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【ネタバレあり】上田誠『君は映画』撮影日誌《7日目・8日目・9日目》

  • 2026.6.24

※本記事は映画『君は映画』監督・上田誠氏による制作日誌です。
※※本記事には『君は映画』のネタバレを含みます※※

9月7日(撮影7日目)

シーン10マ マドカがカズマにあらすじを聞きたい

この日も外は賑々しくお祭りなので、一日トリウッドに籠る。
制作の青柳さんが「今日はもう、籠城してもらって」って言ってた。
映画の中と外の境界の守り人らしい発言だと思った。

トリウッド内で、マドカがスクリーンのカズマにあらすじを聞きたがるも、カズマが店長に連れていかれるところ。「カマカ」の、マドカ中継ぎ。
シンメで長く撮るのはやっぱり面白い。シンメってのはシンメトリーの略で、映画のスクリーンと客席でふたりがちょうど向き合ってるような構図。『君は映画』を代表するカットだと思う。

のちのカズマクロージングで、カズマが外に出ていく場面を撮るのだけど、そこではカメラが動き(出ていくカズマを引っ張りで撮る)、マドカが映っているスクリーンの角度も変わる。
それを逆算して、このマドカ撮影では、マドカの画角を変えながら撮影する。
これはこの映画いちばんの超絶ギミック。
そしてたぶん誰も気づかない。のでここに記しておきます。
カズマが店長に連れ出されるときの、スクリーン内のマドカの画角の変化に注目です。

シーン27カ トリウッドに両チームがなだれ込む

カズマサイド中継ぎ。
地獄の大所帯スクリーンがらみ、シーン27である。

マドカサイドでフォース合戦みたいなのが行われていて、それをスクリーン越しにカズマとミコシバが見ているリアクションを、このターンで撮影しなくてはなんだけど、昨日のリハで、フォース合戦を撮り忘れていた。ので尺が分からない!
誰かスマホとかで撮ってないですか、と朝からバタバタ聞いて回ると、美術小道具の後藤さんがたまたま撮っていた。さすがの後藤さんのファインプレーだ。
おかげでリアクション撮影は、ばっちりいいのが撮れました。

このピンチに、前夜にいち早く気づいたのは助監督の藤原さん。
深夜にばっと目覚めて、「フォース合戦撮ってない!」って気づいたらしい。
助監督として天才すぎるし、人間の脳って神秘すぎる。
撮影の和田さんも、マドカサイドとカズマサイドと現実と、3つの世界がレイヤーになった夢を見るって言ってた。うまく説明できないんですけど、って。
夢の中まで追いかけてくる『君は映画』だ。

カズマチームの半グレや店長、タマルとセノオが駆け込んできて、銃撃戦てきなアクション。
和田さんのワークがF1のカメラマンかなってほどの反応速度。
支度部がモニター見ながら「すごい…!」って漏らしてた。
なんだかここも自主映画撮ってるみたい。
普通なら「ちょっとカメラが芝居しすぎかな」っていうようなことも、映画中映画であるという言い訳を借りて、思い切ってやれる。

ミコシバが銃弾をフライパンで受けて倒れ、カメラがカズマに一瞬向いている間に、後藤さんがフライパンを銃痕つきのものに差し替える。
「ドロステのはてで僕ら」でもやった、後藤さんのくノ一のようなすげ替えだ。鮮やか。
穴あきのフライパンを作ってくれた美術部にも感謝。

さらには、カメラが一瞬スクリーンを撮る瞬間を狙って、こさささんが、映像内でカンバヤシが吹っ飛ぶところをスナイパーのように入れ込んでくれた。
全員の思惑がゾーンのように組み合わさる、全員映画になってきた。

撮影の合間、こさささんに色々映画用語をたずねた。
カメラを上方向へ振ることを、パンアップって言うのかチルトアップって言うのか。どっちでもいいそう。ドリー。トラックイン。つける。回り込み。
映画の言葉を知りたい。現場の人たちと映画語で話したい。
外国語を習得したいと思ったことはないけど、すこし分かった気がする。

9月8日(撮影8日目)

シモキタカレッジ

雨も祭りもなく、こころゆくまで外を撮れる日。
なので、外を撮る!

