1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 石の時間を現代の形に変える〈詫間宝石彫刻〉。宝石加工の伝統が息づく町、甲府へ

石の時間を現代の形に変える〈詫間宝石彫刻〉。宝石加工の伝統が息づく町、甲府へ

  • 2026.7.17

水晶の産地として栄えた甲府は、日本で唯一、宝石研磨が産業として根づいている町だ。それぞれの分野の専門家たちがこの地に集まり、石と向き合い続けている。素材を見極め、道具を手作りし、一点ずつ丁寧に仕上げていく。そんな日本における宝石加工の聖地とも言える甲府で、世界に誇る日本の職人技に触れてきた。

本記事は、BRUTUS「珍奇鉱物」(2026年7月15日発売)から特別公開中。

photo: Akira Yamaguchi / text & edit: Shogo Kawabata

〈詫間宝石彫刻〉横のギャラリー内の作品
BRUTUS

代表の詫間康二さんは、宝石彫刻家の家系に育った。しかし父親に「彫刻はお金にならないのでやめなさい」と言われ、金属加工の仕事に就く。それでも25歳の時、やはり石の仕事がしたいと工房へ戻ってきた。「宝石の彫刻だけは日本では山梨にしかないんですよ。世界でも彫刻は中国かドイツのカメオくらいなので」。そんな経歴から、彫刻、研磨、金属加工の3つを一社で手がける稀な工房となった。

研磨剤を使って水晶を削っていく様子
泥のような研磨剤を使って水晶を削っていく。研磨の場合は水平のろくろ状の円盤を回して削るのに対し、彫刻では垂直になった円盤(コマ)を回して削っていくのが伝統的なスタイル。

詫間さんの名を広く知らしめたのが、水晶のグラス。2016年から作り続けるロングセラーだ。「水晶は地下で何千年もかけて成長してきた時間性がある。年輪のようなものが内側に刻まれていて、それを目で覗くことができる。それはガラスには出せない」

水晶の魅力を尋ねると、産地ごとの顔の違いを真っ先に挙げた。「ほかの鉱物を取り込みながら成長していくんです。その土地の土や成分に反応して色が変わる。世界中どこにでもあるのに産地ごとにはっきり顔が違う。科学的に研究している人でなくても、見慣れてくると違いがわかってくる。そこが面白い」。特に好きなのはブラジル産で、工房の一角には、物心ついた頃からそこにある大きなブラジル産の水晶の姿が。「多分僕も切らずに終わるような気がします」と笑う。

詫間さんの代表作である水晶のグラス
詫間さんの代表作である水晶のグラス。様々な石の色合いやインクルージョンにより、一つとして同じものはない。
作業中の詫間さん
伝統的な細工台を使ってグラスを削っていく詫間さん。こうした工作機械も代々メンテナンスして使い続けている。
〈詫間宝石彫刻〉のストックルーム
外から中を見ることができる石材のストックルーム。ワークショップの際は、この部屋の中から好きな石材を選ぶことができる。
〈詫間宝石彫刻〉の作業場
彫刻、研磨、金属加工の3つの作業場が集まる工房内。
ブラジルの水晶とトルマリンの原石
お気に入りのブラジルの水晶とトルマリンの原石。

宝石彫刻の楽しみとして大切にするのが、石取りと呼ばれる工程だ。原石のどこを生かし、どこを落とすかを見極める目利きの仕事で、客自身がストックルームで原石を選び石取りをしてジュエリーを作ることができるワークショップも始めた。「石の部屋に入って自分で悩みに悩んで、“ここを取ります!”と決める。その一瞬がクライマックスですよ」

16年、ドイツの町イーダーオーバーシュタインの工房を訪ねた際、職人の高齢化や後継者不足に悩まされつつも、手仕事への見直しの機運も感じた。甲府と似た状況を目の当たりにし、帰国後、制作現場を公開する形へと工房をリノベーションし、クラフトをテーマにしたツーリズムにも挑戦中。水晶工芸に新しいジャンルを開拓する挑戦が、ここで続いている。

〈詫間宝石彫刻〉の工房のすぐ横には、作品を見ることができるギャラリーもある。写真はパリでの個展のために制作した水晶のボトル。キャップの部分に原石のままの造形が残されたデザインなどもあった。

Information

詫間宝石彫刻

今年3月にクラフトツーリズム仕様に工房を改装。隣接するギャラリーでは詫間さんから作品が購入できるほかワークショップも開かれている。

住所:山梨県甲府市丸の内3-26-1
TEL:055-224-2039
休:土曜・日曜・祝日
予約制

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