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【サッカーW杯】レッドカードなのに次戦出場…アメリカ選手への「執行猶予」に世界中で批判殺到「FIFAは腐っている」

  • 2026.7.7
サッカーW杯決勝トーナメント2回戦・米国-ベルギー。前半、ボールを運ぶアメリカのフォラリン・バログン選手(手前、日本時間2026年7月7日、アメリカ・シアトル)
サッカーW杯決勝トーナメント2回戦・米国-ベルギー。前半、ボールを運ぶアメリカのフォラリン・バログン選手(手前、日本時間2026年7月7日、アメリカ・シアトル)

7月2日(以下、日本時間)のサッカーワールドカップ(W杯)北中米大会・決勝トーナメント1回戦のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で退場処分となったアメリカ代表のFWフォラリン・バログン選手。ルール上、次戦は出場停止のはずでしたが、FIFA(国際サッカー連盟)は規律規定第27条を適用し、まさかの「1年間の執行猶予」を下したことで、世界中に激震が走りました。バログン選手は同月7日のベルギー戦に出場したものの、アメリカは1-4で敗退しました。

この対応を巡り、アメリカのドナルド・トランプ大統領がFIFAのジャンニ・インファンティノ会長に直接、電話で処分の見直しを要請したと報じられており、ネット上では「ひどい」「FIFA腐っている」など、批判が殺到しました。

日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんは「これを、単なる『アメリカ寄りの判定』として片付けるわけにはいきません。もしこの一件が“前例”として定着すれば、サッカーが積み上げてきたフェアプレーの土台そのものが崩れていきます」と警鐘を鳴らします。今回の騒動の本質を、江頭さんが解説します。

2026年は「史上まれにみる厳格な大会」になるはずだった

サッカーW杯の過去大会のレッドカードの枚数
サッカーW杯の過去大会のレッドカードの枚数

まず前提として、今大会の審判基準は極めて厳しいものでした。危険なショルダーチャージやハイタックルは、より明確な基準でファウルと判定されます。抗議の際に口元を手で覆う行為までもが、一発退場の対象として明文化されました。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とオンフィールドレビューによって、主審の第一印象だけで判定が決まることもなくなっています。

狙いは、選手のけがを減らし、どの国も最良のコンディションで戦えるようにすること。実際、大会開幕からわずか7日・27試合で、2018年ロシア大会と2022年カタール大会それぞれの“総枚数”を上回るレッドカードが提示されました。「厳格化」は、この大会のはっきりとした意思です。

最多を記録した2006年ドイツ大会は、ポルトガル対オランダの一戦(レッドカード4枚・イエローカード16枚、通称「ニュルンベルクの戦い」)に象徴されるように、審判基準の厳格化が一気に可視化された大会でした。そして2026年は、その流れをさらに推し進めています。

「執行猶予」に前例はあるが決定的な違いも

ここで、冷静に事実を確認すると、退場処分の「執行猶予」自体は、FIFAの歴史上、実は初めてではありません。

例えば、1962年のチリ大会準決勝(ブラジル対チリ)で退場したガリンシャ選手が、大会運営側の裁量で決勝戦への出場が認められました(当時は政治的な圧力があったとも伝えられています)。結局、ブラジルはチェコスロバキアを3-1で破り、優勝しました。当時は「退場=即、次戦の自動出場停止」に直結するルールは存在しなかったのです。

記憶に新しいのが、2025年11月のW杯欧州予選でのクリスティアーノ・ロナウド選手(ポルトガル)のケースです。アイルランド戦で肘打ちにより退場処分になり、本来なら本大会の序盤まで出場停止が続くところでしたが、FIFAは第27条を適用。実際の出場停止を1試合に軽減し、残りを1年間の執行猶予としました。

この根拠となったFIFA規律規定・第27条には、「懲戒処分の執行を、全部または一部、猶予できる」と明確に記されています。

つまり、第27条という“道具”は、すでに存在していたのです。では、バログン選手のケースの何が新しいのでしょうか。

1つは、予選ではなく、「本大会の試合中に出た退場」に対して執行猶予が適用されたこと。ロナウド選手の退場はあくまで本大会前の「予選」の段階でしたが、バログン選手の場合は本大会中です。そしてもう1つ。ここが本質です。

もし電話一本で判定が覆るのなら

フェアプレーの基本の一つに、「対戦相手を尊重し、その国が持ちうる最も能力の高いプレーヤーをそろえ、全力で試合に臨むこと」という考え方があります。この理念は、Jリーグの規約にも明記されています。

「ベストのプレーヤー同士が戦ってこそ、真の勝敗が決まる」。

第27条による執行猶予は、表向き、この理念を“根拠”にできてしまいます。だからこそ、危ういのです。

まさに今回のトランプ大統領による電話要請は、この懸念が現実になった瞬間でした。例えば、ある国の元首がFIFA会長に「うちのエースの出場停止を猶予してほしい」と依頼した際、会長がそれを断れば、「ベストメンバーで戦うべきというフェアプレーの理念に反する」と言い訳されてしまいます。そのため、各国からの依頼を、FIFAは断れなくなってしまいます。

そうなれば、ワールドカップの勝敗を分けるのは、ピッチ上の闘いではありません。FIFA会長と、各国元首の“親密度”です。プレーヤーのパフォーマンスに政治力が介入し、それはもう、スポーツではなくなります。

そして残念ながら、これはもはや机上の空論ではありません。今回のバログン選手の一件でも、アメリカ側からFIFA会長に処分の再検討を求める働きかけがあったと複数のメディアが報じ、欧州サッカー連盟(UEFA)は「レッドラインを越えた」と声明を出しています。“もしも”は、すでに始まっているのです。

子どもがまねをしても許されるか

もう1つ、フェアプレーを考えるときの試金石があります。それは2010年の南アフリカ大会・準々決勝、ウルグアイ対ガーナ戦です。

この試合でガーナのドミニク・アディヤ選手が、無人のゴールへ決定的なヘディングシュートを放ちました。決まればガーナの劇的勝利という場面で、ゴールライン上のルイス・スアレス選手が、まるでゴールキーパーのように両手でボールを弾き出しました。意図的なハンドです。

スアレスには即レッドカード、ガーナにはPK。ルールは厳格に適用されました。しかし、退場を覚悟の上で、ゴールキーパー以外のプレーヤーが手でシュートを止めるという、この“賢い反則”を、世界中のサッカー少年少女がまねしたら、サッカーはどうなるでしょうか。この試合でルールは守られましたが、フェアプレーの精神は守られたのでしょうか。

同じ問いを、「執行猶予」にも向けなければなりません。「有力者が働きかければ、退場処分も猶予される」。それを子どもたちが学んでしまったとき、僕らは何を失うのでしょう。

フェアプレーは二度と口にできなくなる

バログン選手の執行猶予を、「特別な一度きりの例外」で終わらせられるなら、まだいいでしょう。

しかし、これが判例として積み上がり、そこに政治力が公然と関わるようになれば、話は変わります。ワールドカップは、実力ではなく、力関係で決まる大会になります。そのとき、FIFAは、二度と「フェアプレー」という言葉を、口にできなくなるでしょう。

フェアプレーは、死ぬ。そうならないことを、心から願っています。

オトナンサー編集部

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