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【ネタバレあり】上田誠『君は映画』撮影日誌《プロローグ》

  • 2026.6.19

※本記事は2026年6月19日(金)より公開中の映画『君は映画』監督・上田誠氏による制作日誌です。
※※本記事には『君は映画』のネタバレを含みます※※

映画は自分の人生に入らない。
そんなふうに自分に言い聞かせてきた。
どう考えたって人生が足りないから。

ヨーロッパ企画という劇団をやっている。
京都を拠点に28年。大学1回生からやってきて今は46歳。
若いころは盛んにやってたけど最近は停滞気味、とかじゃなく、今がいちばん劇団をやっている。僕はおもに脚本と演出。

映画にはこれまで脚本家として関わってきた。
自分の劇団でも、ここ数年で2本、映画を作っている。
『ドロステのはてで僕ら』と『リバー、流れないでよ』。
監督は、劇団の映像スタッフである山口淳太。自分はそこでも脚本だ。

「監督やらないんですか」と聞かれたり、「監督やってみませんか」と誘われることはある。
短いのだとやることもあったけど、基本的にははんなりとお断りしてきた。
「自分の人生は脚本だけで手一杯なので、監督はほかの上手な方に」と。
それは本心だし、淳太さんにも、よそでご一緒した監督の方々にも、同じ思いだった。

けどまあ、やることにした。
どうしても飲みたい夜に、すっごい楽しそうな横丁があったら入ってしまうでしょう。
僕は確かに映画が撮りたかったし、マネージャーの竹岡さんは巧みな客引きみたいだった。

竹岡さんはプロデューサーをやってくれるといい、4カ月後に上田も劇団メンバーもスケジュールが開いていて、映画を撮るならここだと思います、という。いかれたスケジュールですけど、と。
なんかちょうどいい、と思った。
身の丈に合っていると。
自分が初めて映画を撮るのに、おあつらえ向きの時間のなさだった。
たぶん自分のことだから、考える時間があればあるだけ思案してしまう。
だったらエイヤでやってしまうほうがいい。

これまでの2本はどちらも京都で撮ってきたけど、今回は東京で撮ることにした。
新しいプロジェクト、という意味付けもあったし、単純に竹岡さんが東京住みだから、というのも大きかった。
このへん説明するとややこしいですけど、ヨーロッパ企画は京都拠点でありながら、東京にもメンバーやスタッフがいる2拠点劇団なんです。

下北沢トリウッドさん。
老舗のミニシアターであり、先述の2本の映画はトリウッドさんと一緒に作っている。
僕らを映画の世界へ誘いこんでくれたのは、代表でありプロデューサーの大槻さんだ。
今作もまたご一緒するにあたり、ロケ地もいっそトリウッドさんで、とお願いした。
下北沢にある、黄色い椅子がかわいらしい45席のミニシアター。いかにも物語が始まりそう。

僕の映画の作り方はすこし特殊で、まずロケ地を決めてから、そこにあう物語とギミックを決める。そして脚本を書いていく。
いうなれば「場所に対する当て書き」だ。
演劇でも基本はメンバーへの当て書きだから、それをロケ地に応用したものと言える。
まずハードの制約があってからの創作が自分は得意で、それは映画ではなおのこと。

「ギミック」はこれまた説明がいるけど、これまでの2作にも「ギミック」が入っている。
それは長回しのような撮影方法だったり、タイムリープなどの形式や構造だったりする。
僕はギミックの含まれた映像が好きだし、考えるのも得意で、自分が監督するならかならずギミック映画にしようと決めている。
といってギミックには溺れず、ちゃんと映画らしい情緒までたどり着けるような。演劇でもこの考え方はおんなじだ。

トリウッドさんで撮影できるとなり、両隣の飲食店「三日月ロック」「グッドヘブンズ」、さらに、階下の古着屋さん「CHICAGO」もロケ地協力をいただけるという。
だったらもうビルひとつを、ほとんどそこだけを舞台にした、下北沢一角映画が作れる。
そこから話を考えはじめ、トリウッドのスクリーンを挟んでふたつの映画が交錯するような、お互いがお互いを「あんたが映画」「いやそっちが映画」とスクリーンを挟んで言いあうような映画にしよう、と決めた。

竹岡さんの声がけで、方波見さんとこさささんという若き映画狂ふたりがプロデューサーに加わってくれ、またたく間にほがらかで屈強なスタッフを結集してくれた。
そのころ僕はちょうど伊藤万理華さん、井之脇海さんと舞台をやっていて、主演はどう考えてもこのふたりだろと思い、映画にもお誘いしたらOKしてくれた。
ほかにも素敵キャストが集まってくれ、笑っちゃうようなスピードで組ができた。脚本はもちろんプロットさえない段階で多くのキャストが出演を決めてくれたのだから感謝しかない。
面白そうなことが好きな人たちはみんなエイヤで生きているのだな、と思った。