あとは、この日はギースさんDAY。
ギースさんが初めて合流して、クランクアップする日。
朝、シモキタカレッジで、ギースさんとご挨拶して、衣装合わせ。
「高佐さんはやっぱりスーツがいいです」という僕の突発ワガママを叶えるべく、エリーさんも、そして高佐さんも、スーツを用意してくれた。
ギースさんとは、一時期イベントなどでさんざんご一緒していて、ユーモアに関するソウルメイトだと思っている。この映画にも欠かせないピース。
会って早々、僕が欲しがるであろうユーモアゴシップを提供してくださった。ごちそうさまです。

シーン18カB・20カ・18カA 緑道を歩くカズマ

カズマの緑道シリーズを撮る。
この映画で唯一、シェルボ下北沢を離れたロケーション、緑道。
歩いて3分のところにある緑道。
案外撮りにくい緑道。
ヒッチコックの映画かなって思うほど蚊に襲われる緑道。

緑道の道中で、カズマが天才すぎてシネマティックマルチバース構造をすべて理解し、空中にあるであろうカメラに向かってチラシを見せるところ。
海くんも天才なので、すぐに構造を理解し、カメラここかなって空中を探す芝居をしてくれた。
僕の映画の登場人物はみんな構造理解が天才的に早い。
リアルにはそうだと思いますよ。

そのあと、永野さんが空中から(別バースから)登場して、カズマとミコシバが驚くところ。
そして、緑道を歩くカズマ。
機嫌よく外のシーンを撮ってたら、押した。
三日月ロックのお尻がやばい! この日は三日月ロックが激重。

シーン26 三日月ロックで展開につぐ展開

偽札の話から、刑事がきて、カジノ騒ぎになって、マフィアの話になり、タマルとセノオも素性をあかし、Z資金の話、銃撃戦から逃走。
これを5分ほどでやるシークエンス。高難易度のごついシーン。
ギースさん、めちゃくちゃ面白い。アクションまで完璧!

撮影の途中で、撃たれた二人に血をつけるのだけど、支度部から「一人がおでこを撃たれたことにしたら、衣裳とメイクで作業わけれるから時短できますよ」と念のための提案。
採用はしなかったけど、めちゃくちゃなるほどと思う。
映画の現場とは時間のやりくりなのである。

美術のGENさんが作ってくれたカジノテーブルが、物語を映画ごとひっくり返してくれている。
GENさんは特殊造形もやれるので、今回はGENさんチームに、仕込み傘から謎ガジェットから尖り耳から火器まで、あらゆる造形物でお世話になった。
後半のトンチキ展開を、奇跡的に支えているのはGENさんチームです。
それからCGの大見さん。

刑事の高佐さんが倒れて土佐さんが現れるところ、最高。
三河さんの豹変しての台詞もこれこれって感じ。「台本読んで、これめっちゃ言いたかったんですよ」と。
金子さんは、刃物の扱いを動画で練習してくれてて、面白かったし天井に当たってて可笑しかった。ふだんは僕とおなじ劇作家なので、ギースさんと同じく、物語の勘所はなにも説明しなくても分かってくれる。
土佐さんも、ちょっとしたアクションを三河さんと仕上げてくれていた。

三日月ロックのデッドまでにぶじ撮り終わり、ここでギースさんと、三河さん金子さんがクランクアップ。
コールしてみんなで囲んで、お花を渡してコメントをいただく。
映画の後半になると、こうしてアップする人が徐々に出てくる。
終わりのはじまり。

