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不安を和らげる「チューイングガム」を高校生が開発

  • 2026.7.23
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

噛むだけで不安や緊張が和らぐガムが誕生するかもしれません。

このほど、米国の高校に通う16歳のサラ・ホティさんとザッカリー・ニズカーさんが、不安の軽減に役立つ可能性のある植物成分を配合した「薬用チューイングガム」を開発しました。

ガムをかむリズミカルな動作と、パッションフラワー(和名:トケイソウ)に含まれる成分の働きを組み合わせるという発想です。

2人は米ジョージア州のマッキントッシュ高校に在籍しており、この研究は2026年5月に米アリゾナ州フェニックスで開催された「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)」のトランスレーショナル医科学部門で4等賞を受賞しました。

目次

  • 「かむ動作」と「植物成分」を組み合わせる
  • ガムをかまずに「成分の放出」を確かめる

「かむ動作」と「植物成分」を組み合わせる

サラさんとザッカリーさんの画像がこちら

ザッカリーさんが、このガムを思いついた背景には、身近な家族の経験がありました。

彼の祖母は強い緊張や不安に悩まされており、処方薬によって症状は改善したものの、重い副作用が現れたといいます。

一時は、歩いたり立ったりすることさえ難しくなったそうです。

この経験からザッカリーさんは、必要なときに手軽に利用できる、別の選択肢を作れないかと考えるようになりました。

そこで目を付けたのが、高校生の間でも日常的に利用されている「チューイングガム」です。

ガムなら、錠剤や特別な器具とは異なり、学校や外出先でも比較的自然に使用できます。

さらに、ガムをかむ行為そのものについても、ストレスや不安を軽減する可能性を示した研究があります。

過去の研究をまとめたレビューでも、ガムをかむことは低コストで実行しやすい不安対策になり得ると報告されています。

ただし、すべての場面や人に同じ効果が出ると確定しているわけではなく、効果の大きさや仕組みについては研究が続いています。

2人がガムに加えたのは、パッションフラワーの一種である「Passiflora incarnata」の抽出物です。

Passiflora incarnataの画像/ Credit: en.wikipedia

パッションフラワーは白や紫色の花を咲かせるつる性植物で、伝統的には鎮静作用を期待したハーブとして利用されてきました。

この植物には「フラボノイド」と呼ばれる成分が含まれています。

フラボノイドは多くの植物が作り出す化学物質で、植物の組織を酸化による損傷から守る働きなどを持っています。

パッションフラワーの抽出物については、脳内で神経活動にブレーキをかけるGABAという情報伝達物質の仕組みに作用する可能性が報告されています。

GABAは「ガンマアミノ酪酸」の略称で、ニューロンが過剰に興奮するのを抑える役割を持ちます。

パッションフラワーの成分がGABAの受容体や取り込みに影響し、神経系を落ち着かせる可能性が考えられているのです。

ただし、「パッションフラワーを摂取すれば脳内のGABAが単純に増える」と断定できるわけではありません。

詳しい作用の仕組みは完全には解明されておらず、人を対象とした研究もまだ十分ではありません。

2人のアイデアは、この植物成分をガムに練り込み、かむ動作によって少しずつ放出させるというものです。

リズミカルな咀嚼(そしゃく)による作用と、パッションフラワー抽出物による作用を組み合わせれば、どちらか一方だけの場合よりも緊張を和らげやすくなるのではないかと考えました。

試作したガムには、ガムベース、粉砂糖、複数の甘味料、柔軟剤、パッションフラワーの抽出物などが使われました。

当初、2人は地元に自生するパッションフラワーから自分たちで成分を抽出する予定でした。

しかし、実験を行ったのが冬で、花の季節が終わっていたため、最終的には市販の抽出物を使用しました。

ガムをかまずに「成分の放出」を確かめる

ガムを完成させた2人には、大きな問題が残されていました。

自分たちが作った試作品を、いきなり人に食べてもらうことはできなかったのです。

安全性や倫理面の審査を受けていないガムを人に渡し、不安が軽くなるか試すわけにはいきません。

そこで2人は、人体を使わない実験によって、ガムの中に植物成分が均等に含まれているか、さらにガムが細かくなったときに成分が外へ放出されるかを調査。

最初の実験では、完成したガムを薄く切り、顕微鏡で内部を観察しました。

実際に試作したチューイングガムがこちら

そしてコンピューターソフトを使い、視野内に見えるフラボノイド粒子の分布を解析。

ガムによって含まれる量が大きく異なれば、食べる部分ごとに摂取量が変わってしまいます。

そのため、成分ができるだけ均一に混ざっていることが重要です。

2人が用いた評価方法では、ばらつきを示す値を15未満にすることが目標とされており、試作品では8.4という結果が得られました。

これを受けて、2人は成分が十分均等に分布していると判断しました。

次に行ったのが、フラボノイドを検出する「シノダ試験」です。

これは、試料に特定の試薬を加えたときの色の変化から、フラボノイドが存在しているかを調べる方法です。

しかし、シノダ試験は通常、液体の試料に対して行われます。

2人が作ったガムは固体であるため、そのままでは内部のフラボノイドが液体中に出てきません。

最初にガムを小さく切ってアルコールに3時間浸しましたが、目立った変化は起こりませんでした。

フラボノイドがガムの中に閉じ込められたままで、液体中へ十分に移動しなかったためです。

ここで2人は、実際に使用するときには歯でガムを繰り返しかみ、より細かく変形させることに気づきました。

しかし自分たちで試作品をかむことはできません。

そこで、ガムを手でさらに細かくちぎり、かむ動作によってガムが砕かれる状態を再現しました。

さらに、液体に浸す時間を3時間から3日間へと延ばしました。

すると試験液が鮮やかなオレンジ色に変わりました。

これは、ガムの内部にあったフラボノイドが液体中へ放出され、検出できる状態で残っていたことを示します。

塩酸などの厳しい条件にさらした後にも反応が確認されたことから、成分がすぐに完全分解してしまうわけではないことも示されました。

ただし、この実験で証明されたのは、試作ガムにフラボノイドが含まれており、ガムを細かくすることで成分を取り出せるという点までです。

実際に人がかんだとき、どれだけの成分が唾液中に放出されるのかは測定されていません。

放出された成分が体内に吸収されるか、どの程度の量が適切なのか、実際に不安が軽減するのかについても、まだ検証されていません。

パッションフラワー自体についても、不安症状を軽減する可能性を示す小規模な研究はあるものの、結論を出すには研究が十分ではないとしています。

眠気、めまい、混乱などの副作用や、薬との相互作用が起こる可能性もあるため、現段階の試作品を治療薬とみなすことはできません。

それでも、今回の研究の面白さは、不安を治療できるガムが完成したことではなく、「かむ」という身近な行動を、植物成分を届ける仕組みとして利用しようとした点にあります。

チューイングガムは持ち運びやすく、必要なときにすぐ使用できるという特徴があります。

将来、安全性や有効性が人を対象とした試験で確認されれば、面接や試験、プレゼンテーションを控えた人が一時的な緊張に対処する、新しい選択肢になるかもしれません。

参考文献

Teens invent first chewing gum to tackle anxiety
https://www.snexplores.org/article/chewing-gum-relieve-anxiety

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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