1. トップ
  2. 暮らし
  3. 新幹線に乗り遅れてドアを『ドンドン…』現役鉄道員が語る「ちょっとだけ開けて」が無理なワケ

新幹線に乗り遅れてドアを『ドンドン…』現役鉄道員が語る「ちょっとだけ開けて」が無理なワケ

  • 2026.8.15
undefined
出典:PhotoAC ※画像はイメージです

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

旅行や出張などで新幹線や電車を利用する際、発車時刻ギリギリになってしまい焦った、という経験がある方もいるかもしれません。乗り遅れてしまい駅員に懇願する人の様子がSNSなどに投稿されることも。実際、筆者も、駅のホームで、すでに扉が閉まっている列車の車体をドンドンと叩いてアピールしている人の姿をまれに見かけることがあります。

しかし、どれだけ強く叩いても、一度閉まった扉が再び開いて乗車できることは原則としてありません。それどころか、非常に危険な大事故につながる恐れがあります。なぜ扉を開けられないのか、そして万が一乗り遅れた時にはどうすればいいのか、駅の現場の裏側に迫ります。

扉を叩く行為が引き起こす危険

言うまでもなく、電車には分単位で厳密な発車時刻が決められています。筆者が以前、駅のホームで案内業務をしていた時のことです。

発車時刻を迎え、すべての扉が閉まり、乗務員が安全確認を終えてまさに電車が動き出そうとしたその瞬間でした。一人のお客様がホームの階段から駆け下りてきて、すでに閉まっている扉に手をかけ、電車に乗ろうとしたのです。

それに気づいた車掌が、すぐにブザーで運転士に合図を送って電車の発車を間一髪で止めると同時に、ホームにいた我々駅員が慌ててお客様を電車から引き離しました。

十分に安全を確保したうえで改めて電車を発車させましたが、もし発見が少しでも遅れていたら、お客様が電車と接触したり、ホームの下へ引きずり込まれたりする大事故になりかねない、非常に恐ろしい事象でした。お客様は最初不満そうにしていましたが、我々駅員からの注意に納得された様子で、次の電車で目的地へと向かわれました。

なぜ「ちょっとだけ開ける」ができないのか

では、なぜ目の前に電車がいるのに、扉を再度開けて乗せてくれないのでしょうか。

自動車の運転をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。路肩に停車している車が、発車のために周囲の安全を確認し、ウインカーを出し、まさにアクセルを踏んで発進しようとしているタイミング。この時、突然車のボディを叩いて乗り込もうとする人がいれば、ドライバーは驚き、危険を感じるはずです。

電車がホームから発車しようとしているのは、まさにこれと同じなのです。安全のためには、まず、電車に近づいている人を引き離さなくてはなりません。

さらに、時間の決まっていない自動車ではその後に乗せる判断をするかもしれませんが、発車時刻の決まっている鉄道ではすでに乗車されているお客様ができるだけ時間通り目的地へ到着することが優先です。結果として、再度扉を開いて乗り遅れた人を乗せるという判断に至ることはほぼありません。

また、一度閉めた扉を再び開けると、すでに車内で扉付近に寄りかかっている別のお客様が車外へ転落する危険性があります。さらにシステム的な問題として、新幹線をはじめとする一部の鉄道では、一度「発車」の操作を完了すると、安全管理の規定上、容易に後戻りして扉を開けることができない仕組みになっている場合もあります。

近年急速に普及しているホームドアも同様で、電車が発車して停車位置からずれてしまうと、物理的にもシステム的にも扉を連動させて開けることが不可能なのです。

なお、「もし体の一部などがドアに挟まったまま発車してしまったら、そのまま止まれないの?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、ご安心ください。人やカバンが挟まるなどの命に関わる緊急事態が発生した場合や、それをシステムが検知した場合は、安全装置が作動したり、異常に気がついた乗務員や駅員が措置をおこなったりして、直ちに緊急停止する仕組みになっています。あくまで、乗り遅れた人を乗せるための都合の良い再開閉ができないということです。

乗り遅れてしまった時の正しい対処法

もし乗り遅れてしまった場合は、絶対に電車には近づかず、次の電車を待つのが一番の解決策です。しかし、指定席を予約していた場合や、荷物を車内に残してしまった場合はどうすればよいでしょうか。

まず、新幹線や特急などの指定券を持っている場合、乗り遅れるとその指定席は無効になります。しかし、多くのJR線などでは同日の後続列車の自由席であればそのまま乗車できる救済措置が設けられています。ただし、全席指定の私鉄特急(小田急ロマンスカーなど)の場合は注意が必要です。鉄道会社や列車の種類によっては乗り遅れると特急券が一切無効となり、後続列車への救済措置がありません。特急券の完全な買い直しが必要になるケースも少なくありません。

いずれにしても、まずは駅員にご相談ください。

また、「先に家族だけが乗ってしまった」「網棚に荷物を置いたまま自分だけホームに出て乗り遅れた」という場合も、決して動き出す電車を追いかけたりしないでください。すぐに駅員に相談していただければ、駅員から車掌や目的地の駅に連絡を取り、ご家族の方を案内したり、荷物を回収して安全に保管するなどの対応をおこなうことができます。

パニックになる前に深呼吸を

目の前で扉が閉まれば、誰しも焦ってパニックになってしまうものです。しかし、無理な乗車はご自身の命を危険に晒すだけでなく、多くのお客様を巻き込む事故や大規模な遅延につながります。万が一乗り遅れた時こそ、深呼吸をして冷静に対応し、安全な鉄道運行へのご協力を心よりお願いいたします。


参考:
西武鉄道からのお願い(西武鉄道)
列車の自動運転技術:開発秘話:活動事例(東芝)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、同業界に15年以上従事。鉄道部門だけでなく、タクシーやバス、小売りといった関連事業にも幅広く携わる。現在はWebライターとしても、広報を担当した経験を活かし、コラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