蛇の列。ならば、カフェ内のショップで購入してホテルやモーツァルト記念像のある王宮庭園などでいただきたいものです。ウィーン子たちは、もっと手軽なミニサイズのザッハーキューブを好んで食べているとか。

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もうひとつ耳寄り情報。地元では、チョコレートケーキというと、実はザッハートルテより、「カフェ・オーバーラー(Café Oberlaa)」というコンディトライ(洋菓子店)の「ショコムーストルテ」も人気です。「カフェ・オーバーラー」は、原材料にこだわり甘さを控えた今風の洋菓子を販売。お店も比較的空いているので、観光合間の休憩に立ち寄ってみてはいかがでしょう。

問い合わせ先
「ホテル・ザッハー・ウィーン」
所在地/Philharmoniker Str. 4, 1010 Wien
TEL/+43 1 514560
URL/www.sacher.com/en/vienna/

「カフェ・オーバーラー」
所在地/15 Seilergasse, 1010 Wien
TEL/+43 1 688 02500
URL/ oberlaa-wien.at

人気ミシュランレストランと、ウィーン2区の人気グルメ店

【スコピック&ローン】コージーな店内でシェアリング

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ウィーン中心部から北東へ向かい、ドナウ運河を渡るとウィーン2区へ出ます。アウガルテン磁器工房の南側に広がるのがカルメリータ地区。ユダヤ人コミュニティの歴史と近代的な再開発が共存する活気あるエリアです。

(C)Florence StoibeR

この地で約20年以上愛されるファミリー経営の名店が「スコピック&ローン」。季節の素材をふんだんに使ったオーストリアと地中海のフュージョン料理が中心で、シェアリングがコンセプト。どのお料理も家庭的な味わいで、ホッと一息つけるお店です。

問い合わせ先
「スコピック&ローン」
所在地/Leopoldsgasse 17, 1020 Wien
TEL/+43 1 219 89 77
URL/ skopikundlohn.at/en/home-2

【カフェ・カンデル】古都ウィーンの今を味わう

(C)Robin Peller

ウィーン第7区ノイバウ(Neubau)は、伝統的な古い街並みと新しいクリエイティブカルチャーが混ざり合うトレンディ地区。ここで、今、地元の若者に支持されるミシュランガイド掲載レストランが「カフェ・カンデル」。旬の食材を生かし、オーストリアの食文化に自由な発想を加えたお料理は、繊細でありながら遊び心たっぷり。

(C)Robin Peller

個性豊かなワインやカクテルも評判が高く、夏は緑に包まれた中庭テラスでアペロから始めるのがおすすめです。

問い合わせ先
「カフェ・カンデル」
所在地/Kandlgasse 12/2, 1070 Wien
TEL/+43 1 890 893 815
URL/cafekandl.at

ハプスブルク帝国時代より、皇帝自らが市民へ芸術の啓蒙を行い、中世の頃から豊かな教会音楽やクラシック音楽に触れてきたウィーンの人々。土地の暮らしに一歩踏み込んでみると、多くの劇場やコンサートホール、教会や修道院などで音楽を楽しむ贅沢が身近にある環境こそが、ウィーンを揺るぎない芸術の街にしていることに気づかされるはずです。

※1 13~19世紀まで神聖ローマ帝国を世襲で統治。巧みな政略結婚により領土を拡大し、16世紀にはスペイン、ネーデルラント(現在のオランダ・ベルギー周辺)、イタリア、新大陸にまで及ぶ広大な領土を獲得し、世界帝国を築き上げた。

※2 モーツァルトが1779年3月に23歳で完成させた美しい宗教曲。キリエ、グローリア、クレドなど5つの部分で構成。1779年4月にザルツブルク大聖堂の復活祭で使われた。

※3 国際オペラアワード(International Opera Awards)とは、世界のオペラ界における優れた業績を表彰する、イギリス発の国際的な賞。2013年にイギリスの月刊誌『オペラ・マガジン』によって開始。世界中の優れたオペラ公演、歌手、指揮者、演出家、歌劇場、音楽祭などを称える。

取材協力
ウィーン市観光局
URL/www.wien.info/ja

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