1. トップ
  2. 五輪熱狂のはざまで開催されたミラノ・ファッションウィーク。ブランドが問い直す“伝統と更新”

五輪熱狂のはざまで開催されたミラノ・ファッションウィーク。ブランドが問い直す“伝統と更新”

  • 2026.4.20
Hearst Owned

2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックとパラリンピックのはざまという特別なタイミングで開催された、2026-27年秋冬シーズンのミラノ・ファッションウィーク。街中にはオリンピック関連のショップが点在し、高揚感と静けさが同居する独特の空気が漂っていた。そうした祝祭の余韻と現実が交差する都市の空気は、今季のランウェイにもどこか通じるものがある。

「マックスマーラ」2026-27年秋冬コレクションより。 launchmetrics.com/spotlight

経済や社会の揺らぎ、デジタル化による均質化、価値観の急速な更新——。現代の状況の中で、ブランドは「自分たちは何者か」という問いに、改めて向き合う必要に迫られているようだ。ブランドのアイデンティティを再確認する動きが際立つなか、過去のコードをなぞるだけではなく、いかに“今”の感覚へと翻訳するかが、デザイナーたちに共通するテーマとなっている。

「フェラガモ」2026-27年秋冬コレクションより。 Daniele Schiavello / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

あるブランドはコードを純化し、あるブランドは再構築し、また別のブランドは拡張する。それぞれの方法論は異なりながらも、共通しているのは「変わらないために変わる」という逆説的な姿勢である。前編では4つのイタリアブランドに焦点を当て、それぞれが提示した伝統と革新のバランスを読み解く。

Hearst Owned

ドルチェ&ガッバーナ

「ドルチェ&ガッバーナ」は“アイデンティティ”のテーマの通り、ブランドの個性を強く打ち出したものだった。シチリアという原点、ブラックの力強さ、レースが象徴する親密さ、そしてテーラリングが示す威厳さ——それらは現在に生きる言語として提示されている。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ランウェイに登場したのは、黒のレースドレスや身体に沿うシルエット、端正なスーツといったブランドを象徴するピースの数々。官能性と強さを併せ持ち、「ドルチェ&ガッバーナ」らしい“誇張された女性性”を体現する。テーラリングとランジェリー的要素、マスキュリンとフェミニンの対話が、身体を隠すのではなくむしろ肯定する方向へと導いていた。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

「自分自身であり続けることこそがラグジュアリーである」というメッセージのもと、「ドルチェ&ガッバーナ」はその美学を貫く。変わらぬコードを磨き上げることで、ブランドの存在感と普遍性をより強く印象づけるコレクションとなった。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Hearst Owned

フェラガモ

マクシミリアン・デイヴィスによる「フェラガモ」は、ブランドの原点である1920年代へと立ち返りながら、過去と現在をつなぐ対話として構想された。インスピレーション源となったのは、昨シーズンに引き続き、階級や規範が溶け合うスピークイージー(隠れ酒場)の文化。そこに集う多様な人物像を背景に、実用性と解放感が交差するワードローブが描かれている。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

コレクションの軸となるのは、セーラーのユニフォームに着想を得たデザイン。ピーコートやセーラーパンツ、ミディカラーのトップスといったアイテムは、ボタンの配置をずらしたり、留め具をあえて外したりすることで再構築され、機能的な衣服がより自由で表現的な存在へと変換される。構築的なテーラリングと流れるようなシルエットが共存し、緊張感と軽やかさが同時に漂うバランスが印象深い。

launchmetrics.com/spotlight
Courtesy of Ferragamo

足元では、1954年のアーカイブを参照したポインテッドトゥのスティレットやスリングバックが登場し、ブランドの歴史をシャープに再解釈する。また、ソールが足を包み込む“シェルソール”の発想を応用したサンダルなど、伝統技術と現代的なフォルムが融合。アクセサリーでは、“ガンチーニプレート”を留め具に採用した、スリムで洗練された新型バッグが3サイズで登場し、イーストウエスト型の“ハグ”バッグは、新たなカラーバリエーションで展開。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

現代的な息吹を感じるアーカイブの数々に、20世紀を生きた近代画家チャールズ・デムスの作品に見られる港町の情景や人物像も重なり、コレクション全体に夜の気配と詩的な余韻を与えていた。

Hearst Owned

マックスマーラ

歴史上の女性から着想を得る「マックスマーラ」のイアン・グリフィスは今季、11世紀の女性統治者マティルデ・ディ・カノッサの精神性とスタイルを探究した。しばしば「当時最も強大な女性」と称される彼女の存在を通して提示されたのは、日常のワードローブを再定義し、凛(りん)とした女性のエンパワーメントを描くというシンプルでいて力強いアイデアである。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

コレクションは、包み込むようで厳格なシルエットが特徴的だ。ローブのようなコートや禁欲的なチュニック、金属のリベットを配したブーツなどに中世の空気が漂い、構築的なフォルムと研ぎ澄まされたデザインが全体を貫く。一方で、サテンのロングドレスや柔らかな素材が加わることで、静ひつさの中にさりげない官能性が差し込まれた。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

ブランドの核であるコートは、カシミヤやウール、レザーといった上質な素材によってその存在感をさらに強める。カラーパレットはブラウン、グレー、ブラック、カーキ、ヴァーミリオンに絞られ、実用性と洗練を両立するアクセサリーとともに、控えめでありながら揺るぎないラグジュアリーを示した。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

グリフィスは、「服とは時間とともに美しさを増す“オブジェクト”である」と語る。耐久性と品格を備えたそのたたずまいは、流行ではなく“長く生きる服”という「マックスマーラ」の哲学を物語っている。

Hearst Owned

トッズ

マッテオ・タンブリーニ率いる「トッズ」は、ブランドの核であるレザーを軸に、伝統と現代性の再編を打ち出した。職人技と素材の質を前面に押し出しながら、トレンチコートやピーコートといった定番アイテムをクチュール的な構造で再解釈。包み込むようなボリュームとシャープなテーラリングの対比が、ワードローブ全体に躍動感を生み出している。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

特に注目されたのは、ブランドが“パシュミー”と命名したシルクのように軽くしなやかなレザー。アウターやスカート、パンツに用いられ、その柔らかさと奥行きのある色彩が、「トッズ」のクラフツマンシップを雄弁に物語る。また、写真家・森山大道の雪景色や、アーティスト、スターリング・ルビーに着想を得たグラフィカルなプリントやパッチワークドレスなど、視覚的なレイヤーも印象的だ。ウォッシュやシワ加工が施されたレザーには、使い込まれたような風合いが加えられ、時間の経過すらデザインに取り込む姿勢が見て取れる。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

アクセサリーにおいても、クラフツマンシップは一貫している。アイコンバッグの“ウェーブ”や“T タイムレス”は新たな解釈で登場し、シューズでは丸みを帯びたローファーや、馬具から着想を得たストラップ付きブーツが存在感を放つ。

launchmetrics.com/spotlight
launchmetrics.com/spotlight

さらに、イニシャルをはめられるメタルレタリングがベルトなどに配され、“自分らしさ”をさりげなく表現する仕掛けも加えられた。タンブリーニは、「トッズ」におけるラグジュアリーとは所有ではなく、理解し、育てていくものだと示す。静かでありながら確かな進化が、このコレクションには宿っていた。

Hearst Owned
元記事で読む
の記事をもっとみる