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「先生には言わないでください」涙ながらに懇願する女性患者→“切実すぎる理由”に訪問看護師が取った対応とは…

  • 2026.7.13
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、利用者さんと長く関わるなかで、少しずつ信頼関係が築かれていきます。
だからこそ、「看護師さんだから話します」「先生には内緒にしてください」と打ち明けられる場面も少なくありません。

その言葉を聞くたびに、うれしさと同時に葛藤を感じます。

利用者さんの思いを大切にしたい。でも、安全を守るためには、一人で抱え込めないこともあります。
今回は、双極性障害で訪問看護を利用していたAさんとの出来事です。

「先生には言わないでください」

その一言に、看護師として何を優先すべきかを改めて考えさせられました。

「薬はちゃんと飲んでます」

Aさんは若い女性で、双極性障害のため週2回、訪問看護を利用していました。

服薬管理と体調確認が主な目的です。普段は穏やかで話好きな方でしたが、気分の波が大きく、調子を崩すと生活リズムが乱れやすいという特徴がありました。

その頃のAさんは、一見すると元気そうでした。玄関を開けると笑顔で迎えてくれます。

「こんにちは」

「看護師さん、聞いてください。この前、新しい服を買ったんです」

話もよく弾みます。

けれど、少し気になることがありました。

「最近、眠れていますか?」

「はい、大丈夫です。4時間くらい寝てます」

「薬は飲めています?」

「ちゃんと飲んでますよ」

返事はいつも同じでした。

「大丈夫です」

その言葉だけを聞けば、安心できるはずでした。

しかし、Aさんの様子は少しずつ変わっていたのです。

「いつものAさん」と違う

訪問を重ねる中で、小さな変化が見られるようになりました。部屋には読みかけの本や買い物袋が増え、夜中にネットショッピングをしたという話も聞くようになりました。

「昨日も眠れなくて」

そう言いながらも、

「でも全然眠くないんです」

と笑っています。

話し始めると止まらず、次々と話題が変わります。一方で、服薬ボックスを確認すると、飲んだはずの薬が残っていました。

「あれ?この分は昨日飲みました?」

そう聞くと、

「あっ…飲んだと思います」

少し視線をそらします。

別の日にも同じことがありました。

「飲み忘れたかな。でも大丈夫です」

その言葉とは裏腹に、睡眠時間は短くなり、活動量は増え続けていました。私たちは躁状態へ移行し始めている可能性を考えるようになりました。

「先生には言わないでください」

その日の訪問も終わり、玄関で靴を履いていた時でした。

「看護師さん」

小さな声で呼び止められました。振り返ると、Aさんが少しうつむいたまま立っていました。

「どうしました?」

しばらく黙ったあと、Aさんはゆっくり口を開きました。

「先生には…言わないでください」

「何をですか?」

「薬のこと…眠れてないことも」

私は黙って話を聞きました。Aさんは目に涙をためながら続けます。

「また入院になるでしょう?絶対に嫌なんです。この前も、少し調子が悪くなっただけで入院になって……」

「仕事も辞めることになったし、友達とも会えなくなった。もう、あんな生活はしたくないんです

その言葉には、強い恐怖が込められていました。Aさんにとって「入院」は治療ではなく、大切なものを失う出来事として記憶に残っていたのです。

信頼関係と安全、その間で

私はしばらく考えました。

Aさんは私を信頼して話してくれています。その気持ちは裏切りたくありませんでした。しかしこのまま何も伝えなければ、症状はさらに悪化する可能性があります。

私はゆっくりと伝えました。

「話してくださってありがとうございます。入院が怖い気持ちも、ちゃんと伝わりました」

Aさんは静かに頷きました。

私は続けます。

「でも、私はAさんにもっとしんどくなってほしくありません。今なら、お薬を調整するだけで落ち着くかもしれません」

「何も伝えずに悪くなってしまったら、その方が入院になる可能性は高くなります」

Aさんは黙ったまま聞いていました。

「先生にはお伝えします。でも、Aさんが入院を怖いと思っていることも、一緒に伝えます」

しばらく沈黙が続いたあと、

Aさんは小さく息を吐きました。

「…分かりました。怒ってないです」

「本当は、自分でも少しおかしいって思ってました」

数日後、主治医による診察で薬剤調整が行われました。

幸い症状は早い段階で落ち着き、大きく悪化することなく在宅生活を続けることができました。

「秘密を守ること」が最善とは限らない

訪問看護では、利用者さんから「内緒にしてください」とお願いされることがあります。その背景には、不安や恐怖、失いたくない生活があります。

だからこそ、その言葉を簡単に断ることはできません。けれど、私たち看護師が守らなければならないのは、秘密だけではありません。主治医と適切な情報共有を行うことは、患者さんの命と安全な在宅生活を守るチーム医療において、決して欠かすことのできない役割だからです。

あの日、「先生には言わないでください」というお願いを、そのまま受け入れることはできませんでした。しかし、それは信頼を裏切るためではありません。

これからもAさんが、自分らしい生活を続けていけるようにするための判断でした。

信頼関係を守ることと、安全を守ること。その二つがぶつかる場面は、訪問看護では決して少なくありません。

だから私は今でも、「先生には言わないでください」と言われた時こそ、その言葉の奥にある本当の思いを受け止めながら、一人で抱え込まず支援につなげることを大切にしています。

あの日のAさんとのやり取りは、看護師として「寄り添うこと」と「守ること」の意味を改めて教えてくれた、忘れられない出来事になりました。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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