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「50年に1度の大雨」がなぜ"毎年のように"起きるのか…「異常気象」で片づけられない"大雨報道"のカラクリ

  • 2026.7.18

ここ数年、夏になると大雨のニュースが報じられている。その都度「50年に1度」のような表現を耳にするが、まるで毎年の出来事のように感じるのはなぜなのか。東京大学大気海洋研究所気候システム研究系の今田由紀子准教授は「“50年に1度”という言葉は、限られたデータから推定した確率にすぎない。毎年のように使われるのは、3つの理由が考えられる」という――。

※本稿は、今田由紀子『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社 ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

見出しに踊る「異常気象」の文字
※写真はイメージです
「50年に1度の雨」への違和感

近年、日本では豪雨の報告が後を絶ちません。

過去数年間をさかのぼるだけでも、2017年の平成29年7月九州北部豪雨では土砂災害や洪水により40名の命が奪われ、未曽有の気象災害と呼ばれた2018年の平成30年7月豪雨は200名以上の犠牲者を出しました。

2020年7月に西日本を襲った豪雨は球磨川を中心とする河川氾濫により80名以上の犠牲者を出しました。この年の6月、中国南部で200名を超える犠牲者を出した長江の氾濫のきっかけとなった持続的な大雨も、7月の球磨川の豪雨と関連していると考えられています。

このような異常気象が発生するたびに、気象庁は記者会見を開いて警戒を呼び掛け、もともと特別警報の基準であった「50年に1度の雨」という言葉が今でもニュースなどで飛び交います。

けれど、「あれっ?」と思う読者がいるのではないでしょうか。過去数年間を見るだけでもこれだけ多くの豪雨が起こっているというのに、「50年に1度しか起こらない」という表現は矛盾しているように感じます。では、この「50年に1度」という確率はどのように算出されているのでしょうか?

データを集める限界

気象庁では、地域気象観測システム「アメダス」による地点観測データを数十年にわたって蓄積しています。ある地点で大雨が発生したとき、その地点を代表する観測地点の降水データを観測開始からすべて持ってきて、各年の最大降雨量をまず求めます。その値は当然、年によって上下します。

そのデータを100年分集められたとしましょう。その中の最大雨量というのは、100年に1度程度しか起こらない大雨、上から2番目の値は、その上にもう1つデータがあるので、100年に2回、つまり50年に1度程度しか起こらない大雨ということになります。

しかし、ここで問題が生じます。100年のデータで最大雨量となった値は、500年までデータサンプルを増やしても、やはり最大値となるかもしれません。つまり、100年に1度ではなく500年に1度レベルの大雨なのかもしれません。つまり、トップに近づけば近づくほど、この誤差は大きくなっていくのです。

逆に、観測開始の年が遅かったために、50年分ものデータを集められない観測地点もあります。そのような地点では、50年に1度の大雨は評価できないことになってしまいます。

「フィッティング」という方法で補正している

これらの問題に対処するため、気象庁では、得られた数十年分のデータをヒストグラム(ある値を観測する回数を棒グラフにした分布図)にして、データの少ない右端の部分、すなわち最大雨量付近のヒストグラムの形を、全体の形から推定するという方法を取っています。これを、ここではフィッティングと呼びます。図表1にその模式図を示します。

【図表】データのフィッティング
出典=「日本の気候変動2025 本編」より改変。『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社)

フィッティングをすることで、誤差の大きい右側(値が大きい側)の裾野の形を補正することができ、さらにデータサンプル量が足りない場合は、裾野の曲線を先まで延ばすことで、より頻度の低い50年に1度、100年に1度といったレベルの雨量を推定することができるようになります。このようにフィッティングを行って発生確率を推定できる状態にしたグラフの曲線を表す関数のことを「確率密度関数(PDF:Probability Density Function)」と呼びます。

それでは、最初の疑問に戻って、なぜ50年に1度のはずの異常気象が近年は毎年のように起こっているように感じるのか、を考えたいと思います。筆者は、これには3つの理由があると考えています。ただし、個人的な解釈も入っているのでご注意ください。

理由①データのグループが違う ②情報を得やすくなった

まず1つ目の理由は、大雨がいろいろな時期に日本各地のさまざまな場所で起こっているから、です。例えば、ある場所で豪雨が発生すると、担当者は過去数十年のこの地域の同じ時期のアメダスのデータを持ってきて、何年に1度レベルの雨だったかを、フィッティングして計算します。仮に、その翌月に近隣の県で大雨が降ったとすると、今度はその地域の該当月のデータを使って同じようにヒストグラムを描きます。

