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「ここ、避難のとき通れないと危ないですよ」避難経路を塞ぎ続けた住人。だが、消防点検員の一言で顔面蒼白に

  • 2026.7.11

避難経路をふさぐ自転車

長年住んでいるマンションで、近所の住人が共用廊下に折りたたみ自転車を置くようになった。やがて大きなベビーカーや古い荷物まで加わり、ただでさえ狭い通路が、人ひとりようやく通れるほどにふさがれていった。

そこは、いざというときの避難経路でもある。火事や地震のとき、この物だらけの廊下を高齢の住民が逃げられるのか。

通るたびに、不安が募った。実際、夜に帰宅して暗がりで自転車のペダルに足をぶつけ、ひやりとしたことも一度や二度ではなかった。

管理会社は全戸にチラシを配り、「共用部に私物を置かないように」と繰り返し注意していた。それでも状況は変わらない。

ある日、廊下で鉢合わせた際に、私は思い切って声をかけた。

「ここ、避難のとき通れないと危ないですよ」

返ってきたのは、悪びれのない一言だった。

「うちの自転車、別に邪魔じゃないでしょ」

畳んであるんだから場所は取らない、という理屈らしい。こうして注意も忠告も受け流され、廊下の自転車は3年近く、居座り続けた。

響いた専門家の声

事態が動いたのは、マンションの消防設備点検の日だった。点検員が一戸ずつ設備を確認しながら廊下を進み、私物でふさがれた一角で足を止めた。

その表情が、すっと引き締まった。

「これは避難経路をふさいで違反ですね」

そして、畳んであろうと関係ないと続けた。

「いざというとき、逃げ遅れれば命に関わります。今すぐ撤去を」

点検員は、廊下じゅうに届く声で言い切った。その場に居合わせた住人の顔から、すうっと血の気が引いた。管理会社の注意はのらりくらりとかわしてきた人が、専門家の言葉には、一言も返せずにいる。

「で、でも、これくらい……」

声が、尻すぼみに消えていく。異変に気づいて廊下に顔を出した住人たちが、その様子をじっと見ていた。

「私も、ベビーカーで通れなくて困ってたんです」

まわりの視線に囲まれて、住人はいよいよ青ざめた顔でうつむいた。

「……分かりました。すぐに片付けます」

その日のうちに、廊下の自転車もベビーカーも、跡形もなく室内へ消えた。3年びくともしなかった物が、専門家のたった一言で片付いたのだった。

以来、廊下に物が置かれることはない。あの住人は、私を見かけると気まずそうに目をそらし、足早に去っていくようになった。立場は、すっかり入れ替わっていた。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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