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ペニーワイズの“中の人”でおなじみ、クセ強キャラを確立したビル・スカルスガルドが『デッドマンズ・ワイヤー』で魅せる特異なオーラ

  • 2026.7.19

『センチメンタル・バリュー』(25)で第98回アカデミー賞助演男優賞候補になった父、ステラン・スカルスガルドを筆頭に、『ノースマン 導かれし復讐者』(22)の長男アレキサンダー・スカルスガルド、ドラマ「ヴァイキング~海の覇者たち~」の次男グスタフ・スカルスガルド、さらに五男ヴォルター・スカルスガルドまで俳優として活躍するなど、現在のハリウッドはまさに“スカルスガルド”の大渋滞。右を向いても左を向いても、スカルスガルドだらけである。

【写真を見る】ガス・ヴァン・サント監督はビル・スカルスガルドをサイレント期の名優、ロン・チェイニーになぞらえている(『デッドマンズ・ワイヤー』)

人質を取り、社長からの正式な謝罪を要求する(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
人質を取り、社長からの正式な謝罪を要求する(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

そんな並外れた才能がひしめく一族のなかでも、ひときわ異彩を放つ男がいる。四男ビル・スカルスガルドだ。世界中の観客を恐怖のどん底に陥れた『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)の邪悪なピエロ、ペニーワイズ役で一躍ブレイクを果たした彼は、公開されたばかりの主演作『デッドマンズ・ワイヤー』をはじめ、独特すぎるフィルモグラフィを築き上げている。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズ役で一躍ブレイク [c]Everett Collection/AFLO
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズ役で一躍ブレイク [c]Everett Collection/AFLO

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)の鼻持ちならない権力者、『ノスフェラトゥ』(24)の血に飢えた吸血鬼、『ザ・クロウ』(24)の退廃的なダークヒーローと、ひと筋縄ではいかないクセ強キャラクターを次々と好演。ハリウッドで唯一無二のポジションを確立した。

主席連合の代表の一人、グラモン侯爵を演じた『ジョン・ウィック:コンセクエンス』 [c]Everett Collection/AFLO
主席連合の代表の一人、グラモン侯爵を演じた『ジョン・ウィック:コンセクエンス』 [c]Everett Collection/AFLO

世界になじんでいない感がスクリーンに立ち上るビル・スカルスガルドの特異な存在感

なぜ、これほどまでアクの強い役柄ばかりに挑むのか。自身の演技哲学について彼は、「すべての俳優には安全圏がある。俳優のなかには、その安全圏でできる役しかやらない人もいて、そういう人はいつも同じことの繰り返しだから飽きられてしまう。もし僕に目標があるとしたら、まったく異なる様々なキャラクターを完璧に演じ切ることだね」と語っている。そんなビルのことを父ステランも、「子どもの頃から本当になにも恐れることがなかった」と評しているほどだ。

192cmの長身と長い手足がもたらす身体性が特長のビル・スカルスガルド [c]Everett Collection/AFLO
192cmの長身と長い手足がもたらす身体性が特長のビル・スカルスガルド [c]Everett Collection/AFLO

恐れを知らない探求心に加え、最大の武器と言えるのが、192cmの長身と長い手足がもたらす身体性。そのシルエットは、普通に動いているだけでも妙にクリーチャーっぽく、不気味さと美しさが入り混じって見える。

常に地上から浮遊しているような特異なオーラ(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
常に地上から浮遊しているような特異なオーラ(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

さらに、端正なルックスの瞳の奥には、いつもまどろんでいるような不思議な空気が漂う。人間離れしたプロポーションと、ミステリアスな気配が合わさることで、この世界になじんでいない感覚がスクリーンに立ち上るのだ。どこにいても常に地上から浮遊しているような特異なオーラ。その摩訶不思議な存在感が、キャラクターに底知れぬ狂気とペーソスを与えている。

閉鎖空間のサスペンスを極限まで張り詰めさせた『デッドマンズ・ワイヤー』

そんなビル・スカルスガルド主演の最新作が、『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(97)や『ミルク』(08)のガス・ヴァン・サント監督がメガホンをとったクライムスリラー『デッドマンズ・ワイヤー』だ。

不動産会社に搾取されたと強く信じ込む中年の独身男性トニー・キリシス(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
不動産会社に搾取されたと強く信じ込む中年の独身男性トニー・キリシス(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

舞台は1977年2月のアメリカ。不動産会社に搾取されたと強く信じ込み、社会への怒りを爆発させた中年の独身男性トニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)が、社長の息子である役員の首と散弾銃をワイヤーで固定し人質に取った(無理に外そうとすると頭に銃弾が撃ち込まれる仕組み)という実際の籠城事件に基づくドラマだ。

アル・パチーノ演じる不動産会社社長(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
アル・パチーノ演じる不動産会社社長(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

この作品には社長役で名優アル・パチーノも名を連ねているが、70年代を舞台にした人質劇というシチュエーションは、どうしたって彼が主演した傑作『狼たちの午後』(75)を思い起こしてしまう。だが、ビルのアプローチは、かつてパチーノが見せた狂犬のごとき爆裂芝居とはまったく異なる。

ビル・スカルスガルドが社会の周縁に追いやられた者たちの痛みをスクリーンに生々しく刻み込む(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
ビル・スカルスガルドが社会の周縁に追いやられた者たちの痛みをスクリーンに生々しく刻み込む(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

追い詰められた状況下で彼が見せるのは、まるで怯えた子犬のように哀切極まる鬱屈芝居(パチーノよりもはるかにカラダがデカいのに!)。そのテンパりっぷりが、閉鎖空間のサスペンスを極限まで張り詰めさせ、観客の目を釘付けにする。

名優ロン・チェイニーに例えられるアウトサイダー感

ガス・ヴァン・サント監督は、ビルの才能をロン・チェイニーになぞらえて称賛している。チェイニーといえば、1925年公開の『オペラの怪人』の怪人役などで知られ、自らの肉体を極限まで変容させる役作りから、“千の顔を持つ男”と謳われたサイレント時代の名優だ。

事件はどのような結末を迎えるのか?(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
事件はどのような結末を迎えるのか?(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

異形の存在を演じながらも、その奥底に悲哀や孤独を滲ませたチェイニーの系譜に彼を位置づけたことは、ビル・スカルスガルドという俳優の真髄を鋭く突いている。彼は自身が纏うアウトサイダー感を媒介にして、社会の周縁に追いやられた者たちの痛みをスクリーンに生々しく刻み込んでいるのだ。

実際の籠城事件に基づいている(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
実際の籠城事件に基づいている(『デッドマンズ・ワイヤー』) [c] 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

退廃的な色気を漂わせるマスクと規格外の身体性、そして危ういアンビバレンス。それらが奇跡的なバランスで同居する様は、もはやハリウッドにおいてオンリーワンの存在だ。ペニーワイズという強烈なアイコンから出発したいま、これからも枠に収まることなく進化を続けていくことだろう。

文/竹島ルイ

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