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思春期には脳の記憶回路が「再編成」されると判明

  • 2026.7.22
思春期の脳で「再編成」が生じている / Credit:Canva

思春期は、心だけでなく脳も大きく変化する時期です。

米国アルベルト・アインシュタイン医学校(Albert Einstein College of Medicine)の研究チームは、マウスの思春期後期に、長期記憶を支える脳回路が予想外の再編成を経験することを明らかにしました。

この変化の最中には、思春期初期に作られた記憶が一時的に呼び出しにくくなり、成体中期になると再び現れることも確認されています。

研究成果は2026年7月17日付で科学誌『PLOS Biology』に掲載されました。

目次

  • 思春期の脳は再編成されていた
  • 記憶は消えず、一時的に取り出しにくくなっていた

思春期の脳は再編成されていた

人間の脳は、10代を終えた時点で完全に成熟するわけではありません。

判断や感情の調整に関係する変化は、20代半ばから後半まで続くと考えられています。

一方、思春期から若年成人期にかけて、過去の出来事を思い出す回路がどのように成熟するのかは、十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、マウスの「脳梁膨大後部皮質(retrosplenial cortex,RSPまたはRSC)」に注目しました。

RSPは、出来事が「どこで、どのような状況で起きたのか」という情報を含む長期記憶を呼び出す際に重要な脳領域です。

研究チームが特に調べたのは、一部の神経細胞を網目状に包む「ペリニューロナルネット(PNN)」です。

PNNは神経細胞同士のつながりを安定させ、既に作られた記憶回路を守る補強材のような働きを持っています。

そして研究では、生後21日から75日までの雌雄のマウスを使い、RSPや海馬などに存在するPNNの量を比較しました。

さらに、マウスに特定の箱と短い電気刺激を結び付けて覚えさせました。

マウスがその場所を覚えていれば、後に同じ箱へ戻されたとき、恐怖から動きを止める「すくみ反応」を示します。

その結果、RSPでは思春期初期に多く存在したPNNが、思春期後期に大きく減少しました。

背側海馬ではPNNが安定または増加していたため、脳全体で一様に起きた変化ではありません。

また、思春期初期に作られた記憶は後に呼び出しにくくなった一方、生後75日に新しく作られた記憶は、その後も安定して維持されました。

では、PNNの減少と記憶の変化には、どのような関係があったのでしょうか。

より詳しい結果を次項で見ていきます。

記憶は消えず、一時的に取り出しにくくなっていた

生後29日に箱と電気刺激の関係を学んだマウスは、翌日には同じ箱の中で強いすくみ反応を示しました。

つまり、思春期初期でも、場所と経験を結び付けた記憶を正常に作ることができました。

ところが数週間後、思春期後期に同じ箱へ戻すと、すくみ反応は大きく低下しました。

この低下は、繰り返し箱へ入れなかった条件でも起きました。

また、音と電気刺激を結び付けた記憶は保たれていたため、単なる慣れや恐怖反応全体の低下では説明できませんでした。

さらに研究チームが別の箱で再び電気刺激を与えると、マウスは新しい箱だけでなく、反応しなくなっていた最初の箱でも再びすくむようになりました。

最初の記憶は完全に消えたのではなく、脳内に残ったまま一時的に取り出しにくくなっていたと考えられます。

たとえるなら、データは保存されていても、それを見つけるための道筋が乱れていたような状態です。

その原因の一つとして考えられたのが、RSPで起きたPNNの減少です。

PNNが減った時期には、神経回路の活動を整える細胞で、パルブアルブミンという目印も弱くなっていました。

ただし、これは神経細胞そのものが同じ割合で死んだことを意味しません。

追跡実験では、細胞は残っていても、パルブアルブミンの発現が弱くなったものが確認されました。

そこで研究チームは、PNNを安定させる物質をRSPに投与。

するとPNNとパルブアルブミンの目印の減少が抑えられ、思春期初期に作られた記憶反応の低下も軽減されました。

この結果は、PNNの減少が記憶を取り出しにくくする原因の一つだった可能性を示しています。

また、マウスをさらに長く観察すると、弱まっていた記憶反応は生後120日から150日ごろに自然に戻りました。

しかし、マウスは電気刺激を受けた箱だけでなく、刺激を受けていない別の箱でもすくむようになりました。

つまり記憶は戻ったものの、出来事が起きた場所を区別する精度は下がっていたと考えられます。

研究者らは、思春期後期にPNNが一時的に減ることで、古い記憶の安定性が下がる一方、新しい経験に合わせて回路を作り替えやすくなる可能性を考えています。

とはいえ、これはマウスの恐怖記憶を調べた研究であり、人間の思春期にも同じ現象が起きるかは不明です。

統合失調症や大うつ病が現れやすい時期との重なりも指摘されていますが、今回の変化が病気を引き起こすと証明されたわけではなく、更なる研究が必要です。

思春期とは、脳がただ成長するだけでなく、過去の記憶を守る力と、新しい経験を受け入れる柔軟さのバランスを組み直す時期なのかもしれません。

参考文献

How brain remodeling during adolescence shapes memory
https://medicalxpress.com/news/2026-07-brain-remodeling-adolescence-memory.html

元論文

Retrosplenial cortical reorganization during late adolescence introduces instability of contextual memory circuits
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003908

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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