そんな悠長な感想はおくびにも出せず、撮影準備はまあパツパツだった。
5月半ばに企画が立ち上がり、初稿ができたのは7月15日。平行してキャスティングやスタッフィング、そして撮影準備を進め、9月1日がクランクイン。
どうかしているスピード感で、特にプロデューサー陣には苦労をかけたけど、痛快でもあった。よその映画に脚本で関わるときには、5年なんてかかることもザラにあるからだ。
ちなみに演劇だって数か月で作るし、これまでの僕らの2本の映画もこのくらい。
映画を自分たちで出資までして作るのはリスキーではあるけど、5年かかってできるかできないか分からない映画に関わることだって大概だ。

鬱憤がおくびにでたけれど、何しろ僕はいま、このスピード感でのものづくりを愛しているし、スタッフキャストは全力でそれに応えてくれ、あらゆる準備が猛然と進んでいった。

映画の尺70分くらいを目指した。
コンパクトなものを目指さないと、あらゆることが膨れ上がりそうな予感がしたし、実際そうだった。
初監督なのでできるだけミニマムな映画を、と最初に言ってたのが僕なのに、キャストを増やそう増やそうとしているのも僕だった。
『リバー、流れないでよ』のときに、大寒波に見舞われあわや制作中止、へたすれば劇団が傾く恐怖におののいたので、今回は何としても屋根の下で撮りたかった。天候と向き合うのなんて5作目とかでいい。

下北沢で劇団をやっている劇作家「マドカ」と、バンドをやっている「カズマ」が、それぞれ気晴らしにトリウッドで映画を観て、スクリーンごしに出会う。
マドカはカズマを、カズマはマドカを映画の主人公として観る。やがて対話がはじまり、そこから物語は斜め上の展開へ。
ギミックはつまり、映画のスクリーンとの対話。
マドカはスクリーンに映ったカズマと、カズマはスクリーンに映ったマドカと、対話する。そして相手側で起こる物語をスクリーンごしに観る。

よく分からないでしょう。
スタッフもキャストもそうだったし、僕もどうやったらできるのか分からなかった。
あとからCGでスクリーンに合成するようなことも考えたけど、それでは色々と難しく、ギミックの「よさ」も消えそうだった。
まずは映画Aのシーンを撮る。それをスクリーンに映写し、それを含む映画Bを撮る。ときにはそのBをまたスクリーンに映し、それこみの映画Aを撮る。
愚直だしアナログだけど、それがいちばんワクワクしそうだった。トリウッドでしかありえない撮影方法でもあった。

クランクイン前、スタッフで集まって撮影打ち合わせ。3時間くらいのつもりが、8時間かかるねこれ、ってなり、結局2日間かかって終わらなかった。
のちにそれは「夏期講習」とか「夏合宿」と呼ばれ、参加したスタッフたちは目はギンギンに、構造筋(構造理解に関する筋肉、この世にない筋肉)はムキムキになった。
「ごしスクリーン」「シンメ」「カミメ」「シモメ」「マカマ」「カマカ」などの専門用語が生まれた。

ほかにも検証すると、目線合わせの問題とか、そもそも映画館の中で撮影することの光の難しさとか、いろいろ難所がでてきた。
連夜、営業終了後のトリウッドに通い、テスト撮影。もうほとんどトリックアートをワンシーンずつ拵えるような作業になるのだな、と気づいたときには、撮影前日だった。
やばかったけどみんなそれ以上に楽しそうで、連日飲みにいった。初めてつくる自主映画みたいだった。自主映画なんだけど。

撮影は9月1日から12日。撮休を除いて11日間の撮影。ロケ地はほぼトリウッド。
普段京都に住んでいる自分は、ロケ地から最寄りの、サウナカプセルミナミに泊まることにした。
予算のためじゃないです。なんだか下北沢を離れたくなかったのと、若者たちの物語だからそのころの気分に戻ろうとしたのと、あと単に遅刻が怖すぎたのと。
周りからは普通にホテルに泊まって休んでくださいと言われたけど、実際これは大正解だった。撮影期間の12日間は、途切れることなく映画の中にいたみたいだった。

ここまでがなんと前置きです。
これは撮影日誌の連載だからです。
明日からは日記形式になり、「君は映画」のクランクインからクランクアップまでを、当時のメモに書き加えるかたちで書いていきます。

『君は映画』、6月19日から公開。目標より2分短くなり、68分の映画になりました。
映画を観て、映画に観られてください。

◆作品情報

作品タイトル:『君は映画』
出演:伊藤万理華 井之脇海
藤谷理子 金丸慎太郎
前田旺志郎 菊池日菜子 金子鈴幸 三河悠冴 今井隆文 / 尾関高文(ザ・ギース) 高佐一慈(ザ・ギース)
石田剛太 酒井善史 土佐和成 角田貴志 諏訪雅 永野宗典
監督・脚本:上田誠
製作:トリウッド ヨーロッパ企画

配給:

TOHO NEXT

、トリウッド

公式HP:https://www.europe-kikaku.com/

kimiei

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Instagram

@kimihaeiga0619

FILMAGAでは上田誠監督による『君は映画』制作日誌を連日公開予定。

◆予告

(C) ヨーロッパ企画/トリウッド 2026

※2026年6月16日時点の情報です。

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