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映画『マジカル・シークレット・ツアー』はどこまでが実話? 主婦役に「有村架純以外は考えていなかった」理由

  • 2026.6.22
映画『マジカル・シークレット・ツアー』はどこまでが実話なのか、有村架純・黒木華・南沙良の3者がハマり役である理由も含めて解説しましょう。(画像出典:(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会)
映画『マジカル・シークレット・ツアー』はどこまでが実話なのか、有村架純・黒木華・南沙良の3者がハマり役である理由も含めて解説しましょう。(画像出典:(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会)

6月19日より有村架純・黒木華・南沙良が初共演を果たした映画『マジカル・シークレット・ツアー』が劇場公開中です。本作は主婦たちが「金の密輸」のために逮捕された実際の事件に着想を得た作品で、「どこまでが実話なの?」と疑問に思う人もいるでしょう。

監督の実体験が反映されていた

結論から申し上げれば、本作の物語やキャラクターのほとんどはフィクションです。しかし、後述する通り「監督の実体験」が一部に反映されていたりもするのです。

そして、特異な事件に限らない「無意識の決めつけや思い込み」の普遍的な寓話(教訓を与える物語)になっていることこそが、真に重要な作品であると思えました

れっきとした犯罪を描いている、後述するような「生々しさ」が多分にある作品ながら、なぜ『マジカル・シークレット・ツアー』というきらびやかなタイトルが付けられているのか。その理由も含めて解説しましょう。

実際の事件との明確な違いは?

まず、実際の2017年に起こった事件のあらましを記しておきましょう。40代から70代の主婦やパートの女性5人が、約30キロ、金額にして1億3000万円相当の金塊を密輸入したとして、中部国際空港で逮捕されました。

彼女たちは金塊を下着に縫い付けられたポケットの内側に隠すなどの手口で、約1000万円の税金の支払いを逃れようとしていました。主犯格の女性は他の4人を誘う「中心的な役割」を担っており、裁判官からは「組織的・職業的犯行」であると指摘されていました。

実際の事件では逮捕者は5人でしたが、今回の映画ではメインキャラクターを3人に絞っています。また、実際の事件での密輸入元は韓国でしたが、映画では「2017年当時の日本への金の密輸のほとんどがシンガポールと香港だった」という理由でシンガポールを舞台とし、実際にロケ撮影も行われました。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

注目は、天野千尋監督が自身の関心ごとについて、「もちろん犯罪は許されません」としながらも、「犯罪者である彼女たちではなく、生活者としての彼女たちの方に引き寄せられ、どんな暮らしをしていたのか? なにか事情があったのか? どうやって計画したんだろう? など空想がどんどんふくらんでいきました」などと語っている点です。

その言葉通り、劇中のキャラクターそれぞれの描写、特に金の密輸に向かうまでの心理は天野監督の想像(空想)によるものですが、「実際もこうだったのかも」と思えるほど、リアルかつ生々しく描かれていたりもします。

有村架純演じる2児の母が犯罪者に。「リアルで生々しい」理由も

例えば、有村架純が演じる専業主婦である2児の母・和歌子は、自身の夫が会社の金を横領するばかりか昏睡状態になったために困窮。「誰でもできる簡単なお仕事です」と電話口で言われた通りにシンガポールへ向かうことになります。あまつさえ幼い2人の子どもを連れていることまでも「3人分運べばいい」という理由で「許容」されてしまうのです。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

それらの過程だけを取り出せば、劇中で「子連れで来るなんて、すごい度胸です」と皮肉を言われることも納得の、「悪い冗談」のようです。

しかし、実際の事件でも「普通の主婦やパート」が犯罪に手を出していたのは事実です。それまでの過程は「あっさり」としていたりもするけど、側から見れば「異常極まりない」ものなのかもしれない……などとも想像できるでしょう。

そして、有村架純のキャスティングは、製作陣が「他の方は考えていなかった」と口をそろえていたのだとか。天野監督も「有村さんは、柔らかく見えて揺るぎない芯を持っている印象がありました。和歌子の変化していく過程を説得力をもって見せられると思い、お願いしました」と配役の理由を語っています。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

後述する「自身の本当の気持ちを言えないのに流され続けてしまう」心理を、有村架純は可憐なルックスと相反するような「目力」と、「ここぞと言う時に爆発する感情」で見せている、これ以上ない熱演かつハマり役だと思えました。

南沙良が体現する「どうにもならなくても意志が強い」妊婦

そんな有村架純演じる2児の母・和歌子について、天野監督は「もしかすると同じ主婦として、どこかで自分を重ねていたのかもしれません」と語っているのですが、さらに南沙良演じる、毒親を持ちキャバクラで働く未婚の妊婦・麻由も、監督自身と共通していたところがあったのでしょう。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

何しろ、天野監督は「私自身、妊娠中や小さい子どもを連れて海外を訪れた際に、空港などで受ける対応が独り身のときとはまるで違って驚いた経験があります。丁寧に扱っていただきありがたさを感じる一方で、1人の人間というより『妊婦』『子連れの母親』という“弱者”のカテゴリで見られる感覚をおぼえました」と語っています。

その通りで、和歌子は幼い子どもを連れていて、麻由は妊婦であるからこそ、空港のスタッフに気遣われており、皮肉にもそのことが「密輸犯だと疑われない」理由になっているようにさえ見えます。それらはもちろん社会にある優しい視線によるものですが、同時に「弱者というカテゴライズ」、もっといえば「1人の人間として見ない」ことにもつながるのでしょう。

劇中ではその天野監督の意志が、「1人の人間として捉える」形ではっきりと描かれています。何しろ麻由は「優柔不断な和歌子(有村架純)に対してはっきりと意志が強い人物」です。天野監督が語る通り「貧困が連鎖している家庭に育ち、本人は強く生きていて自分を卑下してはいないけれど、やっぱり家庭の貧困問題から逃れられない」と、劇中からは「(意志が強くても)どうにもならない」焦燥感や絶望も伝わってきます。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

麻由を演じた南沙良は、これまでも可憐なルックスを持ちながら不満を抱えるキャラクターを見事に体現しており、筆者個人としては有村架純と似た資質を持つ俳優だと思っていました。本作では「意志の強さ」という1点で、その有村架純と渡り合う熱演をしていることにも、ぜひ注目してほしいです。

黒木華は「関西弁ネイティブ」にも貢献。非正規雇用の研究員の焦燥感が反映されていた

さらに、黒木華演じる、奨学金の返済に追われ後輩の出世をうらやむ非正規雇用の研究員・研究員・清恵というキャラクターについて、天野監督は自身が大学の研究室でバイトしていた際の見聞から生まれたと明言しています。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

というのも、天野監督によると「研究者は非正規雇用で任期付きのポストが多く、皆さん“成果を出さないと解雇される”という焦燥感を抱えながら研究していて、研究者の世界がとてもシビア」だと感じており、「社会の中で地位があってエリートに見えても、生きづらさを抱えているキャラクターを描きたい」という思いがあったからこそ、清恵というキャラクターが生まれたのだそうです。

しかも、黒木華自身が「関西弁ネイティブ」としてセリフをよりナチュラルにアレンジするなど、キャラクター作りに貢献していたのだとか。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

ネガティブな思いを多分に抱えていながらもおしゃべりでもあり、アイドルオタクで推し活が生きがいであることも含めて愛おしく、その不器用さもありありと伝わってきて切なくなってくる……という「1人の人間」を、黒木華は完璧に体現していました。

「罪が軽かった」「簡単だった」からこそ犯罪行為をエスカレートしてしまう皮肉

「金の密輸」というそれだけを聞くと重大に思える犯罪に対して、劇中では「大したことじゃない」「そんなに悪いことじゃない」という「言い訳」をたびたびしており、それは彼女たちがさらなる「深み」にハマってしまったという理由につながっています。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

