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完璧は退屈――「ブルガリ」が新作“セルペンティ”に宿す、官能性の秘密とは?

  • 2026.7.2

卓越したスイスの時計製造技術によってさらに表現力を増す、ローマン・ハイジュエラーの美意識。ジュエリーの夢と身体的な快適さを併せ持つ「ブルガリ」のタイムピースは、私たちの時計の概念を塗り替えていくよう。

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数多くのアイコンを擁する「ブルガリ」の中でも、鮮烈な印象を放つのは、やはり“セルペンティ”だろう。古今東西で再生や生命力の象徴とされる蛇をモチーフにしたこのコレクションは、1884年創業のメゾンが1940年代から大切に育んできたシグネチャーだ。しなやかに手首を包む“トゥボガス”のブレスレットに、スタッズの力強い輝きを加えた新作“セルペンティ トゥボガス スタッズ カプセル”にも、その神秘的な官能性は受け継がれている。

1990年代から自社製造施設で高度なムーブメントや複雑機構の開発を続け、今年「Watches & Wonders」に2回目の参加を果たした本格的なウォッチメイカーである「ブルガリ」にとって、“セルペンティ”はどのような意味をもつのだろう? また、新作が改めて伝えるブランドの魅力とは?

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あふれでる質問に答えてくれたのは、ブルガリ ウォッチ クリエイティブディレクター兼デザイナーのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏。工業デザインに精通した冷静なまなざしと、イタリア人らしく人生を愛する感性。その両方を持つ彼の言葉から、「ブルガリ」のクリエイションを貫く「不完全から生まれる美」の秘密をひもとこう。

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美しくこなれたスーツをまとい、ユーモアと知性を感じさせる言葉でインタビューに答えてくれたファブリツィオ氏。「ブルガリ」の時計デザインを統括する彼が語る、ブランドの核と未来とは。

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――まず、あなたのデザインへのアプローチについて教えてください。「ブルガリ」には“セルペンティ”など数多くのアイコンがありますが、すでにたくさんのファンがいるアイコンを、現代的に再解釈する秘訣(ひけつ)とは? アーカイブとコンテンポラリーな感覚をどう組み合わせているのでしょうか?


正直に言うと、あまり意識していないのです。なぜならアーカイブは、自分たちを閉じ込める「牢獄」にもなりうるから。ブランドのDNAも、「牢獄」になりうる。ブランドの精神は、頭で学ぶものではなく、もっと無意識のレベルで吸収しなければならないものですね。もし頭で暗記してしまったら、結局はそのレッスンを繰り返すことしかできませんから。でも、本当に自分の中に取り込み、マインドの一部にできたなら、毎回そこに何かを加えることができます。

私は「ブルガリ」のアーカイブやDNAをよく知っているつもりですが、私のアプローチは「見る」と同時に「忘れる」こと。アーカイブとは、まだ存在しないものを作るためのチャンスであるべきです。

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――おっしゃるようにデザイナーとして「無意識でブランドを理解する」ためには、どんな秘訣(ひけつ)があるのでしょうか? 創造性を高めながら、顧客にも喜んでもらえるバランス感覚を持つのはとても難しい試練に思えます。

そのバランス感覚は、レストランのシェフのようなものです。食は、デザインのもっとも素晴らしい表現のひとつ。シェフはたくさんの食材を選べるけれど、その食材をどう組み合わせるかによって、三つ星の料理にもなれば、平凡な料理にもなる。食材は同じです。でも口に入れた瞬間、味わいはまったく違うものになる。これこそがシェフの芸術です。

そして、これはデザインにおいてもまったく同じですね。お客さまは、自分が知っているものに安心し、知らないものによって驚かされる必要があります。秘訣(ひけつ)は、無意識のうちにブランドを思い出させるものと、新しいものを組み合わせること。親しみがありつつ驚きもある、その「際」の上で仕事ができなければなりません。正直に言うと、これは経験の問題です。

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実はイタリア語では、デザインのことを直訳すると「産業に応用された芸術」と表現することがあります。つまり大切なのは精神であり、アート。それが、私たちイタリア人のものづくりのあり方です。私たちは美に取りつかれています。日本の皆さんももちろんそうですが、より完璧さにこだわる感覚がありますよね。

私は100%正しいものではない何かに、より興味があります。なぜなら、それがオブジェの魂を生むことがあるからです。ズレや不一致、そして唯一無二の存在感。まるで間違いのように見えるけれど、最後にはそれこそが必要だったのだとわかる。そういうものです。

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――たしかに“セルペンティ”を身につけると、蛇が自分の手首にしなやかに巻きついてくるような、人間的なセンシュアリティを感じます。機械的ではない余白があるからこそ、顧客が自分の個性を投影できるのでしょうか?


