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本のプロが出会った、本好きの本棚。杉江由次 × 山下丸郎が語り合う

  • 2026.6.26

雑誌『本の雑誌』の営業担当として日本全国の書店を巡ること四半世紀。本棚取材や蔵書整理にも奔走する杉江由次さんと、神保町の新時代を切り拓(ひら)く〈stacks bookstore〉山下丸郎さんが本棚について語り合う。

illustration: Reiko Shibuya / text: Hikari Torisawa

澁谷玲子 イラスト
BRUTUS

13万冊がひしめく日下三蔵さんの魔窟

山下丸郎

杉江さんは仕事柄、すごい本棚をたくさんご覧になっていそうですね。

杉江由次

はい!これまで見てきた中で一番すごかったのは、ミステリ・SF評論家でアンソロジストの日下三蔵さんですかね。蔵書整理に着手して、13万冊以上から2万5000冊ぐらい減らしたんですよ。

山下

それでも残りが10万冊以上!

杉江

一軒家の1階の4部屋がすべて本で埋まっていて。3LDKのマンションと物置3つもすべて書庫でした。

山下

13万冊の本って……数えられるものなんですか?

杉江

無理ですね。古書店の方がざっと見積もってその数です。壁も床も見えない。全員カニ歩きで移動しました。同行した、ブログ「古本屋ツアー・イン・ジャパン」の小山力也さんが“古本山脈”の間を“古本獣道”って名づけてました。

澁谷玲子 イラスト
「尋常じゃない量の本を見たあとは、帰って寝るたびにうなされました」(杉江さん)

赤ランプとサイン装備。評論家・水鏡子さんの書庫

──本のために家を建てる人も?

杉江

いますねえ。SF評論家・水鏡子さんの10万冊収納できる書庫。一見普通の家みたいなんですけど中は本だけ。扉が1枚っきりで窓もない。

山下

日に焼けちゃいますもんね。

杉江

外に出られなくなったとき用のサイレンも完備。これこれ、うちで取材した記事が『絶景本棚2』にあります。

山下

可動式の本棚、すごいですね。

杉江

収納量を上げたい派と、全部見たい派がいますね。ただ、どっちにしろすぐに埋まっちゃうんですよね。スペースがあれば結局本を増やしてしまう。

澁谷玲子 イラスト
自宅の隣に建てた本のための空間。閉じ込められたときのためにサイレンを付けている。

──『絶景本棚』ももう3巻。基になっている『本の雑誌』の連載も長いですよね?

杉江

2014年の「絶景書斎を巡る旅!」特集が評判で、15年から「本棚が見たい!」という連載になりました。東京近隣が多いですが、地方に行くと土地があるからまた違った世界が広がってるんだろうな。山下さんは蔵書、どこに置かれてるんですか?

山下

渋谷の自宅と、神保町の倉庫、実家にも置いています。

杉江

自宅と店舗スペースとは別に、本の置き場があるんですね。出たら絶対買うレーベルってあります?

山下

新潮クレスト・ブックスはこれまで全部買ってますね。

杉江

あら、ちょっと危ない。そういう買い方をされる方は、読書が好きなことに加えて別の要素があるかな。

山下

そうかもしれません。昔から音楽が好きだったんで、レコードもレーベル買いやプロデューサー買いをしていて、あるときこれ以上は収拾つかないなってタイミングが来て。家にいるのが辛くなるレベルになったのでレコードは諦めました。杉江さんはコレクター気質ってあります?

杉江

幸いあんまりなくて、読みたい本を買っているんですがやっぱり増えちゃって。ここ2年ほど、実家に少しずつ蔵書を運んでるんですが、そのうち実家も整理しちゃうだろうから実は何の解決法にもなってない。

山下

先延ばしですね(笑)。仕事場が神保町にあると……。

杉江

ついつい本に手が伸びてしまう。2012年に会社が神保町に移ってからの増え方はやばいですよ。

夜更けの六本木で本棚の間を回遊した思い出

──お2人が、特に印象に残っている本棚ってありますか?

山下

新刊書店も古書店も、全国いろいろ回っているんですが、一番印象に残ってるのは六本木にあった〈青山ブックセンター〉です。祖母が六本木に住んでいたこともあり、幼い頃からよく通っていて。ダイレクトに影響を受けている。背伸びしたい年頃にはわざわざ夜中に買いに行ってました。

──書店がかっこいいイメージであるのはいいですね。

山下

今も思ってます!東京以外だと盛岡の〈さわや書店〉も良かった。書店員さんが楽しんで棚を作っているのが伝わってくる店が好きです。

杉江

千駄木の〈往来堂書店〉は行かれたことあります?初代店長の安藤哲也さんが、本の並びで文脈を作っていく“文脈棚”という概念を打ち出して、今も受け継がれています。しかしいい書店に育てられていて羨ましい!

