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手は口ほどに#22:気鋭のパティシエがつくるのは、クラシックで新しいフランス菓子

  • 2026.9.28

働く手は、その人の仕事ぶりと生きてきた人生を、雄弁に物語る。達人、途上にある人、歩み始めた若者。いろいろな道を行く人たちの声にゆっくりと耳を傾けるポートレート&インタビュー連載。

photo: Masanori Akao / text & edit: Teruhiro Yamamoto

「Taisuke Endo」のパティシエ・遠藤泰介
BRUTUS

子供の頃は、工作やプラモデルをつくるのが好きだった。

やがて、ホテルの厨房に立つようになった。若い頃は、とにかく働いた。「就業時間は9時からなのに、6時には厨房に行ってました。7時に行ったら、遅刻のように言われたことも」。教えられたことよりもひとつ上の仕事をやりたかった。だから、長い時間働いた。そうやって、仕事を覚えていった。

仕事に対する考え方が変わったのは、フランスで働いた2年間だ。フランスのアルザスにある〈ルレ・デセール パティスリーカム〉で働き、パリでも研修を受けた。そのオーナーシェフであるマチュー・カム氏は、かつて幕張にあった〈ピエール・エルメ サロン・ド・テ イクスピアリ〉で、若き日の遠藤さんがスーシェフを務めたときのシェフであった人物。その後、マチュー氏はフランスに戻り、祖父から続く老舗パティスリーを引き継いでいた。ピエール・エルメの直弟子でもあるマチュー氏と10年ぶりに一緒に仕事をして学んだのは、フランス菓子の技術だけではない。「仕事は何時までと決めたら、その時間まで。ただし、オーナーが誰よりもいちばん働いているんです」

日本に戻って自分の店をつくったときも、自分自身が働きたいと思える店を目指した。店のオープンが10時30分で、厨房での作業は8時から。週末はケーキをつくる量が増えるので7時半にスタートするが、それでも昔の働き方とは違う。「お客様にとってもスタッフにとっても、ここが小さなフランスであってほしいなと思っています」

WAGURI(和栗)と名付けられたモンブラン
WAGURI(和栗)と名付けられたモンブラン。2種類のマロンクリームを絞り、プードル・デコール(粉糖)で仕上げる。
スタッフとロールケーキを焼く様子
スタッフがふんわりと焼きあげたロールケーキのスポンジが、遠藤さんが巻くころには、いい具合の厚さに落ち着いている。
生クリームを塗る様子
スポンジに生クリームを均一に塗っていく。パレットナイフを持つ手を止めて、「ボクシングで痛めた肩が痛いなぁ」
ロールケーキを巻く様子
ロールケーキには、季節ごとのおいしい素材が巻かれている。秋であれば、梨のコンポートと栗の実、栗のクリーム。
ケーキを作る遠藤泰介さん
「スタッフたちのチームがいるからケーキをつくることができる」といっても、最後の仕上げは遠藤さん自身が行う。
厨房に飾られていた師匠との写真
厨房に飾られていた三枚の写真。遠藤さんがシェフと呼ぶ師匠マチュー・カム氏と、フランスで働いたときの仲間、そして現在の店のスタッフたちと撮ったものだ。
「Taisuke Endo」の店内
学芸大学駅にある「Taisuke Endo」ではケーキ、パン、焼き菓子の販売はもちろん、朝食などをサーブするカフェスペースもある。
並べられたケーキ
美しいケーキが、次々とケースに並べられていく。クラシックなフランス菓子へのリスペクトと、遠藤さんならではの工夫が感じられる。

ケーキづくりのモットーは、「シンプルで、おいしく、きれいに」。といいながら、伝統的なケーキのレシピにもひと捻りある。「パリブレストもアーモンドペーストではなくて、日本人が懐かしさを感じるピーナツバターを入れている」。フランスで学んだからフランス菓子というわけではなく、自分自身のお菓子。「現地のものよりもおいしいと思ってつくっている」

店がオープンする10時30分に、並べられたケーキは約20種類。テーブルいっぱいにパンも並んだ。それらのケーキやパンの多くが、7時半から3時間ほどでつくられたものだ。「自分ひとりでつくっているわけじゃありませんから」。自分が若い頃に長時間働いたからといって、今一緒に働く20人ほどのスタッフに同じ働き方を求める必要はない。モンブランのクリームを絞っているときも、横でチョコレートを削るスタッフの手もとにも目を配る。

