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10年前、突如“一般男性”と結婚した「愛されヒロイン」“夫の偏愛に苦しむ”役の新境地とは

  • 2026.7.18
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2026年5月、第18回ベストマザー賞を受賞した相武紗季(C)SANKEI

2016年に、当時会社経営者と報じられた一般男性と結婚し、いまは2児の母。相武紗季のプロフィールにこの一行が加わってから10年になる。かつて彼女は、恋愛ドラマの中で「愛される女性」を演じ続けた俳優だった。それがいつからか、恋愛の裏側を、結婚生活の不穏さを、母として職業人として家族の責任を負う女性を、次々と引き受ける俳優になっている。

私生活が役を変えたという話ではない。作品の中で彼女に渡されてきた役の立ち位置が、恋のまんなかから家族の現実へと、確かに移動してきたのだ。その軌跡を追うと、夫・結婚・母という現在地が、キャリアの到達点ではなく通過点として見えてくる。

愛される側から始まった

女優としての出発点は青春群像の中にある。フジテレビ系ドラマ『WATER BOYS』(2003年)において、相武は男子シンクロ部の物語の中で女子生徒の一人を演じた。主役ではない。けれど画面の中で、彼女は「想われる側」の位置に自然と収まっていた。

その位置が物語の中心に来たのが、フジテレビ系ドラマ『絶対彼氏〜完全無欠の恋人ロボット〜』(2008年)だ。速水もこみちが演じる完全無欠の恋人ロボットと、水嶋ヒロが演じる御曹司。二人の男性との恋愛に揺れるヒロインとして、相武は王道ラブコメの重心に立った。愛されることが物語の推進力そのものになる役。ここが彼女の恋愛軸の原点であり、のちの変化を測るための基準点になる。

恋愛の痛い部分を引き受ける

翌年、その基準点からの最初の移動が起きる。山下智久が主演したフジテレビ系ドラマ『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』(2009年)で、相武が演じたのは主人公の恋人だった。ただしこの役は、愛される幸福ではなく、交際の停滞と裏切りを担う。関係が冷えていく気配、割り切り、隠しごと。恋愛の甘い部分ではなく痛い部分を、彼女は物語の中で背負った。

この役を「悪女」の一語で片付けてしまうと本質を見誤る。恋愛には表と裏があり、その裏側にも人間の事情があるということを、愛されるヒロインだった俳優が演じてみせた。恋のまんなかにいた人が、恋の構造そのものを見せる側へ回った転回点である。

結婚がゴールではなくなる

2010年代に入ると、役の軸足は恋愛から結婚へ移る。テレビ朝日系ドラマ『おトメさん』(2013年)で、相武は既婚者を演じた。黒木瞳演じる姑と対峙し、嫁として自分の権利をはっきり主張する女性。恋愛ドラマなら結婚はハッピーエンドの記号だが、この作品で結婚は摩擦の始まりとして描かれる。

さらにドラマ『硝子の葦』(WOWOW・2015年)では、夫婦のあいだの性愛や支配、家族の内側に沈む傷を扱う物語で主演を務めた。幸福な妻、円満な家庭という額縁の外にある結婚を、正面から演じる。愛される女性の先に待っているのは必ずしも幸福ではないという視点を、彼女はこの時期に役として獲得していった。

働く母の現実まで演じる

結婚の次に彼女へ渡されたのは、母の役だった。それも、慈愛に満ちた清らかな母性の記号ではなく、質感の異なる母たちである。日本テレビ系ドラマ『同期のサクラ』(2019年)では、8歳の娘を育てながら職場で後輩を指導する女性を演じた。仕事と育児のあいだで疲弊も抱える、等身大の働く母。2023年のTBS系ドラマ『ラストマン−全盲の捜査官−』(2023年)では、福山雅治演じる主人公の記憶の中に生きる母を過去編で演じている。

現在を生きる母、記憶の中の母。相武自身も2児の母だが、並べて見えてくるのは、母という一語では括れない多様な女性像を、彼女が一つずつ引き受けてきたという事実だ。

愛されることが重荷になる

そして役柄の軸は、ひとつの到達点にたどり着く。テレビ東京系ドラマ『夫よ、死んでくれないか』(2025年)で相武が演じたのは、大恋愛の末に結婚した夫の偏愛に苦しみ、離婚を考える妻だった。この作品では、「愛されること」が抑圧に転じる。

強すぎる愛情に囲い込まれ、結婚生活の内側で息が詰まっていく女性。愛される側にいた俳優が、17年をかけて、愛されることの重さを問う役にたどり着いた。恋愛ドラマの外側からは見えなかった結婚の内実を、彼女はいま、当事者の顔で演じているのだ。

自分の言葉で発信する現在地

役の話を離れて本人の現在地を見れば、2026年5月、相武は第18回ベストマザー賞2026の俳優部門を受賞した。2児の母としての日々が公の場で形になった機会である。続く6月には「相武紗季と、ぼちぼちいこ会」を開設し、仕事や日常で感じたことを自分の言葉で伝え、読み手と直接つながる場を持った。

愛される女性から、家族の現実を引き受ける女性へ。その移動は、若さや華やかさの喪失ではない。演じられる人生の射程が、恋のまんなかから家族の奥行きまで広がったということだ。だからこの俳優の現在地は、いちばん遠くまで来た場所であると同時に、まだ途中なのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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