シーン6・10カA ジョイントあれこれ

トリウッドと三日月ロックの、玄関まわりのジョイントをあれこれ。
この「ジョイント」が相当やっかいで。
厄介すぎて「ジョイント」という名前がわざわざついたほど。

なにが厄介かといいますと。
たとえばカズマが、トリウッドから外へ出て、三日月ロックに入るとしますよね。
このシーン、すべての条件がそろえば、当たり前に撮れるんですが。
トリウッドの受付にはヤマモト(諏訪さん)がいるし、トリウッドから出ると屋外で、三日月ロックのほうへ数歩進むと屋根がなくなっていて、そして三日月ロックのドアから店内へ、となります。
これがですね。

たとえば諏訪さんがスケジュール都合で来れない日もあれば、陽が落ちているとき(つまり外が夜になっている)ときもあれば、雨が降っているときもあれば、三日月ロックが閉まっているときもあれば。
4つぐらいの条件によって、どこまでは撮れるけどどこからは撮れない、とかが、変わるんです。

で。
この日は諏訪さんもいて、晴れていて、三日月ロックも開いている、という稀有な日。なので、ジョイントを片付ける。
あっ、陽はというと、だんだん落ちていくので、暗くなってからは照明で昼間を作って撮りました。
三日月ロックさんも開店の時間なので、店長さま(本物)のご厚意で、ドアまでは開けていいけど、中へは撮影隊は入れない。
そんな条件下のもとで、撮れる最大限の画を撮っていくんです。
映画というのはつくづく、工夫と柔軟さでできている。

カズマが作業員(永野さん)とすれ違って、トリウッドへ入るところ。
店長が、カズマをトリウッドから連れだし、三日月ロックへと入るところ。
境界をまたぐというのは大変でもあり、面白くもある。
越境していこう。

シーン10カ トリウッドから店長に連れ出されるカズマ

カズマクロージング。
昨日撮った、マドカの画角が途中で変わるカットを映して、答え合わせ。
まあ、うまくいっていた。
大変地味に、うまくいっていた。
この努力は、気づかれないだろう。

演劇でもよくあって。
そんなに苦労しないわりに見栄えがよいギミックもあれば、めちゃくちゃ大変なのにあんまり気づかれない演出もある。
たとえば早替えとかは、大変なのにあんまり気づかれない。
この映画、もしかしたらこっちのタイプかもしれない。
だったら、ちょっと損かもしれない。

終わった後は、スタッフとまた「都夏」へ。
前はほとんど味がしない打ち合わせ飯だったけど、この日は楽しかった。

9月9日(撮影9日目)

シーン21 グッドヘブンズでマドカからの通達

この日はマドカチームDAY。
エモーショナルな長尺の芝居場と、ギミック満載の長回し。
だんだん日々、撮影の難易度があがっている。
キャストスタッフの映画筋(えいがきん)が発達するのに合わせてか。
スケジュール演出、すごい。

マドカが劇団員たちに、座付き作家として思いのたけを伝えるシーン。
朝いちで、万理華さんのとっても素敵な芝居。ぐっとくる。
たまたま下北沢の映画だから、じゃあ登場人物は劇作家にしようかな、って決めただけで、自分やヨーロッパ企画を重ねるつもりはそんなになかった。
だけどやっぱりまあ、重なってしまう。
初監督映画だしそれもいいか、と思って書いた。
万理華さんは思いを真摯に受けとってくれ、「上田さんと思って演じます」と言ってくれた。かたじけなくも、ありがたい。
万理華さんもチームでの創作をするから、シンパシーを感じていたので。

シーン22 グッドヘブンズで展開につぐ展開

シーン21とうって変わって、超展開。
ユウナとカンバヤシの素性がわかり、マスターの出自もわかって、急にどでかいスケールの話になり、そこへ電磁干渉がやってきて、レコードを託され、外に出るとヴァルヴァダムの艦隊がみえ、演劇ファンが豹変するなか、マドカとシホはトリウッドに駆け込み、カズマの映画をみる。
元々は途中で切るつもりだったけど、一気に撮ることに。
チームが乗っているから、できると思った。

