1. トップ
  2. エピソード
  3. 「家族のためを思って」誤った税金対策で口座を分けていた亡き父…十数冊の通帳を前に、遺族が絶望したワケ

「家族のためを思って」誤った税金対策で口座を分けていた亡き父…十数冊の通帳を前に、遺族が絶望したワケ

  • 2026.7.10
undefined
出典:photoAC ※画像はイメージです

こんにちは。くまえり銀行員です。
今日は、「税金対策になると思って口座を分けていたら、相続手続きが想像以上に大変になってしまった」というお話です。

銀行窓口では、「どうしてこんなに手続きが多いの?」「銀行が厳しすぎる」と言われることがあります。ですが、お話を最後まで伺うと、「銀行のせい」だと思われていた出来事が、実はまったく違う理由だったと分かることも少なくありません。

今回のお客様も、その一人でした。

「家族のため」が思わぬ落とし穴に

ある日、ご家族を亡くされたお客様が相続手続きのため来店されました。
「父は税金対策になると聞いて、お金をいろいろな銀行に分けていたんです。」

そう言って机の上に並べられた通帳は、十数冊。残高は数万円のものもあれば、数百万円入っている口座もあります。

お客様は少し困った様子で、「全部まとめて手続きできますよね?」と尋ねられました。
お気持ちはよく分かります。
ですが、その瞬間、私は「これは想像以上に時間がかかるかもしれない」と感じました。

銀行では、一つの窓口で他行の分までまとめて相続手続きをすることはできません。口座がある金融機関ごとに、それぞれ手続きを進める必要があるからです。

「銀行が面倒にしている」と思われがちな理由

相続手続きが長引くと、「こんなに確認する必要があるのですか?」と驚かれることがあります。
確かに、お客様から見れば、預金を払い戻すだけのように感じるかもしれません。

しかし、銀行の裏側では、相続人や必要書類の確認、遺言書や遺産分割協議書の内容、口座ごとの契約状況の確認など、多くの工程を一つずつ慎重に進めています。

もし確認不足のまま誤って払い戻してしまえば、本来受け取る権利のある方との間で重大なトラブルになりかねません。だからこそ、銀行では「早さ」よりも「正確さ」を優先しています。

窓口で時間がかかるように見えるのは、お客様の大切な財産を守るためでもあるのです。

本当の原因は「税金対策」という思い込みだった

手続きを進めながら、お客様がふとこんなことをおっしゃいました。
「口座を分ければ相続税が安くなると思っていたんです。」

実は、この誤解は決して珍しくありません。

預金を複数の銀行へ分散しても、それだけで相続税が軽くなるわけではありません。

相続税は、亡くなられた方が保有していた財産全体を基に計算されるため、預金を何冊の通帳に分けていても、相続財産として合算されます。つまり、「口座を増やすこと」と「相続税対策」は別の話なのです。もちろん、生活費の管理や防犯のために複数口座を持つこと自体は珍しいことではありません。

しかし、「税金対策になる」と思って口座だけを増やしてしまうと、その分だけ相続手続きの窓口も増え、ご家族が何度も金融機関へ足を運ぶことになる場合があります。

お客様も説明を聞き終えると、「父は家族のためを思ってやっていたんでしょうね。でも結果的には私たちが一番大変になってしまいました。」と静かに話されました。その言葉が、今でも印象に残っています。

本当に残したかったのは「預金」だけではない

窓口で相続手続きを担当していると、「財産を残すこと」と同じくらい、「家族が困らずに手続きを終えられること」の大切さを実感します。

現在は、一定の要件を満たせば、遺産分割協議が終わる前でも相続人が預貯金の一部払戻しを受けられる制度があります。

それでも、相続手続きそのものが不要になるわけではなく、口座が多ければ多いほど確認や手続きの負担は増えていきます。だからこそ、生前の資産管理は「節税になるか」だけでなく、「残された家族が困らないか」という視点でも考えることが大切なのです。

相続は、いつ訪れるか分かりません。今からできる備えとして、次の3つを一度確認してみることをおすすめします。

・どこの金融機関に口座があるか家族と共有しておくこと
・資産管理の目的が思い込みになっていないか確認すること
・必要に応じて税理士などの専門家へ相談すること

窓口で働く私たちは、「もっと早く知っていれば、こんなに大変にならなかったのに」という場面を何度も見てきました。

良かれと思って始めた工夫が、いつか大切な家族の負担にならないよう、一度ご自身の資産管理を見直してみてはいかがでしょうか。


ライター:くまえり銀行員
金融機関の窓口業務に携わり、日々さまざまなお客様対応を経験。忙しい日常の中で起こりがちな銀行手続きの行き違いやトラブルを、窓口の内側から見た視点で、読者に寄り添いながら伝えています。「知らなかった」が「なるほど」に変わる瞬間を大切に執筆中。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる