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【ネタバレあり】上田誠『君は映画』撮影日誌《1日目・2日目》

  • 2026.6.21

※本記事は2026年6月19日(金)より公開中の映画『君は映画』監督・上田誠氏による制作日誌です。
※※本記事には『君は映画』のネタバレを含みます※※

9月1日(クランクイン)

撮影開始前

とにかく緊張。
「君は映画」にはふたつの映画が内在していて、かたや伊藤万理華さん演じるマドカが主演の「下北沢エクソダス」、かたや井之脇海さん演じるカズマが主演の「三軒茶屋エスケープ」。
このふたつの映画が互いに干渉しあい、片方のスクリーンにもう片方の映画が映る。
つまり2本の映画を撮るようなものだとお考えください。

そして「下北沢エクソダス」チーム(=マドカサイド)と「三軒茶屋エスケープ」(=カズマサイド)は、撮影ではほとんど絡まない。
ので、12日間の撮影期間の中で、この日はマドカサイド、とか、この日は午後からカズマサイド、とか、明確に分かれている。

そしてこの日はマドカサイドの撮影。
つまり海くんは不在で、万理華さんを中心に「下北沢エクソダス」のほうを、ほぼ順撮りみたいに撮っていく。

ここまででお分かりの通り、撮影日誌ですので完全にネタバレしていきます。
もちろんそれでも映画の面白みは損なわれませんので、日誌を読んでから映画をご覧になるのでもいっこうに構いません。
が、ネタバレを厭うストロング鑑賞志向のかたは、映画をご覧になってからお読みください。

カプセルホテルで起きて、近くのカフェでサンドイッチとコーヒー。そして台本を開いてカット割りの確認。
ギミック撮影の性質上、事前にかなり決め込んで打ち合わせもしてあるけど、もちろん現場でってところもあり、できるだけの想定をしていく。
そして、マドカが冒頭で通るのと同じ道を通って、トリウッドへ。自前でVlogも撮りながら。

基本的に撮影期間はずっとトリウッドを拠点にさせてもらい、朝、トリウッドの入っているビル「シェルボ下北沢」に集まって、ビルとその周辺で撮影をしていくのです。

プロデューサーであり普段は監督でもあるこさささんに、「監督っていつごろ現場に入るものですか?」と前日に聞くと、「撮影開始の1時間前とか、何もなければ20分前とかですかねえ」とのことで、とりあえず1時間前に行ってみる。その辺から分からない。

支度場(俳優さんたちがヘアメイクしたり衣装を着たり、待機するところ)は、トリウッド近くのシモキタカレッジという施設を借りていて、俳優さんはそこで支度をすませてトリウッドにやってくる。
以前、ある監督に「朝、支度場で、まず俳優たちの不安ごととか不満を聞き出しておくんです。そうするとその日の撮影がスムーズにいきますから」と聞いたことがあったけど、こさささんは支度場へは行かず、現場のスタッフたちと過ごすそう。
色々なんだな。僕もこささスタイルでいってみることに。

大槻ゼネラルプロデューサーが、北澤八幡神社の木札をくださった。ご祈祷に行かれたという。

そういえば行ってない。『リバー、流れないでよ』のときは、ロケ地が貴船神社だったこともあり、キャストスタッフみんなで撮影成功祈願をしてもらったのだった。
ギミックの夏期講習に夢中で、信心をおろそかにしてしまっていたことを恥じつつ、木札を映写室に祀らせていただく。なんといっても映写がうまくいくことがこの映画のカギなので。

録音部の桐山さんが「ラジオです」って言って、マイクの音が聴こえる受信機を渡してくれた。
いまいち使い方が分からず、聴こえ方ってこのくらいでいいのか、アンテナを伸ばしていいのか伸ばしてる奴なんていないのか、とか焦っているうちに撮影が始まる。
聞けばいいじゃないって思うでしょう。聞けないんですよ初監督すぎて。
「スタート!」の声は自分がかけるのか、それとも助監督の藤原さんがかけるのか、とか、プレビュー(撮れた映像をその場で確認すること)は毎回するのか、とか、あの、大体わかるんですけど、ちゃんと分かってるのかほんとは分かってないのかが、分からない。
別にそんなの劇の演出だってそうなんですけど。

シーン1 下北沢を歩くマドカ

映画においてもファーストシーン。
マドカが楽しげに、下北沢の街をトリウッドへ歩くところ。
ここのシーンがいちばん不安だった。
なぜなら普通のシーンだから。
ギミック撮影になれば、自分に利がある。
なので映画のほとんどをギミックが絡むシーンにしてある。
だけど最初と、あと終盤だけは、ギミックが絡まない普通のシーン。なのでおぼつかなさがバレやすい。
加えて、実のところイメージしてたほど「これ!」という景色が見つかりきらなかったことや、人通りという不確定要素が多いことなどで、ここから撮影が始まるのが憂鬱だった。

支度を終えた万理華さんはまぶしく、すっかり映画の中のマドカで、数か月前までは劇の演出家として接していたので、映画の現場にいる僕を見て「監督だあ」と言ってくれた。
それでずいぶんアットホームな空気にしてもらい、半分オフショットを撮るような気持ちで撮影ができた。
マドカが万理華さんでよかった、と早くも思う。

それでもやっぱり人通りが多くて、人止めが大変だったり、偶然の時間を待つしかなかったり、トラックの搬入ともぶつかったりしながら、みんなで下北沢の街を機材を担いで走り、どうにか撮り終える。
ステディカム(動きながらでもブレない撮影機材)めちゃめちゃいいな! となる。
ステディは、この後も長回しの多いこの映画で大いに活躍する。

とにかく早くシェルボへ。
コントロールがきく環境へ!

シーン3 マドカ、トリウッドへ

シェルボ下北沢の外階段から、ワンカットでトリウッドの廊下を抜け、シアターの中へ。
ステディやっぱりなめらかで素敵。
昼間の下北沢から映画館へ入るわけなので、明るさがガクッと変わって難しい(らしい)のだけど、映画館のよさってまさにそこでもある。映画館に入ったときの暗さとか、映画を観たあとの外の明るさ。

場内灯を消すタイミングや、映画が上映されるタイミングなど、タイミングがものを言いはじめる。
こうなってくると僕にとってはホーム。
ここからは基本的にシェルボやトリウッドの中で、タイミングを統御する日々が始まる。もうこっちのもの!

シーン2 回想・演劇の上演

トリウッドの隣のブリティッシュパブ「グッドヘブンズ」で、演劇の上演シーン。
マドカの劇団はここを拠点にしていて、たまり場にしつつ小さなバー公演も打っている、という設定。

劇団員は、マドカの盟友・シホ(藤谷理子)、カンバヤシ(前田旺志郎)、ユウナ(菊池日菜子)。そして演劇ファン役に、酒井善史。

シホを主演にしたトンチキファンタジー寸劇を、リハから熱演してもらったら、観客役のエキストラさんたちから拍手をもらった。嬉しい。俳優たちもほっとしたと思う。
ちなみにエキストラをやってくれたのは、助監督・堀内さんの劇団「セビロデクンフーズ」の若い役者さんたち。なのでちょっとこう、ヨーロッパ企画としては先輩劇団としての矜持も見せたかったりして。入れ子になっている。

僕としては演劇のシーンは当たり前だけど得意で、こういうシーンがあってよかった。
8カットぐらいに割って贅沢に撮る。
後述しますけど、ギミックが発動してからは基本的に長回しなんです。

シーン2A 回想・演劇の打ち上げ

同じくグッドヘブンズで、公演の打ち上げシーン。
エチュードも交えつつ、次の公演へ向けてわーっと盛り上がる場面。
ここで盛り上がるほど、あとが切ない。
藤谷さんが座長ムーブを見せてくれて、たいへん頼もしい。エチュードを引っ張ってくれたり。
エキストラさんのオンリー会話を録音させてもらったら、ひっくり返るくらい会話がうまかった。シモキタカレッジ生だという。あなどれない!

これで初日の撮影は終わり。
緊張してたけど、順調に撮り終えられたし、そして初日は余裕をもって撮れるようにスケジュールを組んでくださったという。

助監督の藤原さんが、とにかくスケジュールを司る神で、並の神経と計算力じゃちょっとできないような複雑な香盤を、見事に組み上げてくださっている。
そればかりか、キャストスタッフの体力やモチベに合わせた、メリハリの効いた総スケにもなっている。「スケジュール演出」というのだそう。たまげた。

9月2日(撮影2日目)

シーン2B 回想・マドカとマスターの会話

この日もマドカサイドを撮っていく日。
昨日と同じくグッドヘブンズで、マドカとマスターの会話シーンを撮る。マスター役は石田剛太。
ここも普通の映画撮影みたいに、カット割りして撮る。
『リバー、流れないでよ』もそうでしたが、冒頭は普通にカットを割っていて、ギミックが発動すると、そこからは長回しなど特殊ルールによる撮影になるんです。

シーン8・9 降板ドミノ

初の長回し。最初のハードルって感じ。
マドカがトリウッドを出たところから、シホと出会い、グッドヘブンズに入って、劇団員たちから切ない提案を受けるまで。
数分間の会話をステディでワンカットで撮る。

ギミックが発動した後のシーンだから、長回しなんです。
今回の映画における、ギミック発動後の鉄のルールは、「カットが変わると、もう片方の映画へ飛ぶ」ということ。
なんのこっちゃでしょうが、映画を混乱させないための設計でして。
いまどっちの映画にいるのかを自然に感じ取ってもらうために、「カットの切り替わり=ふたつの映画の切り替わり」とする。
おなじ映画(たとえばマドカサイド)の中で、カット割りはしない。するときは必ずカズマサイドへ飛ぶ。
そして、飛ぶときはかならず「スクリーンをまたぐ」。

これはもう、映画を観ていただくほかなく。
とにかくまあ「長回しがたくさん発生しがちな映画なんだな」と思ってください。

そんなわけでこのシーンも4人の会話を長回しなんだけど、ずっとグループショットでも面白くないし、かといって話者に寄るとカメラのぶん回しが多くなって酔いそうになるしで、難しかった。
撮影の和田さん、ステディの平本さんと、相談しながらワークを詰めていく。

もちろん役者も大変で、なんどかテストを繰り返しつつ、役者とカメラが互いに練度をあげていく。
ある程度まとまってきたら、役者も含めてプレビュー。これでまた精度が上がる。
役者側もカメラの呼吸が分かってきて、カメラがくるのに合わせて台詞を言う、などがうまくなってくる。
トライアルを重ねて、ようやくOK。みんな拍手と歓声で盛り上がる。
時間がかかるかわりに獲れる魚もでかいのが、長回しの醍醐味。
「ドロステ」や「リバー」でも経験したけど、やっぱり演劇っぽくて楽しい。

ここで海くんも現場にやってきた。
この日は撮影はないけど、次のシーン7の台詞あわせのために。
普段着でふらりと現れたのだけど、その慣れた感じにむしろ気おされてしまう。
数か月前にやっていた劇では多少僕がホームかなって感じだったけど、映画はもう完全に海くんの庭だぜってかんじ。

シーン7マ マドカとカズマの出会い

トリウッドで、スクリーンごしに、マドカとカズマがはじめて出会うシーン。
つまりふたつの映画が干渉する。

「シーン7マ」というのは、もう説明を聞いてもらうのも申し訳ないくらいの七面倒くささですけど、つまりは「シーン7のマドカサイド」という意味です。
ここから適当に読み飛ばしてくださいね。
スクリーンを挟んで対話するマドカとカズマを、どちらからも描くので、つまり、マドカサイドではカズマがスクリーンに映っていて、カズマサイドではマドカがスクリーンの中にいて、ということになるんです。
ごめんなさいね、観てもらえたら一発なんですけど。

そして撮影上は、まずマドカサイドを(マドカのみ)撮り、後日、それをスクリーンに映したうえでカズマサイドを撮り、さらに後日、またそれをスクリーンに映してマドカサイドを撮って、両サイド完成、ということになります。
とにかくなるんです。
この理解に至るまでに、我々も膨大な時間を要しました。
とにかくトリウッドでの、スクリーンごしでの対話シーンは、おなじシーンを3回、撮らないといけないのです!

で、これをマドカサイドから撮るパターンが「マカマ」、カズマサイドから撮るパターンが「カマカ」であり。
このシーン7は「マカマ」、つまり先攻マドカの1回目、ということです。

撮影のつらさを思い出してきました。
ほんとにスタッフ一同、発狂しそうでした。
皆様におかれましては、ただ楽しくご覧くだされば幸いです。

とりあえず、シーン7・マドカサイド1回目。
会話のテンポを定めないといけないので、海くんにも台詞をお付き合いしてもらって、マドカとの会話を(マドカのみ)撮る。
マドカがどこを見てしゃべるのか、の目線合わせがだいぶややこしい。いろいろ計算しないと、トリックアートが成立しないんです。
「目線ボード」という、苦心のすえ発明したボードを頼りに、撮影を進めていく。けど、ざっくりであとはもう目視!みたいにもなりながら。

万理華さんもずいぶん訳わからなさと不安に苛まれたと思うけど、折れずにやり抜いてくれた。
ギミック撮影をやりなれているだけある。ギミックエンヌと心で呼んでいる。
トリウッド内の撮影は、とにかく忍耐がいりそう。
窓のない密閉空間で、おなじ会話を何度も何度もやるわけなので。
しかも窓がないのをいいことに、撮影は夜にまわされがちで。
昼は楽しく撮影したのち、疲れたころ地獄のトリウッド撮影がやってくる、というルーティンになっていきました。

2日目にして、けっこう大変な日でした。
長回しと、スクリーン会話。これが今回の撮影の2大看板になっていきそう。
僕はといえば、得意なギミック撮影のフェーズに入り、ようやく余裕がでてきました。

撮影後、こさささんたちと居酒屋「都夏」で、カット割りの打ち合わせ。
食事をまったく楽しめないほど料理そっちのけでやってしまってた。

◆作品情報

作品タイトル:『君は映画』
出演:伊藤万理華 井之脇海
藤谷理子 金丸慎太郎
前田旺志郎 菊池日菜子 金子鈴幸 三河悠冴 今井隆文 / 尾関高文(ザ・ギース) 高佐一慈(ザ・ギース)
石田剛太 酒井善史 土佐和成 角田貴志 諏訪雅 永野宗典
監督・脚本:上田誠
製作:トリウッド ヨーロッパ企画

配給:

TOHO NEXT

、トリウッド

公式HP:https://www.europe-kikaku.com/

kimiei

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Instagram

@kimihaeiga0619

FILMAGAでは上田誠監督による『君は映画』制作日誌を連日公開予定。

◆予告

(C) ヨーロッパ企画/トリウッド 2026

※2026年6月16日時点の情報です。

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