例えば、劇中で「もちろん(密輸は)法律的にダメよ。でも人を殺してもないし、誰も傷つけてない。税金を払っていないというだけ」の言い訳は、確かにある種の真実ではあるでしょう。

さらには、「お金ってさ、あるところには腐るほどあるのに、社会の仕組みがクソやから、こっちまで回ってこうへんねん」「少しズルしても…まぁ、ズルしないと、割にあわへんて」というセリフも、貧困にまつわる普遍的な事実として、共感「してしまう」ところもあるのです。

しかも、天野監督によると、2017年当時は密輸さえも「申告漏れ」という扱いとなり、初犯かつその場で申告して税金を払えば、ペナルティは多少の罰金くらいで金も返してもらえたそうです(2026年の今ではもちろん改正済み)。

思えば、現在大きな問題になっている「闇バイト」も、「リスクの低さ」はもとより「大したことじゃない」などと罪の軽さを吹聴することで、安易に手を出してしまった例は間違いなくあります。

映画の着想元の実際の事件が「組織的・職業的犯行」であると指摘されたことと同じように、劇中の彼女たちは雇われる側ではなく、自ら率先してさらなる金の密輸に手を出してしまうのです。

もちろん、その過程を、ましてや犯罪を安易に肯定するはずはありません。終盤の展開はむしろ、犯罪に対して「これでもか」と「NO」を突きつける展開が待っており、本作を見て自分も金の密輸をしてみたいと思う人は、まず存在しないでしょう。

本作は、「罪が軽かった」「簡単だった」からこそ犯罪行為をエスカレートしてしまう皮肉と問題をも、まざまざと描いているのです。

まるで「魔法のような」タイトルの意味は

犯罪への「NO」を突きつける内容ながら、天野監督はシスターフッド(女性たちの連帯を示す言葉)としての物語を重視したとも語っています。

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

「生きづらさを抱えた主婦たちが連帯して密輸を行い、仲間を得て、今までになかった楽しさを感じていく物語にしたい」という監督の想いは、「マジカル・シークレット・ツアー」というタイトルと、そこに込められた「たとえ犯罪であり、最後は儚く散ってしまったとしても、彼女たちにとっては人生のその一瞬だけが魔法みたいな時間だった」というエモーショナルなメッセージにも表れています。

しかも、映画は有村架純が演じる和歌子の「あの旅が私を変えた。人生は自分で作るものだと知って、生きることに夢中になった。めくるめくあの時間が、ずっと続いてほしかった」というモノローグで幕を開けます。そのきらびやかにも思えた時間が、終盤との「落差」をより際立たせる効果を生んでいる、とも言えるでしょう。

「想像」は犯罪の抑止につながるのかもしれない

天野監督は、本作について「もちろん犯罪は許されません。けれど罪を犯した人を『悪』と断じるだけではなく、その背景にはどんな事情があったのだろう?と考えてみることこそが、実は大切ではないかと思います」とも語っています。

確かに、その想像こそが、「無意識の決めつけや思い込み」をしないために必要であり、もっと言えば身近な人が犯罪に手を出すことを止めるための、1つの抑止力にもなり得ると思えます。

劇中で有村架純演じる和歌子は、「自身の本当の気持ちを言えないのに流され続けてしまう」からこそ、母親から「何よそのヘッタクソなうそは」「トロいのに妙にちゃっかりして」など勝手に決めつけられており、そのことが彼女を犯罪に走らせてしまった、とも明確に描かれてもいます。

それをもって、現実に犯罪に手を染めてしまう(かもしれない)人に「何ができた(できる)だろうか?」とも想像することこそに、本作の意義があると言えるでしょう。

天野監督の2020年公開作『ミセス・ノイズィ』でも、かつて「騒音おばさん」として揶揄(やゆ)された奈良県での実際の出来事が着想元になっていました。そちらもまた実際の事件を安易に扱ったりはしていない、「無意識の決めつけや思い込み」についての痛烈かつ真摯(しんし)な批評性のある傑作でした。ぜひ、『マジカル・シークレット・ツアー』と併せて、見てみてほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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