いっぽうで、仕事には妥協しない。「お客様は、僕がつくったケーキを買いたいわけです。1年目のスタッフがつくったから仕方ない、というのは通用しない」。店の名前を「Taisuke Endo」としたのは、「それが責任というもの」と考えたからだ。

ケーキを作る遠藤泰介さん
スタッフが完成間近までつくったタルトフランボワーズの形を整えながら、ピスタチオで色を添えていく。フランスのクラシックなタルト菓子。
削り出されたチョコ
削り出されたチョコレートが、花びらが散ったように見える。一見すると無造作なパーツのひとつひとつに、パティシエの美学が宿っている。
フォレノワール
チョコレート生地とムースを合わせた上に花が咲いたようなフォレノワールは、遠藤さんが修業したフランスのアルザス地方でも親しまれている伝統菓子だ。
遠藤さんの仕事道具
いくつものサイズのパレットナイフ、ペティナイフ。チームで共用しているケーキづくりの道具は、清潔に機能的に配置されている。
オペラピスターシュ
伝統菓子のガトーオペラをアレンジしたオペラピスターシュ。「Taisuke Endo」と名前が入ったペーパートレイに載せていく。
スタッフへ目を配る遠藤泰介さん
一瞬だけ手を止めて、スタッフの作業に目を配る。ホールケーキをつくっていたスタッフに、「そこのクリームは二重に絞って」と的確な指示が飛ぶ。
パンの仕上げ
焼きあがったパンを仕上げるのは、ケーキと同様に遠藤さんの仕事だ。パンの表面のデコレーションとして、粉糖をふりかけていく。
陳列されたケーキやパン
ケーキ、パン、フールセック(焼き菓子)。「働いているスタッフたちにとっても、どれもできたほうが嬉しいじゃないですか」

厨房に、アルザスで働いていたときのシェフと撮った写真が飾られていた。「厳しい人です。ただ、愛がある」。フランス時代の写真の隣には、「Taisuke Endo」のスタッフたちと撮った写真が飾られている。「一生いっしょに働くことはない。独立する人もいるし、結婚して辞める人もいる。それでも、ここにいるときは、楽しくやれたらなと思います」

週末限定でつくられる季節のロールケーキ。大きく焼かれたスポンジの上に梨のコンポートと栗のペーストを載せて、遠藤さんがギュギュッと慎重に巻いていく。そして、「今日のスポンジの焼き上がりは、いいなぁ」と担当したスタッフを明るく褒める。「教えてくださった先輩のおかげです」と、次のスポンジを運んできた女性スタッフが答える。いい素材。いいレシピ。いいチーム。おいしいケーキには、理由がある。

「お客様からおいしいと言われると嬉しいです。デパートの催事で行列ができるのは、ほんとうにありがたい」。素材の状態を見る。温度を読む。手を動かす。時間を計る。フランス菓子の技術を、次の世代へ渡していく。

それでも、まだ終わってはいない。パリに店を出したいという夢も、諦めたわけではない。自分にしかつくれない菓子を、自分の名前でつくる。その先に、パリがある。

子供の頃は、工作やプラモデルをつくるのが好きだった。手を動かして何かをつくるのが好きだった少年は、今もまだ、その続きをつくっている。


profile

遠藤泰介さん
BRUTUS

遠藤泰介(パティシエ)

えんどう・たいすけ/1986年生まれ、40歳。調理師学校を卒業後、レストランやホテルで経験を積み、パティシエの世界に入る。〈ピエール・エルメ サロン・ド・テ イクスピアリ店〉にてスーシェフ、ザ・ペニンシュラ東京でショコラ部門のシェフドパティシエ、〈パティスリーカメリア銀座〉のオープニングシェフを務める。2022年に渡仏し、アルザスの〈ルレ・デセール パティスリーカム〉で働き、フランス国内のパティスリーで研鑽を積んで帰国。2024年7月に、自身の店「Taisuke Endo」を学芸大学駅にオープンした。日本中のデパートで開催される催事でも行列ができる、注目のパティシエ。最近は、趣味のボクシングで心身を鍛えている。

Taisuke Endo(タイスケ・エンドウ)
東京都目黒区鷹番2-4-7鷹番マンション1F
TEL:03-4400-6756
営:10時30分~19時
休:月曜
HP:https://maison-te.jp/

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