つまり、解析に使ったそれぞれのデータグループは、地域も時期も異なることになります。ニュースを見ていると、全国各地で発生する大雨のニュースがまとめて入ってきますので、あたかも50年に1度の大雨を何度も経験しているような気分になってしまうかもしれません。

2つ目の理由は、この「ニュース」に関連しています。近年、テレビだけでなく、インターネットやSNSなどの急速な普及により、たくさんの情報が1度に手に入る時代になりました。

30年前は、遠く離れた県の情報を身近に得ることは少なかったでしょうが、メディアの発達により遠くの気象災害の惨状を身近に感じることができるようになったが故に、異常気象があたりまえのようにしょっちゅう起こっているような感覚になることも十分にありえます。

理由③直近数年に“歴代トップ級の大雨”が集中

以上の理由は人間の感覚に依存するものでしたが、3つ目の理由はより科学的です。2012年の平成24年7月九州北部豪雨、2017年の平成29年7月九州北部豪雨、2020年の令和2年7月豪雨はいずれも似たような地域で梅雨期に大雨をもたらし、どの事例でも観測開始以来1位の雨量を記録した地点が多数報告されました。

令和2年7月豪雨による大牟田市内の洪水
令和2年7月豪雨による大牟田市内の洪水(写真=内閣府/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

つまり、最近の9年の間に、史上最大レベルの大雨が3回も起こっているのです。このように、最近の数年の間に歴代トップになるような甚大な異常気象が集中して起こっている状況を考えてみましょう。

仮に過去150年分のデータを取ってくることができたとすると、150年の間に3回、つまり、50年に1回の大雨、ということになりますが、実際は150年分ものデータを得ることはできません。100年分のデータしかないとすると、100年の間に3回、つまり約30年に1回の大雨です。気象庁による異常気象の定義は「30年に1回以下で発生する現象」なので、ぎりぎり異常気象に認定される程度です。

さかのぼって50年分のデータだと17年に1回程度(50年に3回)なので異常気象ではなくなってしまいますし、過去10年分のデータだけ使うと約3年に1回(10年に3回)となり、もはやあたりまえの現象ということになってしまいます。

時系列の終わりに大雨が偏っている

簡単な算数の話ですが、同じ大雨なのになぜこういうことが起こるのでしょうか? 原因は、大雨が起こった時期が最後の数年に集中しているからです。大雨の発生が過去数十年の間にばらばらに起きていれば、こういうことにはなりません。

つまり、たまたまか必然かは置いておいて、時系列の終わりの方に大雨の発生が偏っていると、50年に1度の大雨をここ数年で何回か経験している気がしても不思議ではないわけです。

今田由紀子『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社)
今田由紀子『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社)

ただし、先程述べた通り、現象の発生確率(○年に1度)を見積もる際に、歴代トップに近い現象を対象にしようとすればするほど、誤差は増大していきます。さらに、利用するデータの年数が少なくなると、1回起こるか起こらないかの差が結果に大きく影響してきますので、観測データだけを使った異常気象の発生確率の議論にはデータサンプル数の限界があります。

ところで、我々の業界では、観測のサンプル数が足りない、といわれると、じゃあ気候モデルを使って足りないサンプルを補えば良い、という発想になります。ここでいう気候モデルとは、天気予報や地球温暖化予測のシミュレーションに用いられている数値モデルのことです。これは必ずしもあたりまえの手段というわけではありませんが、スーパーコンピューターの発展により近年盛んに行われるようになってきました。

今後、気象ニュースなどで「○年に1度」という言葉を耳にしたら、本記事で紹介したポイントも考慮してみると、より一層理解が深まるかと思います。

(参考文献)
・文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」

今田 由紀子(いまだ・ゆきこ)
東京大学大気海洋研究所気候システム研究系准教授
長崎県出身。2010年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東京工業大学大学院情報理工学研究科(現・東京科学大学情報理工学院)産学官連携研究員、気象庁気象研究所気候・環境研究部主任研究官などを経て、2023年4月より現職。専門は気候力学で、気候モデルシミュレーションを用いて気候変動や異常気象のメカニズム研究を行っているほか、数カ月から数年先の気候予測にも挑戦している。世界気候研究計画(WCRP)の各種委員を歴任。2019年度日本気象学会正野賞、第5回地球惑星科学振興西田賞、第46回(2026年)猿橋賞など受賞多数。

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