〈青山ブックセンター〉や〈リブロ〉は、かっこいいお店があると聞いて頑張って行った記憶があります。山下さんのお店もご近所で、何度も覗いてるんですけどかっこいいですよね。

山下

次はぜひ入ってみてください!

杉江

勇気を出してみます。

澁谷玲子 イラスト
山下さんが幼い頃から通った〈青山ブックセンター〉。真夜中の書店には特別感がある。

映(ば)えじゃない、愛読書が置かれた空間の心地よさ

山下

書店じゃなくてワインバーなんですけど、仙台にある〈バリカンテ〉のカウンターで一人飲みしてたら、店主の愛読書で、江戸川乱歩のハードカバーとか怪談本が並んでいて。雰囲気作りじゃなくて、好きなものを置くスタンスがすごくいいなと思いました。

澁谷玲子 イラスト
小学校の図書館にもあった江戸川乱歩の小説に再会して、ワインがますますおいしくなる。

〈本の雑誌スッキリ隊〉の行く先々にすごい蔵書あり

──〈本の雑誌スッキリ隊〉ってどれくらい活動されてるんですか?

杉江

100件は行ってないくらいですね。『本の雑誌』読者は、蔵書が多くて困っている方が多くて。それで、編集部が窓口になって、古書店の方と一緒に蔵書整理に行こう!と2019年に始動しました。ご本人からだけでなく、ご遺族からの依頼も多いです。

──足の踏み場もないような現場も?

杉江

ありますね。ため込む人はため込んじゃいますから。そんな中からお宝が出てくることもあるんです。

山下

何が出てくるかわからないっていうのは楽しそうですね。

杉江

すごい案件を思い出しました。隊員3人で2DKのマンションに行ったら、玄関を開けた先、80cmくらい床がせり上がってるの。

山下

え?どういうことですか??

杉江

紙が堆積してるの。郵便物とか投函されたチラシとか。中に入るにはその層の上を行かなきゃいけない。玄関とダイニングは80cm、書庫20cm、住居スペースに充てている1部屋だけ嵩(かさ)が減ってるけどそこも床一面の紙。1万冊くらいあって3日かけて整理したんですけど、もちろん紙の下にも蔵書があって。古書店の方が稀少な専門書を掘り当ててから、みんな必死でそのエリアを漁(あさ)ったりして。

澁谷玲子 イラスト
一般家庭の蔵書整理。うずたかく積まれた紙の中から貴重な専門書を掘り起こした!

山下

聞いているだけですごい……。

杉江

古書店さんが奥で本を縛ってね、僕が搬出するんです。両手に25冊くらいずつ抱えて、梁(はり)や天井に頭をぶつけながら運びました。魔窟で思い出しましたが、『ブルータス』の本棚特集では、辞書研究家の境田稔信さんも取材されていましたよね。

──まさに獣道をカニ歩きでした。

杉江

うちで取材させてもらったのが2015年。そこからさらに進化してますね。本が詰まれすぎてエアコン修理もできないという話、蔵書家の界隈ではときどき耳にします。

──忘れられない本棚はありますか?

杉江

『書庫を建てる』という一冊にもまとめられていますが、松原隆一郎先生の螺旋状の書庫は素晴らしかったですね。京極夏彦先生の書斎も、本がきっちり揃っていて照明まで美しい。

山下

本の背表紙が一望できる本棚には憧れます!

杉江

本って減ることもあります?

山下

貸すことはよくありますが、基本的に手放すことはしないですね。好きな本で、絶版で手に入りにくい本なんかは手頃な価格で売っているのを見つけたら買ってしまいますし。

杉江

買っちゃいますよね。もうすでに持っていても。

山下

蔵書としてだけじゃなく、店の催事に持っていったりもできますし。

杉江

書店があることでタガが外れるってあるあるかも。山下さん、想像以上に重症かもしれませんよ!


profile

澁谷玲子 イラスト
BRUTUS

杉江由次(『本の雑誌』営業)

すぎえ・よしつぐ/1971年埼玉県生まれ。〈本の雑誌スッキリ隊〉メンバーとして蔵書整理に各所を駆け回る。著書に『「本の雑誌」炎の営業日誌』『サッカーデイズ』がある。

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BRUTUS

山下丸郎(〈stacks bookstore〉店主

やました・まるろう/1982年東京都生まれ。ライター、編集者、PRなどを経て現職。2021年、渋谷・富ヶ谷に〈stacks bookstore〉をオープン。24年神保町に移転。

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