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患者「暑いからしんどいだけ」バイタルは正常でも違和感を抱いた看護師…採血して判明したことに「考えさせられた」

  • 2026.7.12
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

夏になると、「なんとなくだるい」「食欲がない」「暑さのせいだと思う」という声をよく耳にします。
実際に夏バテで体調を崩す方も少なくありません。

だからこそ、私たち看護師は「本当に暑さだけなのか」を考えながら患者さんと向き合っています。

今回は、精神科病棟で出会った高齢の患者さんとの出来事です。
何気ない「暑いだけです」という一言の裏に、見逃してはいけない異変が隠れていました。

「今日は暑いからしんどいだけです」

精神科病棟に入院していたAさんは、高齢の男性。統合失調症があり、糖尿病の治療も続けていました。

精神症状は比較的落ち着いており、日中は談話室で他の患者さんとテレビを見たり、スタッフと世間話をしたりする穏やかな方でした。その年の夏は、連日の猛暑。

病棟内は空調が効いているものの、少し移動しただけでも汗ばむような日が続いていました。

ある日の朝、ラウンドでAさんのもとへ向かうと、Aさんはベッドに腰掛けたまま窓の外を眺めていました。

「Aさん、おはようございます。調子はいかがですか?」

そう声をかけると、Aさんはゆっくりこちらを見て言いました。

「今日は暑いから…ちょっとしんどいだけです」

「食欲はありますか?」

「まあ、暑いからねぇ。あんまり食べたくない」

体温を測っても発熱はありません。

血圧や脈拍、酸素飽和度も大きな異常はなく、バイタルサインは安定していました。

他のスタッフも、

「この暑さですし、夏バテかな」
「食欲落ちる人、多いですもんね」

そんな印象を持っていました。

私自身も、最初は同じように思っていました。

「何かがいつもと違う」

それでも、その日はどこか引っかかるものがありました。

Aさんはいつもなら、こちらが声をかける前に

「おはよう!」

と笑顔で話しかけてくれる方です。談話室へ行く時も、ゆっくりではありますが、自分のペースで歩いていました。

けれど、その日は違いました。

返事をするまでに少し間がある。歩き始めるまでにも時間がかかる。足元もいつも以上にふらついているように見えました。

表情にも、どこか力がありません。

「Aさん、今日は歩くのもしんどいですか?」

「うーん…暑いからかな」

その答えにも違和感がありました。

「暑いから」その言葉だけで、すべてを説明しているように感じたのです。精神科では、患者さんの変化は数値だけでは分からないことがあります。

表情や話すスピード、歩き方、視線。いつもなら気にならないような小さな変化が、大きな異常のサインであることも少なくありません。

私はカルテを見返しながら、担当医へ相談することにしました。

「バイタルは問題ないんですが…いつものAさんと違う気がします」

「反応も少し鈍くて、歩き方もふらついています」

医師は少し考えたあと、

「念のため採血をしてみましょう」

と指示を出しました。

「暑いだけじゃなかった」検査の結果

採血の結果が出たのは、その日の午後でした。

血糖値は大きく上昇。さらに脱水も進行していることが分かりました。糖尿病の影響も重なり、体の中では思っていた以上に状態が悪化していたのです。

点滴治療が開始され、水分管理や血糖コントロールも見直されることになりました。

後日、少し元気を取り戻したAさんに、その時のことを聞いてみました。

「Aさん、あの日は本当に暑いだけだと思っていましたか?」

Aさんは少し笑って言いました。

「そう思ってたよ。夏は毎年しんどいからね」

少し間を置いて続けました。

「年やし、暑い日はこんなもんやと思ってた」

その言葉を聞いて、私は改めて考えさせられました。高齢になると、暑さや喉の渇きを感じにくくなることがあります。さらに糖尿病があると、脱水が進んでも自覚症状に乏しいことも少なくありません。

本人は「暑いだけ」と思っていても、実際には身体の中で危険な変化が起きていることがあるのです。

「いつもと違う」を見逃さないために

もしあの日、「夏バテですね」その一言だけで終わっていたら。

採血は行われず、脱水や高血糖はさらに進行していたかもしれません。もちろん、すべての違和感が重大な病気につながるわけではありません。

「気のせいだった」

そんなこともたくさんあります。それでも看護師は、

「気のせいかもしれない」

その違和感を簡単に手放してはいけない仕事だと思っています。

精神科病棟では、精神症状だけではなく、身体の変化にも目を向ける必要があります。特に高齢の患者さんや糖尿病などの慢性疾患を抱える患者さんは、自分の不調を「年齢のせい」「暑さのせい」と受け止めてしまうことも少なくありません。

だからこそ、私たちはバイタルサインだけで安心するのではなく、表情はいつも通りか。返事の速さはどうか。歩き方に変化はないか。
そんな「いつもの姿」との違いを見続けています。

あの日の「暑いだけです」という一言は、決して嘘ではありませんでした。

Aさん自身、本当にそう思っていたのです。しかし、その言葉だけでは見えない異変が確かにありました。

看護師に必要なのは、数値だけを見ることでも、勘だけを信じることでもありません。患者さんの「いつも」を知り、「いつもと違う」に気づくこと。

その積み重ねが、患者さんの命を守ることにつながるのだと、改めて教えられた出来事でした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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