1. トップ
  2. エピソード
  3. 看護師「あれ?」高齢患者の薬ケースに“見慣れない錠剤”が…家族に確認すると、発覚した“予想外の事実”に「ヒヤリとした」

看護師「あれ?」高齢患者の薬ケースに“見慣れない錠剤”が…家族に確認すると、発覚した“予想外の事実”に「ヒヤリとした」

  • 2026.8.18
undefined
出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、利用者さん本人の体調だけでなく、自宅での生活環境にも目を向けながら支援を行っています。特に認知症のある高齢者の場合、普段と少し違う環境の変化が思わぬ事故につながることも少なくありません。

今回ご紹介するのは、服薬確認中に見つかった「見慣れない薬」から始まった出来事です。

一歩間違えれば重大な事故につながっていたかもしれない一方で、誰も悪気はなかったという、在宅療養ならではのヒヤリとした体験でした。

「先生からもらった薬ですよ」

Aさんは軽度認知症のある高齢女性です。その他にも慢性疾患があり、訪問看護では体調確認と服薬状況の確認を行っていました。

その日はいつも通りの訪問でした。血圧を測り、体調を確認したあと、私は薬の管理状況を見せてもらいました。

「Aさん、お薬ちゃんと飲めていますか?」

「飲めてますよ」

「飲み忘れはないですか?」

「大丈夫。先生のお薬だからちゃんと飲んでます」

そう言いながらAさんは薬ケースを見せてくれました。

その中に、一つだけ見慣れない錠剤が混ざっていることに気づいたのです。

「あれ?」

思わず声が出ました。普段確認している処方薬とは明らかに形も色も違います。小さな白い錠剤でした。私は薬剤情報と照らし合わせましたが、一致するものがありません。

「Aさん、このお薬はいつから飲んでいるんですか?」

「最近よ」

「最近というのは、数日前くらいですか?」

「そうそう。最近もらったの」

Aさんは迷いなく答えます。

その様子はとても自然で、むしろ確信を持っているようにも見えました。

ただ、ここで私はさらに違和感を覚えました。

処方内容と一致しない薬

訪問看護では服薬確認も重要な業務の一つです。

認知症のある方の場合、「最近もらった」「新しく始まった」という記憶が曖昧なまま、別のものを薬として認識してしまうことがあります。私はもう一度確認しました。

「最近、病院でお薬が追加になったりしましたか?」

「ううん、変わってないと思うけど」

「ご家族のどなたかが病院に行って薬をもらってきた、ということは?」

「それもないよ」

会話を重ねても答えは一貫していました。

Aさんの中では、その錠剤は完全に自分の薬として認識されているようでした。さらに薬ケースの周囲を確認すると、小さな袋が一緒に置かれていました。

「この袋は何ですか?」

「ああ、それも薬でしょ?」

「どなたの薬か分かりますか?」

「私のじゃないの?」

しかし袋には病院名も患者名もありません。

ますます状況は不明瞭になっていきます。

数日前からの家族の滞在と混入のタイミング

ちょうどその時、居間から娘さんが出てきました。夏休みということもあり、数日前から息子さん家族が帰省していると聞いていました。つまり、この家にはここ数日、普段とは違う人の出入りがあったということです。

私は念のため確認しました。

「最近、ご家族のどなたかがお薬を持ち込まれたり、置き忘れたりしたことはありますか?」

すると娘さんは少し考え込みながら言いました。

「薬…ですか?」

「はい。この錠剤なんですが」

私が見せると、娘さんの表情が変わりました。

「あっ…それ、もしかして」

「何か心当たりありますか?」

「犬の薬かもしれません」

「犬、ですか?」

一瞬、状況がつかめませんでした。

「実は息子家族が帰省していて、犬も一緒に来てるんです」

「その犬が毎日飲んでいる薬があって…」

ここでようやく全体像が見えてきました。

数日前から家族が滞在している中で、犬の薬が持ち込まれ、生活空間の中に自然に置かれていた。

そして、いつ混ざったのか分からないタイミングで、Aさんの薬ケースの近くに紛れ込んでしまっていたのです。

犬の薬と分かった瞬間、胸をなで下ろした

確認の結果、その錠剤は犬の内服薬でした。高齢犬のために処方されているもので、人間の薬とは全く異なるものでした。

どうやら数日前、犬に薬を飲ませる際にテーブルへ一時的に置かれ、そのまま片付けられずにAさんの薬の近くへ紛れ込んでしまったようです。ただし幸いなことに、残薬を確認した結果、この時点でAさんはまだその薬を服用していませんでした。

つまり、誤飲には至っていなかったのです。娘さんも安堵した表情で話しました。

「いつ混ざったのか全然分からなくて…。数日前から家族が出入りしていたので、正直気づけませんでした」

まさにその「いつの間にか混ざっていた」ことが、今回の一番の問題でした。もしAさんが自分の薬だと思って服用していたら、体調に影響が出ていた可能性も否定できません。

「本当に危なかったですね」

私がそう伝えると、娘さんは小さくうなずきました。

「そうですね。家族が増えて普段と違う生活になっていたので、どのタイミングで混ざったのか全く分からなくて…」

その言葉を聞きながら、私は改めて在宅療養の難しさを感じました。本人だけでなく、家族や生活環境の変化も含めて確認することが、事故を防ぐためには欠かせないのだと実感しました。

在宅療養では「いつ混ざったか分からない」ことが起こる

訪問看護をしていると、利用者さん本人だけでなく、その周囲の環境変化にも注意が必要だと感じます。

特に夏休みや年末年始、お盆などは家族構成が一時的に変化します。親族が滞在する。孫が出入りする。ペットが一緒に来る。荷物が増える。生活動線が変わる。

その中で、「いつの間にか混ざっていた」「どのタイミングで置かれたか分からない」という状況は珍しくありません。

今回も、誰かが悪かったわけではありません。家族は犬の世話をしていただけであり、Aさんも自分の薬だと信じていただけでした。しかし、数日前からの環境変化の中で、気づかないうちにリスクが生まれていたのです。

訪問看護では、体調やバイタルだけでなく、「いつもと違うものが紛れ込んでいないか」「生活環境の変化がどこに影響しているか」を見ることも重要な役割です。

あの日、見慣れない錠剤に気づけたことで事故は防げました。

今でも夏休みの時期になると、私はAさんの「じゃあ私、犬になるところだったわね」という言葉とともに、いつ混ざったのか分からない怖さを思い出します。忘れられないヒヤリとした出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