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トンボの空中戦、実は「いくつかの単純なルール」が隠されていた

  • 2026.7.22
トンボの空中戦に隠されたルールとは / Credit:Samuel T. Fabian(ICL)et al., Journal of the Royal Society Interface(2026), CC BY 4.0

池の上で2匹のトンボが遭遇すると、空中に複雑な輪を描く戦いが始まります。

一方が後ろを取ったかと思えば、次の瞬間には立場が逆転し、ときには互いに回転しながら水面へ向かって下降します。

まるで高度な戦術を使い分けているようですが、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームが飛行軌跡を詳しく調べると、その裏にはいくつかの単純なルールが隠れていました。

詳細は、2026年7月1日付で科学誌『Journal of the Royal Society Interface』に掲載されています。

目次

  • トンボの空中戦を高速カメラで撮影し、ルールを解き明かす
  • トンボの空中戦では「相手の背後」を取ることが重要

トンボの空中戦を高速カメラで撮影し、ルールを解き明かす

オスのトンボは、池や小川の周辺に繁殖のための縄張りをつくり、侵入してきたライバルと激しい空中戦(追跡戦)を繰り広げます。

しかし、オス同士の追跡は獲物を捕らえるときの飛び方とは目的が異なるようです。

捕食では、追う側と逃げる側の役割がはっきり分かれ、トンボは獲物の進行方向を先読みするように飛んで接触を目指します。

これに対し、今回記録された小型の赤いトンボTrithemis auroraの空中戦では、オス同士の直接接触は観察されませんでした。

そこで研究チームは、トンボが空中戦で何を達成しようとしているのか、また、瞬間ごとの飛行をどのようなルールで調整しているのかを調べました。

研究チームは台湾の台北市立動物園で、2台の同期した高速カメラを使ってオス同士の争いを毎秒250コマで撮影。

2方向から撮影した映像を組み合わせることで、2匹の位置や動きを三次元で復元しています。

解析には、オス同士の空中戦から得られた102組のペア軌跡、計204本が使われました。

さらに比較のため、小さな獲物を捕らえる9本の飛行軌跡も復元しました。

研究者たちは速度や加速度、旋回の速さに加え、それぞれのトンボから相手がどの方向に見えていたかを計算しました。

また、円形の経路を動く人工標的を追わせ、距離によって速度をどう調整するかを調べるとともに、単純な追跡ルールを組み込んだシミュレーションも行っています。

その結果、空中戦の中心は、「相手を前方に捉えながら有利な後方位置を取り合うこと」だと考えられました。

そして役割交代やループ、下降する螺旋飛行の少なくとも一部は、複雑な専用戦術を仮定しなくても、視覚による追跡と速度調整から説明できることが示されました。

より詳細な結果を次項で見ていきます。

トンボの空中戦では「相手の背後」を取ることが重要

相手の見える方向と旋回を照らし合わせると、トンボは相手が右に見えれば右へ、左に見えれば左へ曲がっていました。

相手が正面に近づくほど旋回反応は弱くなったため、基本的には相手を前方へ戻すように飛んでいたと考えられます。

さらに、その狙いの中心は真正面ではなく、水平線より約12度上でした。

つまり追う側は、相手より少し低い位置に入り、ライバルを正面上方に保とうとしていたのです。

相手の位置と旋回反応の時間差を解析すると、視覚情報が飛行へ反映されるまでの遅れは約24ミリ秒と推定されました。

また人工標的を追わせた実験では、標的が40センチ以内に入ると、トンボは標的の速度に近づくよう調整していました。

標的が25センチ以内に来ると減速する一方、50センチより遠いときには加速する傾向が見られました。

この速度調整は、遠くでは距離を縮め、近くでは衝突や追い越しを防ぎながら、相手の後方を保つのに役立つと考えられます。

それでも追う側が相手より速すぎると、相手の進路を通り越してしまいます。

すると相手を再び正面へ戻そうとして急旋回するため、軌道に円やループが生じます。

シミュレーションでも、反応の遅れを入れなくても、追跡側の速度が高ければ行き過ぎやループが再現されました。

さらに、先頭を飛ぶ不利なトンボが横方向へ曲がりながら下降すると、後ろの相手の進路を横切り、そのまま後方へ回り込む場合がありました。

これによって、追う側と追われる側が入れ替わります。

一方、両者が同じ程度に強く旋回した場合には、互いを追いながら下降する螺旋飛行に似た動きがシミュレーションでも現れました。

加えて、空中戦中の飛行速度の中央値は秒速2.1メートルで、今回の記録上の最高速度である秒速8.5メートルを大幅に下回っていました。

速度が高くなるほど旋回半径が広がるため、低めの速度域が小さく正確に曲がるうえで役立っていた可能性があります。

それでも急旋回時の向心加速度は最大約6Gに達しました。

さらに、飛行時間の36.8%では、トンボは羽ばたかずに短く滑空していました。

滑空にはエネルギー消費や熱負荷を抑える働きがあるほか、相手を追跡する視界を安定させている可能性もあります。

このように、今回の研究により、トンボの空中戦にはいくつかの単純なルールがあると分かりました。

しかし、相手の後方を取ることが具体的にどのような利益をもたらすのか、勝敗がどのよに決まるのかは未解明のままです。

今後は個体を継続的に追跡するとともに、頭部や翅の動きをさらに高解像度で撮影し、視線と飛行制御がどのように連動しているかを調べる必要があります。

さらに、同じ仕組みがチョウやハエなどにも当てはまるかを検証することで、素早く動く標的を追跡する小型飛行ロボットの開発にもつながるかもしれません。

参考文献

Dragonfly aerial fights follow some simple rules
https://phys.org/news/2026-07-dragonfly-aerial-simple.html

元論文

The aerial combat strategy of dragonflies
https://doi.org/10.1098/rsif.2026.0131

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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