その通りですね。以前、完璧な“セルペンティ”ウォッチをつくろうとしたことがありました。しかしプレゼンテーションの後、とても有名な女性ジャーナリストがこう言ったんです。「ファブリツィオ、この時計は完璧。でも、退屈ね」と。私たちは完全にセンシュアリティを見落としていました。この時計の最も面白い部分は、手首に巻きつくその「あり方」です。その所作自体が、体験の一部なのです。

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完璧であるべき時計もありますが、これは不完全であるべき時計。この時計のレガシーはジュエリーの世界から来ているからです。あるとき、完璧なジュエリーをつくろうとした私に、パオロ・ブルガリ氏が「私たちに完璧なジュエリーは必要ない」と言ったのです。なぜかというと、ジュエリーは自然の要素の一部だから。石には何百万年もの時間があります。もし私たちが完璧なジュエリーを作り始めたら、エキサイティングでも、セクシーでも、唯一無二でもなくなってしまう。

もちろん、すべての細部を完璧にするアプローチもあるでしょう。でも私たちは、そんな「完璧な細部」とは少し違う場所にいます。美しく、心を動かし、体験を生むものを作っている誇りがあります。

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――世界には幾多のラグジュアリーなタイムピースがありますが、「ブルガリ」ほど官能性を感じる時計は多くありません。その代表格ともいえる“セルペンティ”を、どのように捉えていますか?

“セルペンティ”は、およそ80年前に始まったレガシーで、おそらくブランドで最も認知されているデザインです。男性的な領域で展開する“オクト”コレクションでは、ムーブメントやミニチュアライゼーションの技術によりフォーカスしていますが、“セルペンティ”はジュエリーの世界。ジュエリーが持つ芸術が核になっています。

そして“トゥボガス(イタリア語でガス管の意味)”がもつ意味も大切ですね。初期の“セルペンティ”のひとつが、“トゥボガス”のウォッチでした。ガス管のような構造と意匠は、ジュエリーではもともと一般的でしたが、「ブルガリ」こそがこの意匠をラグジュアリーへと変えたブランドと言えるでしょう。その後何十年にもわたって、このラインに取り組んできたからこそ、このエッジのあるデザインは皆に「ブルガリ」を思わせる。無意識にブランドを語るアイテムを持つことは、ブランドにとって最も洗練された表現方法です。

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またあえて言いますが、“セルペンティ”はすべての女性のためのものではありません。国によっては、蛇に対する意味や宗教、文化の違いから、“セルペンティ”を怖いと感じる人もいます。恐れを抱かせる存在でもあるんです。だから正直に言えば、“セルペンティ”を身に着ける人にも、少し自信が必要ですよね!

――新作コレクション、“セルペンティ トゥボガス スタッズ カプセル”についても教えてください。「セルペンティ・トゥボガス・スタッズ」という3つの強いアイコンを共存させています。この調和の秘密は何でしょうか?

“セルペンティ”とスタッズを組み合わせるのは、今回が初めて。スタッズの“トゥボガス” ネックレスは、1980年代にジャンニ・ブルガリ氏がつくったものでした。ジュエリーにおけるモジュラリティ、そしてゴールドとスティールを使うアプローチの一部として、私たちは“セルペンティ”とスタッズを組み合わせることにしました。

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実は7年か8年前にこの時計をデザインしていましたが、その時は少し早すぎたのです。当時、“セルペンティ”はまだそのデザインを確立している途中でした。だから一度、脇に置くことにしたのです。その後、ジュエリー部門が、当時のアイデアをベースに、今なら新しいものとして昇華できるのでは、と言ってくれ、こうして今ジュエリーにもスタッズの表現が広がったことを、とてもうれしく思っています。なぜなら、ウォッチとジュエリーが一緒に仕事をすることができたとき、まったく違うインパクトが生まれるからです。

ジュエリー部門とはタイムスケジュールもまったく異なるため、時には難しさもあります。例えば“オクト フィニッシモ”を40mmから37mmへ、たった3mm変えるだけでも3年かかりました。新しいムーブメントを開発する必要があったからです。この複雑な内部構造といったプロダクトの技術的な部分、いわば中核となる部分は、ハイジュエリー以外のジュエリーにはあまり存在しません。だからこそ、違いを乗り越えたときの相乗効果は絶大です。

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――最後に、未来に関してどのような方向性を描いていますか? 今年「ブルガリ」は「Watches and Wonders」に2回目の参加を果たし、本格ウォッチメイカーとしての存在感を確固たるものにしていますね。

ジュエリーも時計も、私たちにとってはブランドについて語る機会です。そのために自分たちの設備を使って、“ピッコリッシモ(世界最小クラスの機械式ムーブメント)”など最小化の技術をさらに推し進めています。今では、ベースとなる自動巻きキャリバーも自社で生産できるようになりました。つまり、この“ピッコリッシモ”の技術を“セルペンティ シークレット”などのハイジュエリーウォッチにも使うことができるのです。

私たちは製造面をできる限り発展させることで、ジュエリーのレガシーとスイスのウォッチメイキングのノウハウを、さらに深く組み合わせていきます。正直に言うと、私たちには新しい時計は必要ないのかもしれません。私たちはすでに、過去50年で最もアイコニックな時計たちを持っているからです。大切なのはラインナップに一貫性を持ちながら、より深く掘り下げて、潜っていくことです。それは、とっても魅力的な旅になるでしょうね。

問い合わせ先/ブルガリ・ジャパン 0120-030-142

https://www.bulgari.com/ja-jp/

text: MAKIKO OJI

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