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35年前の夏、23時のニュースが終わったあとに流れた明るい南風 楽天の奥に忍ばせた平和への視線

  • 2026.7.12
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1991年12月、ベイFMの新スタジオ「スタジオ マリブ」開設記念番組のパーソナリティーを務めた桑田佳祐(C)SANKEI

23時、その日のニュースが締めくくられた直後に、弾む歌声が短く立ち上がる。画面はスタジオのテーブルから、番組ロゴへと切り替わっていく。ぐっと重い話題を一日分まとめて聞き終えた耳に、ふっと空気の窓が開くような、あの数十秒がテレビの前に置かれていた。

TBS『筑紫哲也 NEWS23』の二代目エンディングテーマとして、1991年の6月から9月まで、この曲は毎晩の締めくくりに流れていた。硬派な報道番組の余韻と、あきらかに温度差のある明るさが、いっそ気持ちよく感じられた記憶を持つ視聴者は少なくないはずだ。日本語のポップスがこういう置かれ方をした夏は、そう多くない。

サザンオールスターズ『ネオ・ブラボー!!』(作詞・作曲:桑田佳祐)ーー1991年7月10日発売

この曲は、明るく振る舞いながら、その奥に別の重心を沈めている。看板は楽天、芯には時代への視線。歌の入口と出口では、聴き手が触れているものの温度が少しずつ違う。

感嘆符ふたつに紛れさせた真面目な芯

サザンオールスターズが1991年に世に出した唯一のシングル。タイトルは『ネオ・ブラボー!!』。過剰なほど明るい単語ふたつが、ふたつの感嘆符に押し上げられて並ぶ。歌の頭からサビにかけては、軽快なギターとさわやかなコーラスワークが、看板どおりの楽天を鳴らしていく。

しかしこの年、街の空気は明るくなかった。湾岸戦争が始まり、テレビの画面にはミサイルの光と油田の黒煙が繰り返し映されていた。日本は前年末に多国籍軍への資金拠出を決め、社会全体が「戦争」という言葉と急に地続きになった年だ。夏、その空気がまだ抜けきらない時期に、この曲は世に出た。

歌詞は、その時代の空気を直接名指すことはしない。名指すかわりに、浮かれ加減や踊り明かす夜を軽く描いておいて、そのすぐ隣に、遠くで痛んでいる何かをちらりと差し込む。看板の楽天が明るいほど、差し込まれた影の色は際立つ。反戦の一語で貼りにいく書き方ではなく、時代への視線を歌の内側にそっと持ち込む書き方に見える。

これが桑田佳祐の一つの型だ。強い言葉で貼りにいくのではなく、遊びの装いのなかに真面目な芯を紛れさせる。看板は上向き、芯は下向き。ふたつの方向を同じ一曲のなかに同居させ、片方が片方を隠す構造にする。聴き手は明るい曲として一度受け取り、二度目に聴き直したときに底の温度に気づく。歌のタイトルに感嘆符がふたつ載っているのは、たぶん偶然ではない。看板を派手に立てるほど、その裏側の書き込みは静かに聞こえる。

祝いか皮肉かの判定を聴き手に渡す

「ネオ・ブラボー」の一語は、ほめ言葉としても、皮肉としても読める距離を保っている。空虚を礼賛するのか、ほんとうに祝いたい何かを祝うのか、判定を歌のほうが引き取らない。引き取らないから、聴き手は自分の側で温度を決めることになる。

桑田佳祐の声は、この曲では突き抜けるより、少し胸のあたりに残す歌い方を選んでいる。上に抜けきる直前で軽く止め、次の一行へ渡していく。声の角度が、歌詞の二重底とちょうど揃う。祝いに寄り切らず、憂いに沈み切らず、ふたつの中間に立ち続けている。

そのバランスが、「戦争」という言葉がお茶の間に届いてしまう1991年の夏に、じつはしっくりくる。悲しい歌でも、無理に明るい歌でもない、あいだの温度。ニュースが終わったあとの視聴者の心のかたちに、いちばん近い温度はたぶんそこだった。硬派な番組の側から見ても、鳴り出した瞬間に空気を切り替えてくれるだけの明るさは要る。

しかし、番組が背負った重さを裏切るほど能天気であってもならない。二重底の歌は、その両方を器用にこなす。サビが繰り返し戻ってくるたびに、賑やかな音の合間で白い間がわずかに広がる。夏の祭りの終盤、屋台の灯りが少しずつ落ち始める時間帯の温度に近い。この曲が長く愛されているのは、たぶんその耳ざわりの深さのほうだ。

明るさに遠さを含ませて締めくくる夏

シングルは累計40万枚を超えるヒットとなった。街のあちこちで流れていた、というより、テレビをつければニュースの終わりに流れていた、という届き方をした一曲だ。数字だけを見ても大きな結果だが、この曲の記憶に残った要素は数字ではない。看板は楽天、芯は時代への視線という、二重構造そのものが、そのままその夏の日本の心のかたちだったからだ。

遠くで戦争が起きていた年に、その遠さを歌の底へ含ませた一曲。看板が明るいぶん、芯に触れるまでには時間がかかる。35年たった耳で聴き直すと、ニュースの終わりに流れていた頃には気づけなかった側面が、ようやく手前に立ち上がる。楽天と時代への視線を同居させたまま、明るく夏を締めくくった一曲として、いまも耳に残る。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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