これを日没までに撮らないといけない。
スタッフワークも全セクションが絡む。
菊池さん、旺志郎さん、石田さん、酒井さんの台詞もそれぞれ超むずい。
フィッシュアンドチップスのお皿のすげかえや、店内の電飾が光ったり、画面にメッセージを出したり、空へのカメラ振り上げ(露出がすごい変わる)、映画館でのスクリーン出しまである。
数分間の長回しの最後に、スクリーンにばちっと映像を出さないといけないこさささんは、また映像咳がでていた。

さらに、照明の月岡さんに、あとでCGを入れることを見越した、発光体からの反射光をいろいろお願いしてしまう。
たとえば剣をCGで青白く光らせたとして、でもそれを見てる役者の顔に青白い光を乗せるのは、CGじゃちょっと難しいのです。
その反射光を現場でやってしまおう、という。
月岡さんばっちり対応してくださり、頼もしくかっこいい。

そもそも今回、映画館の中でうまく照明をつくるのがだいぶ難しく、月岡さんのおかげで映画が成り立っている。
照明助手の古郡さんも、背が高くて有利そうで素敵。
うちの本公演の照明家も背が高いし関係あるのかな、と思ったけど、音響家も同じくらい背が高いのだった。

映画の話に戻ります。
段取りとカメラテスト。カメラの和田さんがいちばん大変だと思う。
天井に貼ってある宇宙の星図みたいなポスターから、カメラを振り下ろしてユウナが語る、というのは万理華さんのアイデア。採り入れちゃう。
シアターで最後に流すのは、昨日撮った三日月ロックの超展開シーン。
万理華さんと藤谷さんに見てもらったら、「すごい!」「面白すぎる!」と発奮してくれて、向こうには負けない! というテンションにチームがなった。
そうかこれは相手側の映画と競い合ってつくる映画なんだ。

なんどもリテイクを重ねる。
セリフほんとに大変。言ったことない(上田が作った)SF単語や固有名詞をずっという、みたいなシーンなので。
菊池さんと旺志郎さん、僕とは初仕事なのに、たいへんよく理解してくれているばかりか、切実な感情まで大いに乗せてくれている。
シリアスとコメディは、演じきった果てにおなじ宇宙でつながっている。

日が落ちかかったころ、渾身の成功!
チェックをみんなでして、仕掛けがうまくいくたびに「うぇーい!」「いぇーい!」と大盛り上がり。ほんとに学生の自主映画みたいで、とてもいい。
石田さんもここでクランクアップ。
あんまり特筆してないけど、石田さんの長尺の台詞、超人的。

シーン18マA トリウッドでの、マドカとシホの会話

トリウッドにシホがやってきて、マドカと語り合うシーン。
昨日撮った、緑道でのカズマのチラシ見せのシーンも絡みつつ。
ギミックとエモーションが同時に走るし、ギミックコメディのすぐあとに、感情のとても深いところへいく。

ここは藤谷さんだから任せられるシーンだ。
ワークは和田さんとステディの平本さんにお任せして、僕は感情を相手どる演出をする。ほとんど別れ話みたいなシチュエーション。
「間に合わないよ」「間に合わないか」で、シホもマドカも泣いていた。
ギミックをこなしてコメディで戸惑ったのとおなじワンカットの中で、なんでこんなことができるんだろう。

この日撮れた3つのシーンは、どれもこの映画の自慢になるような、宝物みたいなシーンばかり。

◆作品情報

配給:TOHO NEXT、トリウッド
公式HP:https://www.europe-kikaku.com/kimiei
X・Instagram :@kimihaeiga0619

FILMAGAでは上田誠監督による『君は映画』制作日誌を連日公開予定。

◆予告

(C) ヨーロッパ企画/トリウッド 2026

※2026年6月16日時点の情報です。

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