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要望を少しだけ変えて仕上げるのは、前に言われた一言が忘れられないから

  • 2026.7.26
ハウコレ

要望どおりにしなかったのは、意地悪でも手抜きでもありません。

ただ、あの人の指先を守りたかっただけ。それを伝えそびれた自分に、今も少し後悔しています。筆をラベンダーのジェルに浸したまま、私は前回のお客さまの一言を思い出していました。

欠けやすいデザイン

ネイリストとして働いて、もう10年近くになります。半年ほど前から通ってくださっているお客さまがいて、その日も予約表にお名前がありました。席に着くなり、その人はSNSで保存した画像を見せてくれました。くすみラベンダーに、全部の指へストーンを散らしたデザインです。「この前のネイル、1週間で欠けちゃったんですよね」。そう言いながら、「全部の指にストーンを付けて、長さも長めにしたいです」と続けます。私は内心で迷いました。欠けて困ったと話す人に、いちばん欠けやすい仕上がりを渡していいのだろうか、と。

わがままな客だなんて、思ったことは1度もありません

この仕事を始めたころ、私は言われたとおりにだけ作っていました。長さも、石の数も、色みも、注文のまま。けれど、そうして仕上げた爪ほど、数日で欠けたと連絡が来たのです。あの申し訳なさを覚えてから、私は指の形や暮らしぶりに合わせて、少しずつ手を加えるようになりました。この日も、ストーンは負担の少ない2本に絞り、長さは指先になじむよう整えました。「もう少し長くできますか」と聞かれたとき、つい手を止めずに答えてしまいました。「このくらいのほうが、きっと長持ちしますよ」。それが本心でした。

ありがとうございますの声が、いつもより短かった

仕上がりには自信がありました。色も形も、その人の手にきれいになじんでいます。会計のとき、その人は「ありがとうございます」と言ってくれました。けれど、次の予約の話は出てきません。いつもなら日程を決めて帰る人です。指先ではなく、その人の表情を見ていればよかったと、後になって思いました。守りたくて変えたことも、伝えなければ、希望を無視したのと同じに見えてしまう。そのことに、私はやっと気づいたのです。

そして...

あの人がまた来てくれるかは、わかりません。もし次があるなら、今度は筆を動かす前に理由をきちんと話そうと決めました。あなたの爪を長く楽しんでほしいから、ここを変えたいのだと。要望を守ることと、その人を守ることは、いつも同じではないのだと、この仕事で少しずつ学んでいます。

(30代女性・ネイリスト)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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